2025.8.14

シューマッハーに騙された! ”もっとも成功しなかったイギリス人F1ドライバー”ペリー・マッカーシーの物語。アンドレアモーダでF1に挑戦

Sutton Images

「イギリスで最も成功していないグランプリドライバー」

『Car』誌の1992年8月号には、見開きの右側のページに、そういう見出しが踊っていた。そしてその逆のページには、ひとりのレーシングドライバーの姿があった。ペリー・マッカーシーである。

 この企画記事では、幾多の困難を乗り越えながらも、ついにF1に辿りついたドライバーの姿が描かれていた。もっとも彼が契約したのは、F1の歴史上でも最低のチームと揶揄される、アンドレアモーダだったのだが。

 そして『Car』誌の9月号が発売される頃には、マッカーシーは彼にとって最後となるグランプリ・ウィークエンドに臨んでいた。

 とはいえその時点では、彼にはまだ一筋の光明があった。マッカーシーにはたくさんの友人がいたのだ。大勢だ。彼の支援者たちは、彼の「やればできる」という姿勢を高く評価した。それまでの成績は、さほど気にしないだろう。

 この記事を書いた故ラッセル・バルジンも、その支援者のひとりだった。

「マッカーシーを支援したのは、彼が並外れた才能の持ち主であり、次のアイルトン・セナになると思っていたからではない」

 バルジンはそう書いている。

「彼を助けたのは、彼だけが電話をかけてきて、声をかけてくれたドライバーだったからだ」



走らないアンドレアモーダ

Sutton Images


 1992年のベルギーGPは、ミハエル・シューマッハーがベネトンB192を駆り、初優勝したグランプリだ。一方その裏では、アンドレアモーダは解散。チームオーナーのアンドレア・サセッティが詐欺容疑で逮捕されたのがその原因だった。

 アンドレアモーダのマシンS291は、漆黒に塗られた美しいマシンだった。しかしパフォーマンスは低迷。チームの体制も、整っているとは言いがたく、2台のマシンを満足に走らせることもできなかった。ロベルト・モレノがモナコGPで奇跡的に予選を通過し、決勝に進出したが、それ限りだった。マッカーシーはこのマシンを初めて見た時、棺桶のように見えたという。そしてステアリングが真鍮製ならいいのにと冗談を言ったという。

 この1992年は、リ・アクティブサスペンションを武器にナイジェル・マンセルとウイリアムズが圧倒的な強さを誇ったシーズン。他のチームは、まるで太刀打ちできなかった。

 そのためどのチームも、アクティブサスペンションの開発に躍起になり、ウイリアムズを追いかけようとしていた。ベネトンも独自のアクティブサスペンションをテストしていたが、空気が油圧システムに混入してしまい、マシンの挙動が不安定になるという問題を解決できずにいた。

 チームは実際にシステムを搭載したマシンを走らせ、熟成を図ろうとした。しかし、いきなりシューマッハーを乗せてしまうと、その不安定な挙動をシューマッハーが嫌い、システム自体がお蔵入りになってしまう可能性があった。それを避けるためにチームは、アレッサンドロ・ザナルディをテストドライバーに起用し、アクティブサスペンションの開発のほとんどを任せた。

 しかしシルバーストン・サーキットでのテスト直前、ザナルディは体調不良となり、テストに参加できなくなってしまった。そこで代役として白羽の矢が立ったのがマッカーシーだった。

ベネトンを代役でテストドライブ

LAT Images


 マッカーシーは電話を受け、翌日にはサーキットに到着。彼はその年、アンドレアモーダに所属していたもののF1マシンをほとんど走らせていなかった(前述のように、アンドレアモーダはチーム体制が整っておらず、モレノのマシンだけを走らせ、マッカーシーはフリー走行すらほとんど走れないというレースが続いたのだった)にもかかわらず、非常に良いペースで走ったという。しかし彼は、ひとつのミスを犯してしまう。それは、もっと速く走るために、シューマッハーにアドバイスを求めてしまったのだ。

 苦労して手に入れたスピードの秘密を、喜んで明かすようなレーシングドライバーなど、まずいないのに……。

「ミハエルに尋ねたんだ」

 そうマッカーシーは言う。

「『どうやって1周を走っているんだい?』とね。すると彼は、サーキットを1周歩いて案内してくれた」

 しかしマッカーシー曰く、シューマッハーは以前聞いたことのあるようなことしか言わなかったという。

「私はこう言うだけだった。『そうそう。そうだね。ああ、僕もだ。うんうん』」

「でもマイケルは、こう言ったんだ。『僕はブリッジ・コーナーは全開で行くよ』と。その時は私はこう言った。『いやいや、それは無理だろう。ずっとそうしようとしてきたけど、どうやったってうまくいかないさ』」

「それでもマイケルは、『あのコーナーは全開で攻める』と言い張った」

全開でいけ!

Rainer W. Schlegelmilch


 ブリッジコーナーとは、かつてのシルバーストン・サーキットのレイアウトに存在していたコーナー。旧メインストレートに繋がるインフィールドセクションの手前に存在した、高速の右コーナーである。しかもこのコーナーは上り坂にあったためブラインドコーナー。あわやという事故も度々起きた。後にアビーにシケインが追加されたため、ブリッジコーナーの通過速度は低下したが、それまでは技術と度胸のバロメーターであった。

「本当に衝撃を受けたんだ」

 シューマッハーの話を受け、マッカーシーはそう語った。

「『彼にできるなら、僕にもできる』と思った。でも心の中では『できない!』と叫んでいた。試してみたんだけど、マシンがあまりにも大きく動いてしまったんだ」

 マッカーシーは約290km/hでブリッジコーナーに突っ込み、突然の急激なオーバーステアにも見舞われたという。

「失禁しそうになったよ」

「ブルース・リーのカンフーよりも、速く手が動いていたんだ」

しまった! 騙された!

Sutton Images


 ピットに戻り、マッカーシーはシューマッハーのレースエンジニアに、言い訳を並べ立てた。そのレースエンジニアとは、パット・シモンズである。

「私は『パット、タイヤの空気圧を確認してくれないか? 何かがおかしいと思うんだ』と言った。彼は空気圧をチェックすると戻ってきて、マシンの横に跪き、ニヤリと笑ってこう言った。『それで、ちょっと調子が悪かったみたいだね?』と」

 そしてマッカーシーは、証拠を突きつけられた。

「おかしいな。テレメトリーを見ると、290km/hで逆にロックしているんだが?」

 シモンズはそう言ったのだと言う。

「マイケルのせいだ。彼は僕に、ブリッジは全開で行けると言ったから、僕もやってみたんだ」

 するとシモンズは、くすくす笑いながら説明した。

「確かにマイケルは、ブリッジを全開で抜けていく。ただそれは、燃料搭載量が少なくて、予選タイヤを履いている時だ。君は中古のレースタイヤだし、タンクには半分も燃料が入っているじゃないか」

 その時、マッカーシーは自分が騙されていたことに気付いた。

「彼がわざとそうしたのかどうかは分からないよ。でも彼は、私を奮い立たせた。そして結局は、私が馬鹿みたいに見えてしまった」

「でもそれが私の性分だったんだ。レーシングドライバーとしては、ああいうことがあると、突き動かされる。どうして彼があんなに速かったのかを理解できなかった。でも、もっと自分を信じるべきだった」

 アンドレアモーダがグランプリシーンを去った後、マッカーシーには再びグランプリに挑むチャンスは訪れなかったが、ウイリアムズFW15Cのテストを担当するなどした。

 その後2002年から、イギリスのBBCで自動車番組『トップギア』が放送された。この番組には名物とも言える覆面ドライバー『ザ・スティグ』が登場するが、その初代はこのマッカーシーが演じていた。

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出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/how-michael-schumacher-made-top-gears-the-stig-look-like-an-idiot/10750523/
この記事を書いた人 Stuart Codling, Stefan Ehlen

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