夕張石炭博物館「模擬坑道火災からの復活」炭鉱夫が踏みしめた道をたどる

長崎県の端島（軍艦島）や、島根の石見銀山が世界遺産に指定されるなど産業遺産が注目されています。

北海道では2019年に発生した火災で公開を中止していた「夕張市石炭博物館」の模擬坑道が修復され、7年ぶりに公開されたことがトピックになっています。

国策である産業を支えたのは、名もなき炭鉱夫たち。その当時にタイムリークしました。

目次

• 1. 石炭と共に栄え、石炭と共に衰退した街・夕張
• 2. 財政破綻の中で生き延びた奇跡の博物館
• 3. 夕張の歴史と炭鉱の記憶をたどりに行こう
• 4. 火災からの復活！模擬坑道に足を踏み入れる！
• 5. 失われた景色とそこにある思い出

1. 石炭と共に栄え、石炭と共に衰退した街・夕張

夕張は明治時代から日本有数の炭鉱都市として栄えました。戦後の高度経済成長期には国内エネルギーの中心を担い、人口は1950年代に約12万人に膨れ上がりました。

街が活気に満ち溢れた様子は映画「幸せの黄色いハンカチ（1977年公開）」で見ることができます。

エネルギー政策の転換により石炭の需要が減少し、繁栄に終わりが訪れます。1970年代以降は炭鉱の閉山が相次ぎました。

夕張市がとった政策は、観光とメロン栽培です。「バリバリゆうばり」のキャッチコピーのもと「石炭の歴史村」が整備され、大型ホテルやスキー場、遊園地を建設。夕張市石炭博物館は、その中核施設として開館しました。

2. 財政破綻の中で生き延びた奇跡の博物館

夕張市の財政難後は、遊具やレストラン、SL館など多くの施設が撤去や閉鎖される中、同博物館が閉館されずに残されたのは奇跡と言えます。

周囲はまるでゴーストタウン。それらを逆手にとって「圧倒的な廃墟感に負けずに、ドンドン進もう！」と自虐的なアピールをしています。

不遇な時代を耐え忍んだ「夕張市石炭博物館」ですが、近年は炭鉱遺産を後世に伝える施設として注目されています。2013（平成25）年に「郷土文化施設」となり、観光施設から文化施設に転換。

2019年4月18日の火災発生から閉鎖されていた模擬坑道の復旧工事は、文化遺産として修繕予算付けされました。

3. 夕張の歴史と炭鉱の記憶をたどりに行こう

まずは券売機で入館料を支払います。博物館本館1階には特別展示室、2階には常設展示室が設けられています。

取材当日は模擬坑道を紹介する特別展示が行われていました。昭和天皇を始め、多くの皇室の方々が訪れるなど、国内屈指の産業拠点だったことが伺えます。

2階の展示エリアでは夕張の歴史を現代から過去へとさかのぼる構成となっており、夕張の栄枯盛衰を実感することができます。博物館本館より先はトイレがないので出発前に済ませてください。

地下展示室へは、立坑ケージを模したエレベーターで降ります。炭鉱に入る際は、余計なものを持ち込まないようチェックされていたそうです。

捜検係の人形がとてもリアルで、いまにでも話しかけられそう。

扉が開くと、戦時中に造られた「採炭救国坑夫の像」のレプリカが出迎えてくれます。「北炭夕張鉱業所」の所長であった竹鶴可文氏がモデルと言われており、「ニッカウヰスキー株式会社」の創業者・竹鶴政孝氏のお兄さん。兄弟そろってビッグです。

地下展示室には、実際に坑内で使われていた機械や器具を展示しています。これらを通して、炭鉱技術の変遷や作業の様子を知ることができます。

ボタンを押すと当時の音声が再生され、リアルな採炭現場の雰囲気を感じることができます。

こちらの人形は、俳優・高倉健さんをモデルにしていると言われています。映画「幸せの黄色いハンカチ」で演じた島勇作は元炭鉱夫であり、この作品を通じて夕張が全国的に知られるようになりました。

「不器用な男」のセリフが有名ですが、器用に作業しています。

地下展示室の最後は、採炭機械ドラムカッターを見学します。以前はスタッフが解説と運転を行っていましたが、運転を繰り返すことが困難な状態になり、現在は特別な場合を除き映像での説明となっています。

4. 火災からの復活！模擬坑道に足を踏み入れる！

2019（平成31）年に火災が発生し、長らく見学不能となっていた模擬坑道に足を踏み入れます。レプリカなどではなく、実際に石炭を採掘していた坑道です。

現在は採掘されていない見学用の坑道であることから「模擬」と付けられています。

正式名称は、旧北炭夕張炭鉱模擬坑道。全長180メートル、最深部は地上から20メートル。100年以上前に実際の採炭用に掘削した坑道の一部で、稼働停止後は炭鉱職員の新人研修や救護隊の訓練場として使用されていました。

坑道掘進を再現した展示では、実際の石炭層に触れることができます。石炭層とは、地層の中で石炭がたくさん含まれている部分のこと。

太古の植物（シダや木のような植物）が大量に生えていた湿地が、長い年月をかけて地中に埋まり、圧力と熱で炭化しました。

夕張石炭博物館の公式ホームページには、石川館長がノリノリで書いたと思われる説明が掲載されています。

「運営経費の半分近くが電気代という博物館の運営には、皆さま方のご支援が不可欠」など鳴き落としが見られるなど、自虐を継続しています。

5. 失われた景色とそこにある思い出

石川館長は「私は"廃墟"という言葉が好きではありません。壊れかけた家屋や崩れた建物にも人々の思い出が詰まっているからです」と話します。

夕張は、仕事や遊びで何度も訪れた私にとって、なじみ深い場所です。しかし、かつてカレー蕎麦を食べたお店は今や更地となり、子どもと一緒に桜を見に行った商業施設も閉鎖されてしまいました。

現実の風景の向こうに、あの日の思い出が浮かんでは消えていきました。

夕張市石炭博物館

• 住所：夕張市高松7番地
• 電話：0123-52-5500
• 開館時間：4～9月 10:00～17:00、10月～ 10:00～16:00　※最終入場は閉館の30分前
• 休館日：火曜・冬期（11月上旬～4月下旬）
• 公式サイト：夕張市石炭博物館　　

All photography is by Masakazu Yoshida

関連記事