与えられた環境よりも自分で工夫したほうが断然おもしろい
プライベートウォールが完成し、毎日のように登れるようになった。日中は絵の仕事をし、夕方2時間ほど登る。傾斜は130度の面一。幅360cm、高さ300cmほどの小さな壁なのだけれど、自分の好きなようにホールドを取り付けられるので、無限の可能性に満ちている。高校生のときになけなしのお金で買ったフランクリンクライミングのホールドや自作した木製のホールドを取り付ける。メトリウスのジブスなどはツルツルに磨かれていて、思いがけず当時のことを思い出した。25年のときを経て、ふたたびこれらのホールドのお世話になるとは。人生変わらないものである。
大小合わせて、プライベートウォールを作るのはこれで4度目である。思えば、クライミングジムに恵まれない生活を送ってきたものである。クライミングも絵も、そんな恵まれない(?)環境のなか、いわば反骨精神でやってきた。壁を作りながら、そんな心意気が蘇ってきたし、自分にはプライベートウォールでトレーニングするのがちょうどいい。与えられた環境よりも自分で工夫したほうが断然おもしろいのだ。そしてこのウォールにはクラックホールドを取り付けることを最初から決めていた。
自作のフィンガーサイズのクラックホールドを取り付けた
クラックホールドといっても一般的に販売されているものは多分ない。多くのジムではハリボテを組み合わせてクラックを作っていたり、壁そのものに最初からクラックが嵌め込まれていたりする。けれどそんな大そうなことをしなくても、木で作ってしまえば良いのだ。ドリルで角材に穴を空け、ノミで内側をきれいに削ってサンドペーパーで仕上げる。それをボルトやビスで取り付ける。それだけ。サイズは穴の大きさを変えれば良い。今回はフィンガーサイズのクラックホールドをいくつか作った。パッシブジャムが決められるのでそれなりの保持感はある。たったこれだけだけれど、いや、これだけのシンプルなものだから、指の入れ方によって随分とジャミングのきまり具合が変わってくるのがおもしろい。これからはパッシブが使えないクラックも作ろうと思っている。
これから雨のシーズンだし、7月からはカナダへクライミングトリップに出かける。トレーニングとしてはもちろん、登りに行けないストレスはずいぶん解消されるし、単に毎日登ることができてうれしい。日々の生活に楽しみひとつが増えた。
著者:ライター・絵描き・クライマー/成瀬洋平
1982年岐阜県生まれ、在住。 山やクライミングでのできごとを絵や文章で表現することをライフワークとする。自作したアトリエ小屋で制作に取り組みながら、地元の岩場に通い、各地へクライミングトリップに出かけるのが楽しみ。日本山岳ガイド協会認定フリークライミングインストラクターでもあり、クライミング講習会も行なっている。
https://www.naruseyohei.com
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