2025.6.27

一度はどん底まで叩き落された……ハースF1小松礼雄代表が振り返る“波乱万丈”の200戦。弱小チームを変えたのは「透明性」

James Sutton / Motorsport Images via Getty Images

 2025年のカナダGPでアメリカ籍のハースは、2016年のF1デビュー当時のカラーリングを使用して200回目のグランプリを祝った。その旅路でCOVID-19のパンデミックに見舞われ、10年という節目を迎える前に姿を消すと思われていた新興チームにとって、非常に意味のある通過点だった。

 ニキータ・マゼピンやミック・シューマッハーのルーキーと共に臨んだ2021年、ウラルカリのカラーリングに身を包んだハースはグリッド最後尾をひた走っていた。しかし小松礼雄による新体制のもと新たな道を切り開いた。そして、10チーム中最小規模のチームは、暗黒の日々から抜け出し、より健全な姿にまで回復した。

 イギリス、イタリア、アメリカに拠点を置くハースは2023年まで最下位に沈んでいたが、2024年以降は中団争いに加わるようになり、今季はドライバーを一新して地位を確かなモノとした。

「10年前のことを今でも昨日のように覚えています。マシンを作り、プレシーズンテストを行ない、メルボルンに向かいました」と小松代表は言う。

「その後は多くの浮き沈みがありましたが、我々が今ここにいることを本当に誇りに思っています。200レースを戦い、チームを改善し、中団グループで戦う。チーム全員が誇りに思うべきことだと思います」

「最初の高みは2016年の最初のレース、メルボルンです。マシンを完成させた時には、既に1シーズンを終えたような気分でした。それから我々がまだ何もしていないことに気が付きました。それからプレシーズンテストへ行き……あまり寝ていなかったので、あまり覚えていません。そこからメルボルンに行き、本当に死んでしまいそうでした」

「そしてロマン(グロージャン)と6位入賞を果たしたのは素晴らしかったです。続くバーレーンでは、アグレッシブな戦略で5位入賞を獲得しました。最高の瞬間でした」

「そしてどん底は、2019年に間違った方向へ進み始めた時です。マシンを修正することができませんでした。予選ではまずまずのマシンがありましたが、レースでは上手く行かず、シーズンを通して解決することができませんでした。それが最低点です。それからCOVIDの打撃があり、本当に何もできませんでした。しかし今、我々はまた良くなってきています」

 とはいえ、今のハースが順風満帆というわけではない。マシンはコーナリング中のバランスに持病をかかえ、F1史上最もタイトな中団グループ争いにより、成績は大きく変動している。

 実際、中国GPとバーレーンGPでは大成功を収めたハースだったが、エミリア・ロマーニャGPやスペインGPでは厳しい週末を過ごした。しかし2025年のエステバン・オコンとルーキーのオリバー・ベアマンは、7回の入賞を果たすなど、限りあるチャンスをこぼさず掴んでいる。

 オコンは古巣アルピーヌからの不本意な離脱を経て生まれ変わったかのように、静かに印象的な仕事をこなしている。ベアマンの場合、ルーキーらしい不安定さは否めないが、確かなスピードを持っている。

 今年のハースに浮き沈みがある理由について尋ねられたオコンは、次のように答えた。

「もし答えが分かっていたら、あのような状況になっていないよ。でも、いかにタイトな勢力図かというのを見ると、0.1秒速ければ4〜5位になれていたと思う」

「いくつかのサーキットではもっと苦戦しているし、マシンの弱点も見えてくる。チーム全体で取り組んでいるし、もう少し一貫性を探しているのは間違いない。アンダーステアは、僕らが苦しんでいる最大の問題だ」



■優秀な人材集めも激しい競争

Peter Fox


 黎明期からチーム代表を務めてきたギュンター・シュタイナーに代わり、2024年初めにトップへ昇格した小松代表は、透明性の高いコミュニケーションによる“デタラメ・ゼロ”文化を浸透させたと評価されている。

 これまでも小松代表は常に、ハースはF1最小規模ながらチーム内に適切な人材がいると主張していた。F1という競争の激しい業界において、十分な魅力を提示し、人材を確保することは一筋縄ではいかない。

 小松代表が、ハースのモーターホームを狭いユニットから、チーム待望の新しい2階建てユニットに変更したのも、より魅力的な環境にするための一部なのだ。

「優秀な人材を集めること、そしてスタッフをとどまらせることは常に難しい」と小松代表は言う。

「だから全てが重要なんです。この新しいモーターホームについて訪ねてくる人もいます。直接は関係ないように見えるかもしれませんが、結局は関係あるんです。社用車、ファクトリーの環境、サーキットでの環境、どんなフライトを選ぶのか。全てが重要で、あらゆる面で違いが出るほど大きな競争です」

 2026年には11番目のチームとしてキャデラックがやってくる。ハースに次いでふたつ目のアメリカ籍チームとなるため、人材獲得競争は激化の一途を辿っている。アストンマーティンはシルバーストン・サーキットの向かいに最新鋭のファクトリーを建設し、レーシングブルズは親チームにあたるレッドブルのキャンパス内に空力ユニットを移した。

 小松代表が認めたところによると、ハースもイギリス・バンベリーにあるファクトリーをアップデートすることを“検討中”であり、その計画はマラネロのフェラーリファクトリーにあるイタリア拠点も関係している。しかし最新鋭のファクトリーを手に入れたからといって、直接的に勝利がもたらされるわけではない。

「ハードウェアだけの問題ではありません」と小松代表は説明した。

「チームとしてどうあるべきか、チームとしてどう取り組むか、チームとしてどう協力するかなんです。結局のところ、ハードウェアはハードウェアです」

「ファクトリーは箱です。素敵な箱がある方がずっと良いのは確かです。しかし、たとえ良い箱があったとしても、みんなが調和して働かなければ、前向きな職場環境を作らなければ、人は楽しく働けず、離れていってしまいます」

「純粋にハードウェアとコストだけを見ていては競争に勝つことはできません。どうすればより魅力的になれるのかを考える必要があります。ある意味、チームからより多くのパフォーマンスを引き出すか、というのと同じことです。全員が互いをサポートし合う必要がありますし、透明性も重要です」

「それがスタッフの定着に大きな役割を果たしています。以前チームを離れていたのに、また戻ってきたいと思う人が沢山いるんです。それはなぜか? 我々のチームで働くのが楽しいからです。それは本当に良いことです」

「良いことも悪いことも、チームとして理解し、チーム全体が魅力的かつ楽しい環境になるよう、改善を続けていく必要があります」

 ハースは他の9チームと同様に、2026年の新レギュレーション導入で始まるF1新時代に向けて、2025年シーズンにどれだけリソースを割くか、という課題に直面している。中団グループ争いでは特に、レーシングブルズが安定した速さを発揮し、ザウバーやアストンマーティンが改善を示し、アルピーヌが結果以上のポテンシャルを秘めているように見えることから、オコンは今年の戦いを早々に諦めるわけにはいかないと考えている。

「トリッキーな妥協であることは間違いない。しかし今年は非常にタイトだから、僕らの側にも大きなチャンスがあると思う」とオコンは言う。

「現時点で僕らは今年のマシンでプッシュしているし、できる限り改善しようとしている」

「チャンスが来た時に、それをモノにすることが重要だ。マシンが好調だったり、ペースがあったり、チャンスが訪れたりしたから、僕らは大量得点を掴めた。それは非常によかったね」

「でも僕らは頑張り続ける必要がある。レーシングブルズのマシンはとても速いんだ。今はザウバーもかなり速い。全チームがレベルアップしているし、バックマーカーやポイントに手が届かないドライバーはもういない。自分たちの仕事を完璧にやって、自分たちのことに集中し、改善し続ける必要がある。そうでなければ、置いていかれてしまう」

 ハースは激しい戦いの中にいる。しかし小松代表が指揮を執り、チームが再びポイントを狙える位置に浮上したことで、チームには春が訪れた。4年前、それは遠い夢のように見えた。

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出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/how-haas-plots-out-its-future-after-a-rollercoaster-200-f1-races/10735361/
この記事を書いた人 Filip Cleeren

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