山スキーの世界を牽引してきたスカルパブーツだが、いま山だけでなくゲレンデでもよく見られる現象が起きている。スカルパの輸入代理店「ロストアロー」主催のBCスキー体験会に講師として参加していた藤川健に、その背景を教えてもらった。
愛称「フジケン」こと藤川健は、SKIMO(山岳スキー競技)日本選手権7連覇の実績を持ち、山岳ガイド、スキースクールのインストラクターという顔ももつ、スカルパのテクニカルレップである。
アルペン思考の強いスキーヤーにとって安心感がある

BC体験会の講師としてやってきたフジケンの足元は、スカルパの山岳スキーモデル「マエストラーレ」ではなく、ゲレンデ(アルペンスキー)と雪山(ATスキー)を兼用できる「4-クアトロプロ」だった。
「クアトロは、ゲレンデでアルペンビンディングに乗りながら、ツアー系のテックビンディングも使える『グリップウォーク』搭載モデルです。
もともとの発想は、歩きにくいアルペンブーツを歩きやすくすることでした。ソールをラウンドさせて、歩きやすくしています。ブーツひとつで、スキーを複数所持して、シーンに合わせて乗り換えたい人にマッチするブーツです」

ヨーロッパのスキーヤーは、ゲレンデも、バックカントリーも楽しむことが当たり前。
ゲレンデとレストランを行き来するには、ソールが固くてフラットなアルペンブーツでは歩きにくい。そうしたなかで、歩きやすいビブラムソールを採用した「マエストラーレ」などの山用ブーツが、スキーブーツのシェアを奪ってきた背景がある。
そこで、10年ほど前にビンディングブランド「マーカー」が開発したのが、この「グリップウォーク」だ。
「ゲレンデでアルペンスキーを続けてきて、これから山へ行きたいって人には、「4-クアトロSL」は大きな選択肢となります。ゲレンデスキーならではのガッチリとした操作感、ダイレクトなエッジングは、アルペン思考の強いスキーヤーにとって安心感がありますよ」

レベルの高い滑走技術が求められるスキースクールから、滑走がシビアなBCツアーまで、幅広くフジケンが愛用するモデル。ウォークモードのロックができて、衝撃による誤作動や兼用履が持つきしみを軽減してくれる。
https://www.lostarrow.co.jp/store/g/gSC24310001250
4-クアトロプロとマエストラーレ。どう使い分けている?
フジケンは、クアトロとマエストラーレをどう使い分けているのだろう?
「ゲレンデスキーのレッスンも、この4-クアトロ プロでやっています。それくらい滑走性能のポテンシャルが高い。昨今、ゲレンデでスカルパ・ブーツをよく見かけるようになった理由がここにあります。あと、滑走がシビアになる山へいくときは、よりダイレクトな操作感ができるクアトロを選択することもありますね」
本格的なBCツアーでもクアトロを使うときがあるという。たしかに重量は変わらない。「マエストラーレRS」が1,460g(27cm)なのに対して、「4-クアトロSL」は1,430g(27cm)。むしろ軽い。各メーカーが「グリップウォーク」搭載ブーツを展開しているが、スカルパのモデルは圧倒的に軽いと評判だ。

つま先が上がることで、足の運びをスムーズにして回転もしやすい。転倒したときに解放を促すプラスチックプレートが備わり、アルペンブーツの安全性はそのまま継承されている
一方、ウォークモードの可動域を見てみよう。両者とも61°と同じである。アルペンブーツは、剛性を高めるためにヒンジの支点の位置を高くする必要がある。しかし、高くなると可動域が狭くなる。低い位置でこれだけ性能を高いレベルでまとめているのは、靴屋としての技術力の賜物だと言えるろう。
「クアトロは動きがよくて、軽い。起伏の少ない山をガツガツ歩くなら、両者に優劣はないかもしれません。しかし、急登もあるような山ではやっぱりマエストラーレのほうが歩きやすい。斜面に対して、板もブーツもうまく捻れてくれたほうがシールが噛み、シビアなところも上りやすいことがあります。
クアトロは4バックルでガッチリしているから、逃げがない。キンッと剛性が高いと角になっちゃうので、急な登りやトラバースが少々つらくなります。だから、登りに関してちょっと弱い印象があります」
ブーツやスキーが柔らかいほうがシールがよく噛む。山岳スキー選手の藤川健ならではの興味深い考察だ。
「あと、クアトロはインナーとシェルが薄いので保温性はマエストラーレよりも劣ります。山中泊をするなど、山にどっぷり浸かった使用には少々不向きかもしれません」
普段使いの保温性に関していえば、フジケンは厳冬期の北海道で毎日のように愛用しているのだから日本国内だけで言えばクアトロは問題ないだろう。

「マエストラーレは山用のブーツなので、山にどっぷりと入って、雪洞泊とか山小屋泊とかするには最適。長期間履くことを想定し、足の浮腫み、高い保温性、快適性などトータルで考えたときのクオリティは素晴らしい」とフジケンは太鼓判を押す
https://www.lostarrow.co.jp/store/g/gSC24308001245
クアトロのもう一つの特徴は、ラスト幅がマエストラーレより2mm細い、100mmになったことだ。
比較的足幅が細いといわれるスカルパは、自分の足形には合わないと感じるユーザーは少なからず存在する。しかし、フジケンは言う。ラストの細さは、クアトロの短所ではなく、むしろ長所だと。
「クアトロは、シェルとインナーが薄いので細く見えるけど、見た目ほどラストは細くないというのが僕の感想です。スキーブーツだけに言えることではありませんが、ブーツってラストが広いと足のアーチが広がっちゃうので、体のポテンシャルが発揮できなくなります。
アーチが広がった状態で乗っているとだんだん疲労も溜まるし、ブーツ内で足が動いて痛くなったりする。アーチをサポートするって考えると、ポンって置いた足の幅よりも、ちょっと狭くしたほうが、アーチがキープされていい。それを痛いと感じてしまうか? ホールドされていると感じるか? の違いは、結構大きいと思います。
滑りの性能を求めていくと、ラストが細くなるのは定説。アルペン選手のブーツは、広くて98mmです。ラスト幅が細くなったことは、クアトロがアルペンレース用のブーツに近いコンセプトで設計されている証と言えるでしょう」

「4-クアトロSL」¥121,000 (税込)
ちょっと力が逃げてくれた方が扱いやすいから一般のスキーヤーには「4-クアトロSL」をおすすめするとフジケンはいう。
https://www.lostarrow.co.jp/store/g/gSC24303001245
クアトロは、2モデルある。フレックス120の「4-クアトロSL」と130の「4-クアトロプロ」だ。
「車のハンドルで例えると、レーシングカーは遊びがなくて、回した分だけタイヤが動きます。一般車には遊びがあって、その余白があるから運転しやすい。
『4-クアトロプロ』はレーシングカーのような遊びがないダイレクトな乗り味。だけど、ダイレクトなことが常にいいわけではありません。ちょっと力が逃げてくれた方が扱いはしやすくなる。それが『4-クアトロSL』です。
僕が一般ユーザーで、一足しか買えなかったら、『4-クアトロSL』を選ぶでしょう。でも、僕はゲレンデ寄りで使いたいので『4-クアトロプロ』を履いています。
山であれば、マエストラーレ。スキーブーツでも幅広く使い分けができることが、シューズブランド・スカルパの懐の深さですね」

スキーの道具が日々進化して、誰もがパウダーを滑れるようになった背景も「クアトロ」をプッシュしているという。
「パウダーを滑るために、板がより長く、太くなりました。ファットスキーをコントロールするには、フレックス100のマエストラーレだと少々柔らかい。クアトロのように剛性が高いと太いスキーでもしっかり滑れて、快適に歩ける。そんなブーツを市場が求めているのです」
4-クアトロの登場は、アルペンブーツのノウハウをもつスキーブランドへの挑戦状でもあった。「クアトロ」と時期を同じくして、スカルパはテレマークブーツも新しいモデルを生み出した。イタリアに本社と工場を置くスカルパの雪上での挑戦は、これからも続いていくだろう。
Profile

藤川健(ふじかわ・けん)
北海道生まれ、札幌市在住のプロスキーヤー、山岳ガイド。ロストアローのテクニカルレップ、札幌ばんけいスキー学校インストラクターなど、さまざまな顔をもつ。25歳でテレマークスキーと出会い、翌シーズンには世界選手権に出場。国内のテレマークレースでは総合優勝6回を誇る。SKIMO(山岳スキー競技)日本選手権7連覇。
立山~上高地の日本オートルート、大雪十勝連峰をワンデイで走破するなどスピードツーリングをライフワークとしている。その半生を綴った著書『SPEED TOURING スピードツーリング 山岳アスリート 藤川健の半生と記録』(横尾絢子/六花編集室)がこの冬発売された。
Instagram:@fujikawa.ken
Information
SCARPA(スカルパ)
公式サイト:https://www.lostarrow.co.jp/scarpa/
公式SNS:Facebook|X|YouTube
取扱い/㈱ロストアロー
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