2024.5.1

なかなか日本に帰れない!?  旅の本屋さんが選ぶ「今すぐ冒険に出たくなる本 vol.12」『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』  

旅の本屋「のまど」の店長が、店頭に並ぶ本のなかから、外にでかけてみたくなるキャンプ・アウトドア好きのための本を選びます。今回は、移住先を求めて旅する夫婦のユニークな旅の記録をご紹介。車中泊テクニックが参考になるかも?

ユーモアたっぷりの著者に魅了される本

本書は、楽園(移住先)を探すため、軽自動車〈Chin号〉に乗って夫婦二人で稚内からフェリーでロシアに渡り、モンゴルから中央アジア、イラン、コーカサス地方、ヨーロッパ、アフリカを足かけ8年彷徨う著者のお話。コロナ禍や紛争に見舞われていまだ日本に帰れないまま放浪の旅を続け、走行距離20万キロ以上に渡る軽自動車の旅の道中で起きた様々なエピソードをユーモアな文体で綴った旅エッセイです。

本書は2023年1月に発売され、アマゾンのレビューでもかなり評判のいい旅本なのですが、実は本の元になった石澤さんのブログ「旅々、沈々。」の存在は数年前から知っていました。コロナ禍の2020年頃に、緊急事態宣言が出てお店を臨時休業していた際に、サハリンの旅の情報をネットで探していたら、石澤さんのブログをたまたま見つけ、読んでみたら非常に面白くてハマってしまい、気が付けばほぼすべての記事をむさぼるように目を通していました。

安住の地を求めてスクーターを買う!?

そんな石澤さんが、ブログの記事を元に単行本化した本書ですから、面白くないわけがないんですよね。何が面白いかというと、まず、旅のスタイルがユニークです。石澤さんは、2005年頃から仕事を辞めて、奥さんと二人で海外暮らしが出来そうな場所を探すためにスクーターを買います。

アラスカからアルゼンチンまで横断したり、ヨーロッパやオーストラリア、ニュージーランド、東南アジアなどを走ったのですが、結局見つからず、気が付けば2015年に。そこで、真剣に探すということで、なぜか軽自動車を購入して稚内から船でサハリンへ渡り、そこから南アフリカの喜望峰までドライブするという、とんでもないプランを考えて8年間も旅をしていて、しかも今もまだ日本に帰国出来ないでいるのです。

旅の本屋をやっているので、個人的にこれまでにも色んな旅人を見てきましたが、ここまで面白い旅のスタイルを実行し続けている人は見たことがない気がします。

そんな軽自動車での旅では宿泊はどうしているのか気になると思いますが、旅の道中は基本は旅費を節約するために車中泊をしているとのこと。「Chin号」と名付けた軽自動車の中には横幅120cm、長さ150cmの組み立て式のベットが積んであって、適当な場所を見つけてクルマを駐車して寝るときは、長さが短いのでカバンと段ボールで長さを調整したり、軽量化のために枕を持ってないので、脱いだ服やズボンを丸めて枕替わりに使うといった工夫をしたりといった記述があるので、クルマの長期旅行で車中泊を考えている方は非常に参考になるはずです。

ハードな旅の思い出も笑いに変えて

また、石澤さんの文体が非常に軽妙で面白く、時に下ネタを挟みながら、テンポよく書き綴っているので、恐ろしすぎる公衆便所や各国の国境職員や警察官との飽くなき闘い、世界一美しい連れション、お金を消す両替屋など、もの凄い危険なエピソードや不幸な出来事も、どこか笑いを含んでいて、読んでいて思わず笑みがこぼれてしまうことが何度もありました。おそらく、自分たちの旅を読者の方にも面白がって欲しいという、石澤さんのサービス精神を体現しているような気がします。

結局、8年にも及ぶ楽園探しの旅は、コロナ禍やロシアとウクライナの戦争などの影響で、予定を大幅に変更することを余儀なくされてしまいます。昨年、石澤さんはモンテネグロに「Chin号」を置いたまま日本に一時帰国され、その間に当店を含めて様々な場所でトークイベントを開催したりしていましたが、9月頃からは再びヨーロッパに渡って、旅を再開するとのことでした。今後の旅が気になる方は、石澤さんのブログやSNSをチェックすることをオススメします。果たして海外で楽園を見つけて、無事に日本まで帰ってこれるのかなあ?

今回でこちらの連載は終了となります。これまでお読みいただき、ありがとうございました。

【データ】

■石澤義裕 著『今夜世界が終わったとしても、ここにはお知らせが来そうにない。』(2023年1月刊/WAVE出版)
■石澤義裕(いしざわ・よしひろ)
札幌市出身。2005年より、妻Yukoと移住先を探して世界一周中。スクーターや車で旅をするオーバーランダー。海外放浪リモートワーカー歴18年のデザイナー。2015年より、軽自動車で地球横断中。訪問した地域は120数カ国。海外キャンピング・車中泊は、50カ国以上。海外でのスクーター、車の走行距離20万キロ以上。

NHK「地球ラジオ」をはじめ、『BE-PAL. NET』(小学館)、『地球の歩き方web』、『The21オンライン』(PHP研究所)、日刊電気通信社『アントろピテクスエレクトロ人』など多くのメディアで旅の様子を発信。海外に古い家を買って、リノベしながら住みたい。
https://tabichin2.dtp.to

■評者 川田正和(かわた・まさかず)
1967年、神奈川県生まれ。香川県育ち。明治大学文学部卒。大学を卒業後、出版社に就職するもほどなくして退社。アルバイトでお金を貯めては世界各国への長期の旅を繰り返すうちに、旅行専門の本屋をはじめようと決意。書店員を経験した後、2007年、西荻窪に「旅の本屋のまど」をオープン。日本で唯一の旅行専門の本屋として国内外から注目されている。
http://www.nomad-books.co.jp/

出典: https://www.sotolover.com/2024/05/107496/
この記事を書いた人 川田正和

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