2025.6.25

【コラム】シアターが1番身近なサーキット? 映画『F1/エフワン』IMAX版は全身で”浴びる”F1体験。制作手掛けたAppleの未来予想図

WarnerBros

 話題の映画『F1/エフワン』が6月27日(金)にいよいよ公開を迎える。IMAXでは新たなF1体験が得られるはずだ。

 ブラッド・ピット主演、『トップガン マーヴェリック』製作陣が再びタッグを組み、劇伴は伝説的なプロデューサーであるハンス・ジマーが担当し、7度の世界王者ルイス・ハミルトンがプロデューサーを務め、F1が制作に全面協力。F1界はもちろん、世界中で大きな注目を集める作品だ。

 映画の内容はやり手のベテランと荒削りの若手が文字通りぶつかり合いながらもチームの勝利を目指すという王道ストーリーだ。ここに求めるべきではないのかもしれないが、お涙頂戴な映画という訳ではない。しかしトップガン同様に、大迫力の映像が魅力のひとつと言える。

 幸運にも、通常版とIMAX版の両方を観る機会をいただけたので、その違いをお届けする。



デカいは正義

Sam Bagnall / Motorsport Images


 そもそもIMAX版は通常よりも縦横に広いスクリーンで上映される。ただサイズを引き伸ばしたというわけではなく、映画『F1/エフワン』はIMAX専用カメラで撮影されており、使用されているフィルムは通常の35mmの4倍の面積を持つ70mmの大判フィルム。それだけにフレームごとの情報量は多く、高解像度の映像が楽しめる。通常のアスペクト比に慣れていると、最初は少し違和感がある。しかし場内の照明が消え、映写機が回り始めれば、気づいたら気持ちはスクリーンの中。時速300kmの世界へと誘われる。

 また監督を務めたジョセフ・コシンスキーは、映像技術をトップガン最新作のさらに一歩先へと押し進め、劇中車には通常のF1国際映像で使用される画角の他に、遠隔操作が可能なSONY製の小型カメラを4基搭載し、生のスピード感を捉えた。視界いっぱいに広がる大迫力の映像を前に、ブレーキングのシーンで自分の足があるはずのないブレーキペダルを探していたのには顔が赤くなったが、まさにそれほどの臨場感を感じた。

 また臨場感において、音は欠かせない存在だ。IMAXでは強力な音響システムが採用されており、耳だけでなく、身体が震えるほどの音圧を肌で楽しむことができる。もちろん通常版でも大いに楽しめる。しかしモータースポーツ的な言い方をすれば、この映画から最高のパフォーマンスを引き出すセットアップはIMAX版だ。

 迫力や音、振動に匂い……レースの魅力を全身で味わうにはサーキットで体感するのが1番だと常々言われてきた。それは間違いではないが、サーキットは基本的に遠方に位置し、故にモータースポーツは身近な存在になることが難しいとされてきた。

 IMAXを通して感じた、視界いっぱいに広がる大迫力の映像と音、そして振動。匂いの再現は難しくても、これはサーキット体験にかなり近いのではなかろうか?

サーキットが家にやってくる?

Andy Hone / Motorsport Images


 今回の映画『F1/エフワン』制作にはAppleが協力している。6月に行なわれた毎年恒例のApple開発者会議(WWDC)では、冒頭で同社の上級副社長を務めるクレイグ・フェデリギが、映画に登場するAPXGPのF1マシンに乗り込み、カリフォルニアにあるApple本社屋上を駆け回るという映像が流れ、現在では正規店などでも大々的に予告映像が映し出されている。Appleにとっても、肝いりの作品なのだ。

 そのAppleは、F1放映権獲得に乗り出しているとも言われている。現在アメリカでの権利を持つESPNの独占交渉権は既に失効しており、2026年以降の権利獲得候補としてF1ドキュメンタリーを成功させたNetflixと並び噂されているのがAppleなのだ。

 アメリカ国内では5600万ドル(約82億円)から7200万ドル(約106億円)の興行収入を挙げると予想されている映画『F1/エフワン』の成功が、Appleの放映権獲得交渉を前に進める好材料となるはず。グローバルな放映権を求めているとも考えられているAppleにとっては、iPhoneを中心としたエコシステムも、多くの人にF1というコンテンツを届けられるプラットフォームがあるという意味で大きな強みだろう。

 ではAppleがF1の放映権を手に入れたら、どうなるのだろうか? もちろん、これまで通りのレース映像が楽しめるはずだが、彼らは後発ビジネスだとしても常に業界の”一歩先”を行こうとするだろう。映画『F1/エフワン』IMAX版は、そんなAppleが未来のレース観戦体験を変えるかもしれないという想いを抱かせてくれた、モデルケースのようなモノなのだ。

 というのも、既にAppleから販売されているVRヘッドセットVision Proなら、通常のレース映像をIMAX級の迫力で視聴することが可能となる。60万円以上もするこのデバイスを“気軽”というのは難しいが、アップデートによりデバイス間でコンテンツを同時シェアすることが可能となり、各家庭にまでサーキット体験を近づけてくれるだろう。

 既に映画『F1/エフワン』の宣伝もかねて、Vision Pro のアプリにはブラッド・ピットが走らせるF1マシンのコックピット視点を180度の8Kビデオ&空間オーディオで楽しむことができる“Hot Lap Immersive”というコンテンツが追加されており、IMAXと同様に視界いっぱいに広がるF1の世界を堪能できる。

 またiPhoneのApple TVアプリ上には、ハプティクス機能を使用した映画『F1/エフワン』の“体感型映像”も公開されており、エンジン音やクラッシュの衝撃を指から伝わる振動で楽しむことが可能だ。

 全てがF1放送に繋がるという訳ではないだろうが、将来的にVRとこうした触覚フィードバック機能を組み合わせるという可能性も指摘されている。VRを使用した迫力ある映像と空間オーディオ、そしてハプティクス機能搭載もしくはアクセサリーで迫力をブーストすることで、全く新しいF1観戦体験が生まれるはずだ。

 さて、最後に映画『F1/エフワン』のストーリーにも少し触れておこう。展開上、やはりハリウッド的な要素もあり、現実と乖離したシーンもゼロではないし、様々な出来事が次から次へとやってくる。しかし、そこはフィクションだと割り切る必要があるし、F1では何でも起こり得るというのはファンの皆様もよくご存知だろう。

 それでもレース映画としては非常に完成度が高く、不思議な映像表現も少ない。ファンだからこそ気づくことができる、興味深いディティールもあり、玄人なりの楽しみ方ができるはずだ。日本語字幕はレースファンでも違和感なく、レースを知らない方にも分かりやすい表現が用いられていた。字幕監修は、何と言っても元F1ドライバーの中野信治氏だ!

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出典: https://jp.motorsport.com/f1/news/f1-the-movie-imax-review-column/10735951/
この記事を書いた人 滑川 寛

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