
2025年シーズン開幕前から大きな話題を呼んだ、スーパーGTの”真夏の”富士スプリントレースが終了した。土日の2日間で、それぞれ練習走行、予選、決勝を行なう盛りだくさんのレースウィークとなったが、初めての試みだったこともあり現場ではチームやドライバーから課題も指摘された。
今年2月の大阪オートメッセのトークショーで、スーパーGTのシリーズプロモーターであるGTA(GTアソシエイション)の坂東正明代表が初めてその構想を明らかにしたスプリントフォーマットだが、この構想は大会主催者である富士スピードウェイの発案・リクエストだったという。シーズン中の定例会見等でGTA側からその詳細がなかなかアナウンスされなかったのも、そういった事情が関係していたものと思われる。
結果的に今回は全車ノーウエイトとなり、2クラス混走レースとGT500・GT300それぞれの単独レース、計3本のスプリントレースが実施された。特にGT300クラスは単独レースが実施されたことで普段以上にフォーカスされ、上位争いのバトルも白熱。多くの車種、タイヤメーカーが入り乱れる群雄割拠のクラスの良さが活かされていたようにも感じる。
GT300のレース2で勝った藤井誠暢(#777 D'station Vantage GT3)も、ドライバーひとりで戦うというスプリントを楽しんだとコメントした。
「スーパーGTはふたりでやるレースですが、ドライバーはひとりでレースを楽しみたいというか、自分で好きにセットアップして走りたいという人が多いと思います。そういう意味でも、自分次第で勝負できるレースは面白いという印象です。色々大変でしたが、意外と楽しみました」
GT500に関しては、2日間を通してトヨタ勢が上位を独占。普段この時期のレースは上位陣にサクセスウエイトが搭載されており、各車両の真のポテンシャルはある意味ベールに包まれた状態での戦いとなるのだが、今回ノーウエイトとなったことで、ホンダ勢、日産勢にとってはGRスープラのパッケージとしての完成度の高さをまざまざと見せつけられる形となった。
(参考までに……今回の富士スプリントでのメーカー別総獲得ポイントは、トヨタ60点、日産11点、ホンダ5点。それぞれ参戦台数に差はあるが、1台あたりの平均ポイントを算出して比較するまでもないだろう)
元来、ハンデ制を採用することで「多くのチームにチャンスがある」のがスーパーGTであり、そのカラーが様々なメーカーやチームにファンを作ってきた一因とも言える。その点では、ノーウエイトの大会がひとつ増えたことは、現在強さを見せるトヨタ勢の独走をさらに助長することになり、ライバルメーカーのファンにとっては当然面白くないだろう。ただ、あくまでフラットな視点から見れば、異例のフォーマットがスープラの強さを生々しいまでに映し出したというのも、ひとつの“ドラマ”と捉えることもできる。
前述の通り、今回は2クラス混走でのスプリントと各クラス単独でのスプリントを両方開催することで、土日のレースに変化をつけた。1号車au TOM'S GR Supraのドライバーふたりのコメントを借りると、混走の35周レースを走った坪井は「(通常の大会の)ほぼ1スティントという感じで、ドライバーとしてやらないといけないことは変わらない印象」と話したが、GT300のトラフィックもない中で50分間フルプッシュでトップを追いかけ続けた山下健太は、「こんなラップタイムで30周走ることなんて今までないので、みんな体力的にも疲れていると思う」と語った。
■スケジュールは要改善か
これまでと異なる試みによって新鮮な発見も多々あった富士スプリントだが、スケジュール面に関しては改善すべきだという声で、パドックの意見がほぼ一致していたように感じられる。
多くのチームやドライバーが指摘したのは、2日間のスケジュールの過密さ。前述の通り、今回は土日それぞれで公式練習、予選、決勝を実施するフォーマットとなったが、そこに併催のFIA F4も入り込んでくるため、スーパーGTの公式練習は両日8時半からのスタートに。そしてお昼前後に予選を戦い、ピットウォークが終わればすぐにスタート進行を迎える。そして夕刻にレースが終わると、ドライバーは取材対応やキッズウォークでのファン対応、メカニックやエンジニアは土曜であれば翌日に向けた整備や準備、日曜であれば撤収作業などで夜遅くまで仕事をすることを強いられる。
メカニックなどのチームスタッフはセッション開始2時間前にはサーキット入りしているところが多いと聞くが、この過密スケジュールの中、6時過ぎから仕事を開始して休む間もなく夜まで働き詰めという点は、ドライバーからも心配する声がいくつか聞かれた。
坪井はレース1での会見で、次のように述べていた。
「このスケジュールだとちょっとメカさんが可哀想かなと思います」
「見ているお客さんに楽しんでもらえたらそれが一番なのですが、チームを見ているとお昼も食べずにずっとメンテナンスしているので、この暑さの中では酷なスケジュールだと感じました。フリー走行を金曜日にやるとか、そういう対策をしていただけると、チームの人は倒れなくて済むかなと思いました」
また、同じく「1日のスケジュールがタイトすぎてメカさんも大変ですよね」と話す100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTの牧野任祐は、フリー走行の終盤に行なわれる各クラス10分間の専有走行の時間を予選に置き換えれば、セッションがひとつ減って負担も軽減されるのではと話した」
「フリー走行が終わった後、別に予選の時間をとったわけですが、フリー走行の専有走行の時間を予選にすれば良かったと思います」
「そうすれば間の時間(インターバル)も多少取れますし、決勝に向けてのセットアップ変更の時間や、ピットウォークの時間も余裕を持って取れるようになると思います。わざわざ予選の時間をとっているから、みんなバタバタになってしまいます」
このような声はGTAの耳にも当然入っている。坂東代表は定例会見の中で、過密スケジュールなどの懸念事項は“来年に向けて”しっかりと吸い上げていきたいと述べた。聞くところによると、現状は来季もスプリントを継続する方向で話をしているようだ。
「あまりにも内容が密になっており、練習、予選、決勝、それにセットアップ……いつ飯を食えばいいんだ、寝る暇もないと。2デイ開催というあり方について、中身をもう少し考えてくれというチームの意見が出ています」と坂東代表は言う。
「ちょっと詰めすぎなところも感じるので、そこは来季に向けて取り組んでいかないといけません。課題は色々ですが、スプリントに対するみんなの評価を聞いた上で、それを集約して、聞き流すことなく、反省をきちんとして、来季に向けてスプリントレースをどういう風にするかを考えていきたいです」
「カメラマンなどの関係者にとってより効率的なもの、お客様が楽しんで帰ってもらえるもの、そして自分たちがやって良かったと思えるレース作りをしなければいけません。またご意見を頂ければと思います」
ADVERTISEMENT
ADVERTISEMENT