
先日、マレーシアのセパン・インターナショナル・サーキット(SIC)で、日本のトップカテゴリーのひとつであるスーパーGTのレースが開催された。実に12年ぶりとなったスーパーGTセパンラウンドは2日間で7万人以上を動員する盛況ぶり。サーキット側も、セパンで開催されるレースの中では現状MotoGPマレーシアGPに次ぐ規模のイベントになっていると言うほどだ。
そんなセパンもかつては、F1とMotoGPという4輪と2輪の世界最高峰レースを共に開催していた時期がある。しかしF1マレーシアGPは2017年を最後に開催終了。最後のグランプリから早8年が経とうとしている。
motorsport.comはスーパーGTの現場で、SICのCEOであるアザン・シャフリマン・ハニフ氏への独占インタビューに成功。その中で、気になるF1開催復活に関してのセパン側の見解を尋ねた。
セパンでF1マレーシアGPが開催されたのは、同サーキットがオープンした1999年。政府が主導する大規模プロジェクトのひとつであり、サーキットの建設からF1への開催権料の支払いまで、政府が完全バックアップした。
「当時の首相が主導した3つの大きな建設プロジェクトがあって、ひとつ目がKLIA(クアラルンプール国際空港)、ふたつ目が(ペトロナス)ツインタワー、そして3つ目がサーキットだ」
「SIC開業を通してのビジョンは、F1とMotoGPというふたつのカテゴリーによってモータースポーツを根付かせることだった。これらのレースの開催に向けては、政府がコースや施設を建設して、開催権料も支払った。我々はチケット販売や、パドッククラブなどの会場スペースの提供をメインに、加えて水やTVモニターなどの備品をチームに提供するなどして収益を得ていた」
そう語ったハニフCEO。ただF1マレーシアGPは2017年を最後に開催を終了することになるが、その理由は当時も語られていたように、チケット収入の落ち込みによって、政府からの財政的支援を得られなくなったからだ。
「我々は財政的負担の理由からF1の開催を終了することを決断したが、その時の判断材料となったのが、チケット販売の数だ。最後のレース(開催終了を決断する前の最後のレース、つまり2016年大会)の売り上げ枚数の少なさが悪影響を与えた」
ただハニフCEOは続けて、F1マレーシアGP終了以降のF1が大きな成長を遂げていることにも言及した。
「今はリバティメディアが運営を引き継ぎ、彼らが積極的なプロモーションをしている」
「特にNetflixの『Drive to Survive(邦題:栄光のグランプリ)』は、F1の舞台裏には色々なことが起こっていて、感動的なドラマがあることを知らしめた。ただ速いクルマを見るだけでなく、ドラマを楽しむという要素が広まった。例えばルイス・ハミルトンとマックス・フェルスタッペンのライバル関係だってそうだ。それに、最近F1の映画も公開になった。これもF1を世間に知ってもらう上で本当に素晴らしいことだ」
今はアメリカ市場を中心にして、世界的なF1ブームが巻き起こっている。ハニフCEOの言うNetflixのF1ドキュメンタリーは、その火付け役だ。そしてアメリカに限らず各国のグランプリで観客動員が増加しており、新たにF1開催を希望する国が列をなしているような状況だ。そんな“F1バブル”とも言える現状によって、F1マレーシアGPを復活させるという機運は高まっていないのだろうか?
その問いにハニフCEOは、「F1の復活にあたっては、ふたつの側面について考えないといけない」と冷静に答える。まずひとつ目が高額な開催権料。そしてふたつ目が、年間24戦が開催されているレースカレンダーの枠に入り込む余地があるかどうかだ。そして彼は、「このふたつの要因から、現時点ではF1を復活させるという計画はない」と言う。
「もしF1を復活させるのであれば、政府や関連企業たちと内部で協議をしなければならない。どうやって資金を賄うのか? 公的資金なのか、他の国のように民間の資金なのか、もしくはそれらを半々か……ただ完全に民間から資金を募るのは実際問題相当難しい。開催権料はとんでもなく高いからだ」
「それに、もしF1復帰を真剣に検討するならF1側との話し合いも必要になるわけだが、彼らにユニークな体験を提供できるかも重要になる。たとえばシンガポールGPなんかは、コンサートなどのエンタメが強いことで有名だね。それに今度はタイが2028年からカレンダー入りするという話だ。タイには地元のドライバー(アレクサンダー・アルボン)がいて、エナジードリンクでお馴染みのレッドブルにもゆかりがある」
「もしF1をここでまた開催するなら、シンガポールやタイとどんな差別化ができるのか? そういうことをしっかり考えないといけない。それに、自国の才能あるドライバーの育成もしないといけない」
「質問に答えるとしたら、マレーシアにF1を復活させるには、ユニークさを出すような非常に戦略的なものと、開催権料を賄う方法が必要になる」
ハニフCEOが言うように、これだけF1開催の需要が高まっている中で、東南アジアだけで3つのグランプリを開催するというのは難しいかもしれない。2020年にSICのCEOに就任する前はマレーシアの国営石油企業ペトロナスで働いていたハニフCEOは、最近シンガポールはじめストリートコースでのレースが増える中で、常設サーキットでのレースは“独自色”になり得るかもしれないとの考えから、2017年、2018年頃にF1に対してシンガポールとの隔年開催を提案したこともあったというが、実現には至っていない。
ただSICは、国民にとって馴染みのあるバイクを使った最高峰レースMotoGPに加え、同国で人気のJDM(カスタムされた日本車)とも親和性の高いスーパーGTを復活させることで、マレーシア国内のモータースポーツ熱をさらに高めようとしている。同国のモータースポーツ振興において、F1が“マスト”だった時代は過ぎ去っているのかもしれない。
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