2024.4.30

万が一アクシデントが起きたら!? 「本当にあった」に学ぶ、登山のリスクヘッジ【vol.08 救助要請編】

ヘリコプター救助

管理された公園や施設で行うスポーツとは異なり、自然のなかで活動する登山などのアクティビティには、リスクがつきものです。想定外の天候急変や沢の増水、転倒や滑落、落石、道迷いもあるかも? フィールドでのリスクを避けるにはどうすべきか。このシリーズでは、筆者が実際に体験した実例も踏まえてリスク回避について解説します。

今回は、自力で無事に下山できそうにないアクシデントが起きてしまったときのことを考えてみます。救助要請が必要な場合とは!?

「登山は自己責任」だけど……

人工的な環境である都市部と異なり、自然のままの山の中には、さまざまなリスクが潜在しています。天候によっては、そのリスクがさらに高まる可能性もあります。

登山者は、そんなところへ好き好んで行っているわけなので、その行為が「自己責任」であるのは当然です。しかし、人に迷惑をかけてはいけないと無理をしすぎると、助かるものも助からなくなることもあります。命は助かっても、後遺症が残るような事態になったら取り返しがつきません。

自分やメンバーがケガをしたり、急病になってしまったときに、適切な判断によって、少しでもリスクを低減することが大切です。

自力下山ができない状況とは?

例えば、山道でうっかり転倒し、足にケガをしたとしましょう。軽いねん挫で、テーピングなどで固定して歩ける程度なら、仲間が手助けをしながら、自力で下山できるかもしれません。

しかし、ケガにしろ、急な体調不良にしろ、本人が自分で歩けない場合、それが大人であれば、仲間だけで無事に下ろすのは難しい場合が多いと思います。

また、ハチに刺されたり、ヘビに咬まれたりした場合、自力で歩かせると、症状を悪化させて危険な状態になる場合があります。ずいぶん前のことですが、筆者がスタッフとして引率していた登山教室の山行で、受講者の一人が転んで、足首を傷めました。

軽く転倒しただけなので、「どうせ捻挫やろ」と思ったのですが、本人が非常に痛がるので、やむなくスタッフの男性が交代で背負って降りることになりました。事故者は小柄な女性で、屈強な男性スタッフが複数名いたのは幸いでした。

なんとか登山口まで下ろして、タクシーで病院へ行って診察してもらったところ、骨折でした。

もしも、無理に歩かせようとしていたら(歩けませんが)、悪化して大変なことになったかもしれません。

外傷でも、病気でも、医師がいないところで、勝手な判断で軽く見てはいけないという事例です。

救助要請が必要なケースとは?

じつは、筆者は山の中で救助要請をしたことが過去に3回あります。1回目は、たまたま知人のパーティが事故を起こしたところに行き合わせて、動転している伝令役の代わりに救助要請の電話をかけました。

2回目は、引率中にメンバーが転倒し、頭を打って出血。止血処置をして様子をみたところ、足がふらつくとのことで、念のため救助を要請。

そして3回目は、恥ずかしながら自分自身が足を骨折したときです。骨折するのは初めてだったのですが、折れたことはわかったので、救助要請を即断。いずれの場合も、幸い携帯電話が通じたので、「消防署=119番」に通報しました。

119番に電話をかけたらどうなる?

119番にコールすると、電波が届いた消防署につながります(最寄りの署とは限りません)。管轄が違うところにかかってしまった場合は、転送してくれます。

まず最初に
「火事ですか? 救急ですか?」と聞かれます。

山の中でケガをし、自力で下山できないため救助してほしいことを伝えると、あとは必要なことを先方が訊ねてくれます。伝えるべきことは、事故者の状態と、現場の位置です。

「どこにいるのか」を伝える方法

山域によっては、救助要請のためのポイントを設定して、記号や番号を書いた看板が設置されているところがあります。

例えば、神戸市の背山である六甲山では、神戸市消防局が「つうほうプレート」を設置しています。この番号を伝えると、ピンポイントで位置を特定してくれます。

ちなみに、筆者はそれまで、講習中など山の中で「つうほうプレート」を見かけると、
「歩くときはこのプレートを意識して見るようにして、番号を確認しておくといいですよ」と、いつもみなさんに言っていたのですが、いざ自分がケガをしたときには、まったく見ていませんでした……。

幸い、主要な登山道上で、わかりやすい場所だったので、口頭で伝えることができたのでよかったのですが。

山域によってスタイルはいろいろですが、登山ルートが複雑で多いところは番号も複雑、少ないところでは、数字や文字だけだったりします。

地元の消防署が設置したものばかりではなく、単にルート上のめやすとして番号が書かれているところもありますが、それも役に立つと思います。登山道にこのような看板があるところでは、意識してみるようにしておくとよいと思います。

どこにいるのか説明できないときは?

近くに道標やルート番号、顕著な目標物などがなく、自分がいる位置を正確に伝えることができない場合は、スマートフォンで位置情報を確認します。

登山アプリを使っているなら、現在地の緯度経度を表示する機能があります。たとえば、YAMAPなら、活動中の画面で、黒い帯の部分を上にスライドさせると、小さい文字ですが、緯度経度が表示されます。ヤマレコなら、地図の左下に常時表示されています。

登山アプリがない場合は、スマートフォンに標準装備されている地図アプリ(グーグルマップなど)を開いて、現在地をタップすると、緯度経度が数値で表示されます。いずれにしても、通報する前にメモしておくといいでしょう。(通常、覚えられる数字ではありません)

救助を待つ間にやるべきこと・やらない方がいいこと

場所によりますが、救助隊はすぐにアクセスできるとは限りません。自治体によってはヘリが来てくれる場合もありますが、有視界飛行が原則なので、天候のいい昼間しか飛べません。

地上隊による救助の場合は、最寄りの車道から駆けつけることになりますので、長時間待たなければならない可能性もあります。そのような場合、収容されるまでの間に、症状を悪化させないことが重要です。

ケガをしているなら、出血があれば止血処置を。骨折が疑われるような場合は固定して、患部が動かないようにすると痛みが多少はましになります。

できるだけ安定した場所で楽な体勢を取り、雨や風が当たらないように工夫しましょう。出血が多いケガだと、失血のために体温保持ができなくなる場合があります。健常者が寒さを感じないレベルの気温でも、けが人や病気の人は、防寒対策が必要な場合があるのです。

さて、やってはいけないこともあります。

それは、通報に使った携帯電話の無駄な使用です。

「たいへんなことになった!」と、家族や友人に状況をいち早く伝えたい気持ちはわかるのですが、消防から折り返しの電話がかかってくる可能性があるので、通報に使った携帯電話は、なるべく使用しないこと。

また、バッテリーを無駄に消耗させないことも重要で、通話も通信もなるべく避けた方がよいです。

とくに、SNSへのカキコミなど、その時に必要ないことは、やめておいた方がいいと思います。気が動転していて、不適切な投稿をしてしまう可能性もないとは限りません。事故発生時の携帯電話は、あなたを守ってくれる大切な命綱です。大切に扱いましょう。

出典: https://www.sotolover.com/2024/05/106225/
この記事を書いた人 根岸真理

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