神戸市の中心地は、現在主に六甲山地の南側。神戸といえば海と山にはさまれた狭い坂の街というイメージがありますが、じつは内陸側にも広大な市域が広がっています。六甲山地の北側を東西に流れる山田川をはさんで、北側に位置するのが「丹生(たんじょう/にぶ)・帝釈山系」。
地下の深いところでマグマが固まってできた花崗岩の山である六甲山地と異なり、火山活動が由来の有馬層群という地質が特徴の山です。神戸の繁華街から少し離れていること、地質の違いで植生も少し異なることから、たまに訪れるととても新鮮な感じがする山域なのです。
神戸とは思えないのどかな山村風景の中を歩く
六甲山地を南北にブチ抜いたトンネルを通る、海側と北側山麓を結ぶ神戸市営地下鉄で谷上(たにがみ)へ。そこからさらにバスに揺られて丹生・帝釈山地の西側の麓を進み、「丹生(にぶ)神社前」というバス停で下車、ココから山上を目指します。

田んぼや畑が広がる中に、由緒のありそうなお屋敷が点在する静かな山村です。バス停名は「丹生神社前」ですが、山上に建っている丹生神社までは、登山道を歩くこと1時間。集落の中の道をたどって、登山口へ向かいます。山に入る手前に、古い石仏が祀られていました。

山上にある丹生神社は、仏教伝来より古い時代に創建されたと伝わる屈指の古社で、『播磨国風土記』には、神功(じんぐう)皇后が新羅へ出兵したとき、武器や船などに朱色の「丹」を塗れば戦に勝てるというご神託を受けたというエピソードが書かれています。
集落のはずれから、古い参道の雰囲気を残した道をたどって行きます。

丹生山へ直接登ると、ちょっと短すぎて物足りないコースになりそうなので、まずは東隣の帝釈山(たいしゃくさん)を目指すことにします。直接山上へ向かう参道と分かれ、トラバース気味に東側の沢へ。

六甲山地の花崗岩とはあきらかに違う石質で、濡れていたら滑りそうな感じ。少し上流に滝があるようなので、登山道を外れて沢を詰めてみます。

ちょっとした崖に、細い滝がかかっています。「梵天滝」です。しばし水音に癒されながらマイナスイオンを浴びましょう。元の道へ戻り、ふたたび山頂を目指して登ります。
登り詰めたところが、東隣の「稚児ヶ墓(ちごがばか)山」との分岐点。謎めいた山名に惹かれますが、今日は西へ進んで帝釈山へ向かいます。

低山ながら絶景の山頂部へ
尾根上の急な登りを標高差80mほどがんばると、パッと視界が開けたビュースポットに出ました。

丹生・帝釈山地は、明石海峡まで直線距離で20kmほどの内陸部にあります。海側にある六甲山地がじゃまをして、海面は見えないのですが、南西側を見ると広大な丘陵地の向こうに、淡路島の巨大な島影が浮かんでいます。ここから標高586m、丹生山系の主峰である帝釈山の山頂まではすぐです。

かつて、百済の王子が丹生山に明要寺というお寺を建てたとき、ここが奥之院だったそうです。帝釈天が祀られていたことから山名がつけられ、今はいくつかの石の祠が祀られているだけで静寂に包まれた地となっています。
山頂からは、東西に伸びている丹生・帝釈山地の主稜線を西へ。緩やかな下り道を進み、丹生神社のあるエリアへ。こちらは山頂からは景色が見えないのですが、境内の一角に南側が見える場所があり、木々のすきまから麓の集落などが見えています。

丹生神社の「丹生」とは、呉越より渡来したとされる丹生氏に由来しており、氏神「丹生都比売神(にうつひめのかみ)」を祀る神社です。「丹」=朱砂・辰砂=硫化水銀を表していて、丹生氏は水銀鉱業を生業とする一族だったとか。

往時は多くの人で賑わっていたかもしれない広い境内ですが、今はひっそりと静まり返っていました。
下山は「義経道」と呼ばれているルートから。
源平合戦で義経が通ったとされている道ですが、その前には福原遷都を敢行した平清盛が、〝西の比叡山〟として再興し、月参りで通った明要寺があったのもこのあたりだとか。

この地域は、今でこそのどかな山里の趣ですが、たびたび戦乱の舞台となったところ。明要寺は多くの僧兵を擁し、南北朝騒乱、源平合戦、湊川の合戦にも関わっています。
「丹生城址」の碑がありますが、織田信長の播磨攻略の一環、三木合戦の際には別所長治側に与し、兵糧補給ルートの拠点となっていたそうです。

たしかに、城があったような感じがする地形です。ここから南へ伸びる尾根をひたすら下っていくと、丹生山へのメインの登山口である衝原(つくはら)へ。

すぐ西側に「つくはら湖」という大きなダム湖があり、サイクリングロードも整備されていることから、少し前に駐車場の一角に「つくはらキャビン」というハイカーやサイクリスト向けの拠点ができました。
休憩スペースやトイレ、なんとシャワールームまで完備。バス待ちの間に一服するにも最適です。つくはら湖の周囲には桜がたくさん植えられているので、春にお花見がてらまた来てみたいと思いました。