2025.7.6

【分析】ブリティッシュウェザーは予測不能! F1イギリスGPで考えられる戦略パターンと注意点

Erwin Jaeggi

 F1イギリスGPは、まさに天候次第の状況になっている。決勝日の朝に行なわれたFIA F3のフィーチャーレースは、レース中に雨が降ったり止んだりのコンディション……雨脚が強まりすぎたことで、赤旗中断となるシーンもあった。

 イギリスの天気は、まさに予測不可能。F1の決勝も、雨に祟られる可能性も、そして完全にドライで行なわれる可能性もある。

 ただひとつ確かなことは、気温と路面温度は低いだろうということ。本稿では、その上ドライだったならば……という条件で、決勝の戦略を分析してみる。

 シルバーストンは、タイヤへの負荷が大変厳しいコースである。その高速コーナーは、タイヤのショルダー部とサイドウォールに大きな負荷をかける。ストウやコプスでは特に大きな負荷がかかり、タイヤが変形。これにより、タイヤは激しく発熱することになる。

 ただ路面温度が25度以下になるようであれば、本当に心配しなければいけないのはタイヤのオーバーヒートではなく、グレイニングである。つまり路面温度が低いことで、タイヤが作動温度まで発熱せず、コーナーで横滑りしてしまう……これによって表面が削れてしまい、グレイニングが生じてしまうのだ。このグレイニングが激しければ、タイヤの物理的な摩耗は大きくなり、それがタイヤのライフに大きな影響を及ぼす。

 ピレリのモータースポーツ責任者であるマリオ・イゾラによれば、決勝レースでは1ストップが2ストップよりも2〜3秒速くレースを走破するというシミュレーション結果が出ているという。しかもここシルバーストンはオーバーテイクが簡単ではないため、1ストップを選んでコース上のポジションを重視するという考え方を採るチームもあるだろう。

 しかし1セットのタイヤで長い距離を走ってしまうと、タイヤの摩耗が進み、最終的には完全摩耗してしまうという可能性がある。これをマネジメントできれば良いが、それが難しいと判断すれば、2ストップを選んだ方が無難であろう。

 イゾラは1ストップならばミディアム-ハードと繋ぐことになると言う。一方で2ストップならば、ミディアム-ハード-ハードもしくはミディアム-ハード-ソフトとなる。ミディアムを2セット使う戦略が一例としてあがらないのは、ミディアムを2セット残しているドライバーが誰もいないからだ。

 一方でアストンマーティン、ウイリアムズ、レーシングブルズ、ハースの4チームは、ハードタイヤとミディアムタイヤをそれぞれ1セットしか残していない。そのため、1ストップで走り切るか、あるいは最終スティントでソフトを使う戦略を採るしかない。ただソフトタイヤは、イゾラ曰く10〜14周が限界であるため、第2スティントまでにどれだけペースを落とさずに周回数を稼げるかが重要になる。

 なおこのイギリスGPで、各ドライバーが最も労わらなければならないのは、左フロントタイヤだ。高速の右コーナーが多数存在するため、アウト側に位置する左側、その中でもフロントタイヤに激しく荷重がかかるからである。

「左フロントタイヤが制約になるだろう。それは摩耗の面であり、デグラデーションに関しては対処可能なはずだ」

 そうイゾラは説明する。実際金曜日のFP2での各車のロングランは、いずれのタイヤでも安定しており、デグラデーションも少なかった。

「ミディアムタイヤはうまく機能していた。昨年と比べて、持ち込まれているタイヤが1段階柔らかい(今年はC2〜C4の組み合わせとなっているが、昨年はC1〜C3という最も硬い組み合わせだった)ことを忘れないで欲しい。今年のミディアムは昨年のソフトだが、うまく機能していた。ハードタイヤは確かに安定したタイヤで、タイヤマネジメントにも問題はない。気温が低い状況でも、ウォームアップに問題はなかった」

 なおミディアムとハードの差は、路面温度が40度以上になった金曜日に計測されたデータが基になっているという。日曜日の気温が低いままであり、午前中に雨に見舞われたことでコースコンディションが変化することを考慮すると、ふたつのタイヤの差は拡大することになる。

「気温が低いコンディションでは、ハードタイヤのグリップは、初日よりも僅かながら低くなる可能性がある。ハードとミディアムのパフォーマンス差は1周あたり0.7秒程度だったが、ハードのグリップが低くなれば、この差がもう少し大きくなる可能性がある」

「そしてレース中は、ペースをマネジメントすることによって、通常はその差が小さくなる可能性があることが分かっている。数値は小さいものの、気温の影響で、ふたつのタイヤの差が大きくなる可能性があることを考慮する必要がある」

 雨となった場合には、当然ながらインターミディエイトタイヤが活躍することになる。昨年のデータを見れば、インターミディエイトタイヤは強力なグリップを発揮するものの非常に柔らかく、コースが乾くと途端にオーバーヒートし、グリップを失うという傾向にあった。

 いずれにしてもイゾラが提案した通り、路面温度が下がれば、できるだけ柔らかいタイヤ……ただソフトタイヤの摩耗が進むと考えられることを考慮すれば、ミディアムタイヤで、できるだけ長い周回数をこなすことが重要であろう。

「もし雨が降り、レーススタート時の路面が完全にドライではなかった場合には、ハードよりもミディアムを履いてスタートした方がはるかに良いだろう。なぜなら今回のように変わりやすいコンディションでは、明らかにミディアムタイヤの方がグリップが高いからだ」

 ただ前述の通り、午前中に行なわれたFIA F3はウエットレース。しかも豪雨と言える状況だった。これで路面コンディションにどんな影響が及んだのか……走ってみるまで誰にもわからない。そして、F1の決勝で雨が降るのかも……。

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出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/strategy-corner-how-teams-will-tackle-cold-conditions-and-possible-rain-at-f1s-british-gp/10739807/
この記事を書いた人 Jake Boxall-Legge/田中 健一

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