
FIA(国際自動車連盟)で会長を務めるモハメド・ベン・スレイエムは在任中、独裁的な政治スタイルで物議を醸してきた。メルセデスF1を率いるトト・ウルフ代表は、“鉄拳”による支配を否定しなかった。しかし利点がゼロだったというわけではないと認めた。
FIAは、世界における自動車の振興を司る組織だ。しかしその一環として世界中のモータースポーツを統括しており、むしろそのモータースポーツ統括の方が、今や主な役割のようになっている。ベン・スレイエムは2021年末にFIA会長に就任して以来、モータースポーツの統治改善に力を入れてきた。その中では”言葉狩り”でドライバーと衝突し、新規F1チーム入札については関係者と対立するなどした。ウルフ代表とも意見が合わないことがあったが、ここ数ヵ月で緊張関係は和らいだようで、全面的ではないものの、その手腕の一部については認めているようだ。
「彼が鉄拳で支配していることは否定できない」
ウルフ代表はオーストリアGPの週末、選ばれた地元メディアに対してそう語った。
「彼は誰にも指図されない。それは利点でもある」
FIAの“過激発言禁止令”は導入当初、大きな批判を浴びたが、4月には国際モータースポーツ競技規則の付録Bが改定され、過激発言の制限が記された。罰金は当初の1万ユーロ(約171万円)から5000ユーロ(約85万円)に減額され、スチュワードは初犯のドライバーに対して罰則を停止することができることとなった。一方でチーム無線など管理されていない環境での発言には例外が設けられた。
批判も多いこの規制だが、ウルフ代表は全面的に支持している。特にF1ドライバーは若いドライバーやファンにとって模範となる存在であることを考慮する必要があると考えている。
「彼の過激発言に対するスタンスは正しいと思う」とウルフ代表はベン・スレイエム会長について語った。
「無線で叫ぶドライバーの多くは英語を母国語としていない。フランス人やイタリア人のドライバーが無線で『Go f*ck yourself(くたばりやがれ)』と言って、それが普通だと思っているのなら、おそらくカート時代から耳にしていた言葉なのだろう。しかしそのドライバーの母国語に直訳すれば、ショックを受けるはずだ」
「子どもたちが無線を通じて、他人を侮辱してはいけないことを学ぶ必要があると思う。(無線の先にいる)エンジニアには家族がいて、彼らは自分の父親や夫がF1ドライバーと共に働いていることを誇りに思っている」
「もしドライバーがそんなふうにエンジニアに対して暴言を吐いたとしたら、それは良くないことだ。残念なことに、ジュニアカテゴリーでは既にそういうことが起きている」
またウルフ代表は、現在カートレースをしている息子ジャックにまつわる個人的な体験から次のように語った。
「8〜10歳の子どもはプロのように話す。彼ら(F1ドライバー)はロールモデルで、会長がこの件に関して強気の姿勢を示しているのは良いことだと思う」
またウルフ代表は次のように続けた。
「過激な発言と侮辱をどこで線引きするかは議論の余地がある。レース中、我々はドライバーたちの“気持ちのゴミ捨て場”でもある。彼らはホールトゥホイールで時速300kmを出している。肉体的にも精神的にもギリギリの状態だ。しかし問題はそこじゃない」
「ストレスを発散するのは構わない。良くないのは、それが個人的な罵倒に変わる時だ。そこで一線が引かれる」