
角田裕毅(レッドブル)にとってF1モナコGPは、厳しい展開となってしまった。終始前を行くマシンに抑えられ、動くに動けない状況となり、17位でフィニッシュするしかなかった。戦略的には12位は目指せたかもしれないが、おそらくそれが精一杯だっただろう。抜けないモナコの餌食になってしまったひとり……と言えるだろう。
今年のモナコGPは、特別ルールにより決勝レース中に3セットのタイヤを使用することが義務付けられていた。
角田は12番グリッドからスタートすると、1周目にバーチャル・セーフティカーが宣言されたタイミングで1回目のピットストップを行なった。この段階では、他にも複数のマシンがピットインした。
角田は1回目のピットストップを終えたマシンの中で先頭に立ち、しかも前方が開けたクリーンエアの状況につけた。ペースは良く、すぐにピットストップを1度も終えていないマシンの隊列に追いついた。この時点では、角田にとっては有利な展開になったと、多くの人が考えた。しかしそうはなっていなかった。
逆にこの角田のポジションは、レーシングブルズのアイザック・ハジャーのサポートとなったかもしれない。
当時レーシングブルズは、ハジャーが6番手、チームメイトのリアム・ローソンが8番手を走っていた。ここでチームはローソンに著しくペースを落とさせ、後続を抑えさせた。抑えられたのはウイリアムズ勢、メルセデス勢、ニコ・ヒュルケンベルグ(ザウバー)、フランコ・コラピント(アルピーヌ)などである。
■後続を完璧に抑える戦略

このグラフは、F1モナコGP決勝でのハジャー以下のドライバーたちのポジションを示したものである。赤丸の部分で、ローソンがしっかりと仕事をして、後続を抑えているのがよく分かろう。
本来ならば抑えられたドライバーたちは、早々にピットストップしてもよかったはずだ。しかしそこには、既に1回目のタイヤ交換を終えていた角田がいた。彼らは、ピットストップしてしまえば角田にポジションを奪われるだけだったので、動くに動けなかったのだ。
結局ローソンは完璧なサポートを行ない、ハジャーにポジションを落とさず2回のピットストップを行なわせるだけの隙間を提供した。
ただ当時、ローソンは捨て駒にされたように見えた。ハジャーがピットストップ義務を消化し終えた段階で、ローソンはまだ1度もピットストップを終えておらず、既にピットストップを済ませていた角田よりも前でフィニッシュするのは不可能に見えた。
しかしここで救世主が現れた。ウイリアムズ勢の2台である。ウイリアムズ勢は、ローソンの後ろにアレクサンダー・アルボン、カルロス・サインツJr.の順で並んで走っていた。ハジャーがピットストップ義務を消化し終え、ローソンがペースを上げた際、アルボンはこれについていったが、サインツJr.はこれをサポートするために後続を抑える役目を担った。まるでレース序盤のローソンのように。グラフ上の青丸の部分である。
これによりアルボンは、やはり順位を落とさず2度のピットストップを消化。9番手のポジションを確定させた。
しかしウイリアムズの素晴らしいのはここからだった。アルボンをサポートしたサインツJr.を見捨てなかったのだ。
ピットストップ義務を消化したアルボンは、サインツJr.を先行させ、代わりに後続を抑える役割を引き継いだのだ。それが実に無駄なく行なわれているのが、グラフの緑色の部分でよく分かる。紫の実線で示したアルボンと、紫の点線で示したサインツJr.が、瞬時に入れ替わっている。これでサインツJr.も2度のピットストップを順位を落とすことなく済ませ、それが完了した後には再びアルボンを先行させ、ダブル入賞を事実上確定させた。
レース終盤にはメルセデスも同様の戦略を採り、アンドレア・キミ・アントネッリに角田以下を抑えさせ、ジョージ・ラッセルの2回のフリーストップを与えたが、それでも11位止まり。その後、アントネッリを救済するだけの時間はなく、彼は完全に捨て駒となってしまった。メルセデス勢にとっては屈辱の結果となった。
さて角田は結局レース終盤に2度目のピットストップを行なうことになり、前述の通り17位でのフィニッシュとなった。ここからはタラレバであるが、レース序盤のVSCの際に2度のピットストップを消化し終えていれば、もう少し違った展開があったかもしれない。
ただ、レーシングブルズやウイリアムズが採った戦略を打破するのは難しかったはず。彼らにああ動かれては、12位以上を目指すのは難しかったかもしれない。
■来年も同じ事態が起きる?

こちらのグラフは、決勝レース中の中団勢のペース推移を示したものだ。角田は(紺色の実線)は、ほぼタイヤ無交換でレースを走り切ったものの、終盤にペースを上げることができている(赤丸の部分)。つまりペース自体は十分なモノがあった。それでも、”抑え込む”という戦略を打破することはできなかった。本人からすれば、フラストレーションが溜まるレースだっただろう。なにもこれは角田に限ったことではなく、抑え込まれたドライバーの誰もが同様のフラストレーションを抱えていたはず……いや、抑えることに徹したドライバーも、同じ想いだったかもしれない。
モナコGPの昨年と今年のレースを見て、コース上でのオーバーテイクは不可能だということを、誰もが改めて認識された。そして1台に捨て身の戦略を採らせることのメリットも、十分に分かったはずだ。おそらく来年のレースでも、同じような戦略を採るチームが出てくるのは間違いないだろう。
来年からはレギュレーションが変わり、マシンも若干小さくなる。しかしコースレイアウトは変わらないはずで、オーバーテイクがしやすくなるほど劇的な変化は起きない。
しかしそんな状況に手をこまねいているF1チームではない。おそらくいずれかのチームがいつか、抑え込まれ動けない……そんな状況を打破するための秘策を考え出してくるのではないかという期待を抱いている。
モナコでのF1はつまらない、モナコでF1をやるのはもう無理だ……そう切り捨てるのは簡単だ。しかし今回のようなレースになった場合、どう打開すればいいのか、その解決策を見つけ出してくるのも、F1チームだと言えるのではなかろうか。
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