2026.3.20

アストン・ホンダの異常振動問題、国内レースの“クルマ作り”スペシャリストにはどう写った?「シャシー、エンジン、両者歩み寄らないことには……」

Lars Baron / Getty Images

 天才デザイナーのエイドリアン・ニューウェイが設計を主導した車体に、近年のF1で成功を収めてきたホンダが開発したパワーユニット(PU)を載せる。ファクトリーや風洞も最新鋭で、ドライバーのひとりは2度のF1ワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソ……そんな夢のような体制で2026年シーズンをスタートしたアストンマーティンは、目も当てられないような惨状となっている。

 アストンマーティンの今季マシンAMR26は、プレシーズンテストの段階で異常振動の問題が発覚。振動がバッテリーのシステムにダメージを与えてしまうなどのトラブルが発生し、ライバルの半分以下の周回数しか走ることができなかった。しかもその振動はステアリングを伝ってドライバーの手にもダメージが及ぶといい、レースディスタンスを走り切ることは難しいだろうと予想される前代未聞の状況で開幕戦オーストラリアGPを迎えた。

 開幕戦ではアロンソもチームメイトのランス・ストロールも、ライバルと競わずデータを収集することに専念。レース途中でガレージインし再びコースに出るという流れで、アロンソが21周、ストロールが43周を走ったが、いずれも完走とはならなかった。続く第2戦中国GPでも、ストロールは序盤にトラブルでストップし、アロンソは振動の酷さを訴えて途中棄権。アストンマーティンはホンダのお膝元で行なわれる第3戦日本GPを前に、決勝のチェッカーフラッグを受けることが一度もできていない。

 こういった状況から、パワーユニットサプライヤーであるホンダは“集中砲火”を浴びることになった。ホンダが形式上は2021年限りでF1から撤退し(※2022年〜2025年はHRCを介してレッドブル系チームにPU供給支援)、今季がF1再参戦初年度だったこと、そしてチーム代表も兼務するニューウェイがPU側に問題があると示唆するようなコメントをメディア向けに発したことも、批判に拍車をかけたと言える。

 ただホンダに不振の責任を全て押し付けることに異を唱える声も聞かれる。大前提としてエンジンとは必ず振動を起こすものであり、車体全体の振動が異常なレベルにまで増幅してしまうのは、様々な要因が絡んでくるからである。

 HRC(ホンダ・レーシング)の四輪レース部部長である武石伊久雄専務も、開幕前の会見で「揺れている原因は間違いなくエンジン」とした上で、「エンジンがどういう風に(振動を)アウトプットしてしまうのか、それを車体がどう受け止めているのかが重要」「PUだけではなく、複合的な要因で異常振動が起きるということもよくある」と説明しており、アストンマーティンの5名のエンジニアがHRC Sakuraにやってきて対策に取り組んでいることが明かされていた。

 日本のレース界にも、こういったレーシングカーのパッケージングの難しさについて造詣の深い人物がいる。そのひとりが、スーパーGT・GT300クラスに参戦する『GAINER』の福田洋介代表だ。

 GAINERは単なるレーシングチームとしての枠を超え、自社での車両製作も行なうコンストラクターでもある。2024年にはGT300クラスでは非主流の市販車モノコックをベースとしたフェアレディZを作り出し、2台目も完成した投入3年目の今季は開幕前テストから好タイムをマークしている注目チームだ。

 福田代表はアストンマーティン・ホンダが抱える問題について「結局は共振の話ですよね」と話す。

 “共振”とは、物体の固有振動数に外部から加えられる振動の周波数が一致することで、振幅が大きくなる現象のことだ。例えば地震によって高層ビルが大きくゆっくりと揺れる時があるのは、地震の周波数が建物の固有振動数と一致して共振を起こしているから。ブランコを自分の足で漕ぐと揺れがより大きくなるのも、コップを揺らすと中の水が大きく揺れるのも、共振によるものだ。

 フォーミュラカーはモノコックとパワーユニット、ギヤボックスが直付けされて一体化しており、それはF1マシンも同様だ。福田代表は、例えばモノコックとPUの固定点などによっても振動のメカニズムは変わる中で、PUとその周辺の構造物が偶然共振を起こしてしまうような周波数になってしまったのだろうと考察する。

 では、レーシングカーの共振を抑えるためには、どのようにアプローチしていくべきなのか? 短期的な観点で言えば、今からシャシーを再設計してクラッシュテストを受け直すというのは無理がある話だろう。一方で、パワーユニット側だけでの対策では限界がある可能性もある。福田代表は、「結局、両方が歩み寄らないことには解決しないですよね」と語る。

「振動のモーメント(かかり方)を変えれば共振点(共振が起こる周波数)は変わりますが、それも走ってみないことには分からないですね。タイヤがついてサスペンションがある状態、つまりシャシーが宙に浮いている状態でエンジンをクルマに積んで走らないことには共振が起こるかは分からないですし、計算なりでパッと弾き出せるものでもありません」

「それに、例えば『エンジン側ではここまでしか変えられない。シャシー側でここを変えてくれれば……』という点があっても、シャシー側が『そこは1ミリも譲らない』ということになれば、解決しません」

 さらに福田代表は、共振の問題はパワーユニットとシャシーのどちらかの質が悪いから起こる問題ではなく、単純に組み合わせによって生じるものだと説明。だからこそ重要なのは、チームのトップに立つ人間がどのようにしてパッケージングの取りまとめをするのかだという。

 福田代表自身も、スーパーGT車両の自社製造を急ピッチで進められたのは、自分が開発責任者としてプロジェクトをひとりでコントロールできたことがプラスに働いたという実感もあるのだという。F1のような大規模チームで様々な技術者や企業が入り乱れる環境では、統率をとるのは容易ではないだろう。

「結局全てが悪いところに噛み合ったんでしょうね。1個1個を見ていけば、どこが悪いというわけではないんです。元々振動が発生しているのがエンジンであり、そのエンジンの振動に対して、どこか(の周波数)が合ってしまった……ということだと思います」

「やはり重要なのはパズルを組み合わせる人間です。1個1個のピースには問題がなくとも、パズルを組み合わせたら問題になってしまった……そういった時に『ここのピースをこうしましょう』という整理ができる人間がいるかいないかが重要ですよね」

 ファンにとっては、失望の大きいシーズンスタートとなってしまったアストンマーティン・ホンダ。この荒波を乗り越えられるかどうかは、船頭の舵取りにもかかっている。

出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/gainer-on-aston-honda-vibration-issue/10806618/
この記事を書いた人 戎井健一郎

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