
アイルランド出身の19歳、若きアレクサンダー・ダンの人生は、あっという間に様変わりした。2022年にイギリスF4を制し、マクラーレンの若手ドライバー育成プログラムに加入してからわずか12ヵ月。ほとんど無名のFIA F3シーズンを送っていた彼は、FIA F2タイトル争いのメインプレイヤーとなった。
そして何より、ダンは今年のオーストリアGPのフリー走行1回目でチャンピオンチームであるマクラーレンからF1公式セッションデビューを果たし、栄光への階段を一歩一歩踏みしめている。
「特に昨年からの状況変化は早かった」
ダンはそう振り返った。
「たとえ困難な状況にあったとしても、ただ落ち着いて自信を持ち、自分にできることをやり続けようと最善を尽くした。僕はそれを誇りに思っている」
「今年は正しい状況に戻ったことが示されている。マクラーレンが僕に与えてくれたチャンスに非常に満足しているし、F2での調子にも満足している」
好調なF2シーズンを送る2025年も、ダンが挫折を経験しなかったというわけではない。モナコ戦では、レーススタート時に11台が絡む玉突き事故を引き起こし、ランキング首位の座から転落。さらにネット上では激しい誹謗中傷にさらされ、一時的にソーシャルメディアから身を置くということもあった。
しかしそうした出来事も、今やリヤビューミラーの中。バルセロナ戦でF2ランキング首位に返り咲いたダンは、オーストリアGPのFP1でランド・ノリスの2025年F1マシンMCL39に乗り込み走行プログラムを実施し、4番手タイムをマークした。
「正直なところ、これはモータースポーツあるあるだと思う。長い間絶好調で、本当に上手くいっている状況でも、小さなミスをひとつでも犯せば、みんなに文句を言われる。正しいことをすれば、みんなが親友になってくれる」とダンは言う。
「ソーシャルメディアは残念なことに、世界で一番良いモノではない。ドライバーとしては、無視するしかない。ソーシャルメディアで話すのが好きな人たちは、適切な意見を持ち合わせていないことがよくある。でもバルセロナに戻った時、そして今回のFP1では、全てをコース上で証明できたから良かったよ」
■F1が持つ無限の能力
ダンはオーストリアGPでのFP1出走に向けて、マクラーレンの2023年マシンでプライベートテストを行ない、シミュレータ作業を重ね、万全の準備を整えていた。それでも、1時間のセッションで役目を果たし、マクラーレンのアンドレア・ステラ代表から「印象的としか言いようがない」という評価を与えられた後は、自分自身の頬をつねる思いだったという。
「セッションの最初、(ピット出口のシグナルが)グリーンになるのを待つ列に並んでいた時、僕の後ろにはルイス・ハミルトン(フェラーリ)がいたんだ。本当にクールなことだ」とダンは笑った。
「コースを走っている時に、スタンドがファンで埋め尽くされているのを見るのは、僕にとっては非常に特別なことだった。僕にとって特別な瞬間だったし、一生の思い出になるはずだ」
また実際のF1走行についてダンはこう語った。
「正直なところ、F2からF1に飛び込んでFP1を走るのはそれほど難しいことじゃなかった」
「(F1への)ステップアップは、ステップダウンよりもずっと楽だった。もちろん、ドライビングスタイルの違いはあるけど、F1マシンはグリップが高く、マシンが無限の能力を持っているように感じるんだ」
「予想していたよりもずっと自信があったし、快適だった。ランドが戻ってきた時のデータを集めるために、色々なことを試していた。それから予選想定走行をしたけど、実のところ新品ソフトを使用するとは予想していなかった」
「その多くは、マクラーレンがどれだけ僕に準備の機会を与えてくれたかに起因している。テストやシムをたくさんやって、ランドやオスカー(ピアストリ)も僕を少し助けてくれた。速く走ることが最終的な目標ではなかったけど……速く走れて嬉しいよ!」
そして、チャンピオンチームとの密接な関係が自身をより良いドライバーに成長させてくれたとダンは考えている。
「密接な関係になればなるほど、ドライバーとしてより多くのことを学び、成長することができた」とダンは説明した。
「F1マシンに乗る前にシミュレータ作業を実施した時、そしてF1を離れてF2に戻った後も、すぐにより良いドライバーになれたと感じた。マクラーレンでは、ドライバーとして色々なことができるんだ」
ノリスとピアストリがマクラーレンと長期のドライバー契約を結んでいることから、ダンが来年以降すぐに同陣営でフルタイムのF1シートを得られる可能性は非常に少ない。
またダンは現在、マクラーレンのフォーミュラEチームでリザーブドライバーを務めており、来月のベルリンテストにも参加する。ただ既報の通り、マクラーレンは今シーズン限りでフォーミュラEから撤退する、
しかしF2タイトルに手を伸ばすダンは、次のステップを心配する前に目の前のミッションに集中すると誓った。ダンはオーストリア戦のフィーチャーレースを制したリチャード・フェルシュホーにランキングのリードを許し、さらに技術的な問題で失格となったことでその差はさらに広がっており、今は追いかける立場だ。
「全てを自分でコントロールすることはできない」とダンは自身の将来について語った。
「もしこれ(FP1)にまた参戦する機会があれば、いい仕事をすることが最大の目標だ。そしてF2では、今の調子を維持して、できれば今年の終わりにチャンピオンになることが最大の目標だ。それだけに集中している」
「僕のゴールはまだF1だ。いい仕事を続ければ、F1でのチャンスがやってくると期待しているよ」
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