
メルセデスが2024年シーズン用に作り出したF1マシンW15は、昨年型W14で悩まされた”意地悪な”リヤエンドの挙動に対処したマシンだと言われている。それと同時に、ルイス・ハミルトンが昨年問題だと声高に主張した、コクピットの位置についても修正が加えられたようだ。
ハミルトンは昨年、W14のトリッキーなリヤの挙動に度々悩まされた。そしてそれと同時に、コクピットのポジションが前すぎると度々指摘してきた。
2023年シーズン序盤、ハミルトンは次のように語った。
「皆さん分かっているかどうか知らないけど、僕らは他のドライバーよりもフロントホイールに近い位置に座っているんだ。僕らのコクピットは前すぎる」
「ドライブしていると、フロントホイールの上に座っているような感じがする。これはマシンをドライブしている時に感じる、最悪のフィーリングのひとつだ」
「それは実際にマシンの姿勢変化やその挙動を、どう認識するかが変わるということなんだ。より後ろ、マシンの中心近くに座っている時と比べて、挙動を予測するのが難しくなる。それが、僕が本当に苦労していることなんだ」
■コクピットが下がったのは、全体的な設計見直しのおかげ?

メルセデスが2024年シーズンに向けて開発してきたW15と昨年型W14と比較すると、チームはハミルトンの苦情に対応し、ドライバーの着座位置をより後方に移したことが分かる。
シェイクダウンで走行したW15の側方からの写真と、同じ角度のW14の写真を並べると、ドライバーのヘルメットが後方に移動している。その移動距離はおよそ10cm。これは小さな変化のように見えるかもしれないが、ホイールベースを維持したままこれに対応するためには、モノコックはもちろんのこと、燃料タンクやギヤボックスなど、全てを再設計する必要がある。
メルセデスは昨シーズン途中でゼロポッドを諦め、トレンドのダウンウォッシュスタイルへと移行した。昨年中は妥協的な設計変更だっただろうが、一からマシンを開発し直した今年については、ダウンウォッシュにしたことでラジエターなどの配置位置について余裕が出来たはず。W14ではモノコックに、ラジエターを収める窪みを設けねばならず、これがコクピット位置の設計の自由度を著しく引き下げていたのだ。
またそれと同時に、モノコックの幅を広げることが可能となり、燃料タンクも幅を広げて前後長を短くすることができているはずだ。
■マシンの挙動を把握しやすくなったのか?

なおゼロポッドを採用したことで、2022年と2023年のメルセデスのF1マシンは、側面衝撃吸収構造(SIS)をサイドポンツーン内に収めることができず、このSISを収めるためのウイング状のフェアリングが設けられていた。これも排除され、W15では他のマシン同様サイドポンツーン内部に収められた。
その他、リヤサスペンションがプルロッドからプッシュロッドへと変更。これも、再設計されたギヤボックスなどと共に、他の変更と連動したものであろう。
ハミルトンはW14のコクピット位置について苦言を呈したが、テクニカルディレクターのジェームス・アリソンは、この意見はマシンの弱点に対するハミルトンならではの表現だったと語った。
「ルイスは弱点について、自分が座る位置について話すことで表現している。ジョージ(ラッセル)がコクピットの位置について話すことはないが、このクルマには全く同じ酷さがあると語っている」
アリソンは昨年末にそう語った。
「その不安定さを適切に修正できたとしても、ルイスはフロントタイヤに近い位置に座っているため、コーナーのエイペックスが少し見えにくいということは気に入らないと思う」
「しかし実際に着座位置自体が、マシンの扱い方を認識するのを困難にするような、知覚的な問題を引き起こしているわけではない」
「彼が望む位置に座っていれば、扱いにくいマシンでも、もう少し正確にドライブできるかもしれない。しかしそれは、不快な部分を取り除くということだけ。良くないモノに対処するため、コクピットの位置を最適化するというモノではないのだ」
「我々は、マシンの扱いにくさを軽減することに重点を置いている。そして(昨年の)オースティンで投入したアップグレードは、その点に置いて穏やかな前進だったと言える。そしてちょっとした幸運があれば、2024年はより多くの前進をもたらすことだろう」
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