2025.7.15

鈴鹿サーキットのF1日本GP、その成長を支える協力者たち……それこそが彼らの財産

Mark Thompson

 日本でのF1人気が、今以上に伸びる可能性があるのだろうか?

 前回の本コラムでは、鈴鹿サーキットを運営するホンダモビリティランドの担当者の話として、日本国内には生まれてからこれまで、F1にほとんど触れてこなかった層がかなり多くいると予想されると書いた。そういう人たちは「昔流行ったF1」ではなく、「なんだかすごく速いクルマが走る、非日常の新しいエンターテインメント」として、F1を捉えてくれるのではないかという期待があるという。

 彼らに対しては、F1日本GPを活用する企業が増えることで、目に触れる機会が増えるというのが、鈴鹿サーキットでのF1日本GPの持続を目指す、ホンダモビリティランドのひとつの考えだ。

 そのホンダモビリティランドのビジネスマーケティング部には3人のスタッフがいて、日々駆けずり回っている。大変な忙しさだ。ただ、彼ら3人が孤立しているわけではない。もちろん社内のサポート体制はあるが、外部にも多くの援軍がいる。

 大学教授だったり、他のビジネスに従事している人だったり……その援軍に加わっている人たちは多岐にわたる。

 ビジネスマーケティング部を束ねる上甲哲洋氏は、彼らについてこう説明してくれた。

「F1が好きだというビジネスパーソンやスポーツマーケティングの専門家だったり、コンサルティングの方、大学院の先生だったり……彼らは、鈴鹿でのF1が好きだから、F1日本グランプリを盛り上げることに協力したいと言ってくれています」

「その人たちにビジネスだったりプライベートだったり、広いコミュニティの中で発信していってもらって、F1が好きなビジネスインフルエンサーだったり、経営者とどんどん繋がっていって、日本GPをみんなで盛り上げよう……そういうコミュニティが色々なところで出来ているという状態です」

 そういう援軍とも言える人たちは、今の日本では、F1は「伸びシロしかない」と豪語するという。

 曰くこれまでの日本GPは、「ビジネスでこう活用できますよ」という活動はほとんどやってこなかった。そのため、営業活動をやればやるほど、新たな層にリーチできる可能性は増えるはずだというのだ。

 ただそれも、多くの周辺の人たちのサポートがあってこそ為せる業。彼らがいたからこそ、今年の日本GPの金曜日に鈴鹿サーキットで実施された”ビジネスカンファレンス”には、74社130名が参加し、F1日本GPを体験した。そしてそのほとんどが、これまでホンダモビリティランドとは繋がりがなかった企業だ。

 前出の上甲氏は、これまでのホンダモビリティランドは「社内の力でなんとかしなければ」という想いが強すぎたかもしれないと明かす。

「変な言い方になってしまうかもしれませんが、そういう周りの助けも借りなければいけないと思いました。我々はそれまで、我々だけの力でやらなければいけないという風に思い込んでいた部分があったと思うんですよね」

「もちろん社員の皆さんの協力も絶対に必要ですけど、自分たちでやっていくというのが創業してからのアイデンティティみたいなところがありました。でも、新しいビジネスを生み出す時には、やっぱりある程度外部の方の力を借りなければいけません」

 F1は今、世界中で人気が沸騰している。映画『F1/エフワン』も公開されたことで、その人気にはさらに拍車がかかるかもしれない。



■鈴鹿サーキットにとって、F1の価値とは?

Motorsport.com / Japan


 しかし今の日本では、F1の露出はお世辞にも多いとは言えない。それでも価値があると言えるのか? ホンダモビリティランドとしては、F1のどこに価値を見出しているのだろうか?

 上甲氏は「正直分からない」としつつも、次のように語った。

「ひとつ言えるのは、F1は規模が大きく、色々なことがありすぎるということです」

「BtoBのビジネスフィールドとしての価値もあるし、ファン向けのコンテンツとしての価値もある。そしてほぼ全世界を網羅しているコンテンツです。我々として、強みを絞り込めていないというところはあります」

「企業の方でも色々な課題だったり、強みがあると思います。F1の持つ広告露出だけではない価値をご理解いただき、そこにどうマッチしていくのかを、我々は探していかなければいけません。そして全ての企業に同じ提案すればいいという話ではなく、各企業の課題解決や経営戦略を踏まえたパートナーシップをご提案しなければいけないと思います」

「ただ先ほどF1は世界的に人気が上がっていると言いましたが、アジアに対してはまだリーチできていないところがあります。ですので日本から、アジアにF1のムーブメントを作るための発信ができたら……ハードルはすごく高いですが、そこにもチャレンジしていけたらいいと思っています」

「長く”F1不毛の地”と言われていたアメリカの状況だって一瞬にして変わってしまったわけですから、やるべきことをやればしっかり変わっていくと思っています」

■全てが”ビジネス”になる重要性

Clive Rose / Getty Images


 前述の”援軍”とも言える人たちは、今は”好き”という理由だけで、日本GPの盛り上げに協力してくれている。それもこれも、”F1”が持つ魅力であり、財産なのだろう。F1に関われることが幸せであるのだ。

 しかし、ずっとこのままではいけない。もちろん”好き”が根底にあるのは素晴らしいことだが、それもしっかりとビジネスにならなければ。

 ただ上甲氏が言う「やるべきこと」をやれれば、その協力者たちの動きもしっかりとしたビジネスになることだろう。将来的にはそうならなければいけない……もちろんそんな進言は、関わっている皆さんにとっては愚問であろうが。

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出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-2025-japanese-gp-future-suzuka-circuit-column2/10740671/
この記事を書いた人 田中 健一

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