
F1のフレキシブルウイングにまつわる問題は、数ヵ月前から議論の中心となってきた。そして先日行なわれたスペインGPの際に新たな検査基準が導入されたが、その結果、大きな変化は起きなかった。
この新たに導入された車検基準は、フロントウイングに許容されるたわみの量を厳しく規制するもの。シーズン開幕時には、リヤウイングに関するたわみを厳格化する車検が導入されたのに次ぐものだ。
この新基準の導入を熱望していたチームのひとつがレッドブルであった。レッドブルは、今季のマクラーレンの強さはこのフレキシブルウイングを最大限に活用しているからだと考え、新基準の導入を強く求めていた。しかし現実は、レッドブルの期待を打ち砕くモノだった。
結果的にチーム間の差は、新基準導入前と比べてほとんど変わらなかった。例えばフェラーリのルイス・ハミルトンは、新基準対策として新しいフロントウイングを開発せねばならなかったことは「カネの無駄遣い」だったと切って捨てた。
■マクラーレン、挙動は「予想通り」

新しい基準では、1000N(ニュートン)の力をかけた時に、許されるたわみの量が15mmから10mmに引き下げられた。どんな物質でも、絶対に変形しないということはありえず、ある程度のたわみが生じることは避けられない。ただそれを存分に解釈し、うまく変形するように形状や素材を設計することは可能。これによりF1チームは、ウイングで発生するダウンフォース量をコントロールし、パフォーマンス向上に繋げてきた。リヤウイングのフレキシブル性は特に最高速の向上に活かされてきたが、一方でフロントウイングのフレキシブル性は、コーナリング中のバランス変化を緩和することに寄与する側面が大きかった。
今回のスペインGPでは、一部のチームは新基準に適応した、新しいフロントウイングを導入した。そのため、基準が変わる前と後でのパフォーマンスを直接比較するのは実に難しい。
「我々の予想通りになっているかを見てみたいと思っていたが、実際予想通りだった」
マクラーレンのチーム代表であるアンドレア・ステラはそう語った。
そのマクラーレンをはじめとするいくつかのチームは、従来の基準の限界まで、ウイングのフレキシブル性を活用していた。それは明らかなことだ。しかしそんな中でマクラーレンは、エミリア・ロマーニャGPのFP1の段階で、対策が施された新しいフロントウイングを先んじてランド・ノリスが試していた。チームによればこの時、大きな違いは認められなかったという。
「空力柔軟性の変化に関する数値を見ると、ダウンフォースと速度に伴うダウンフォース量の変化は、僅かなモノだった。だから、影響は比較的小さいと考えていたんだ」
「イモラでこのウイングをテストした時、ランドに『違うウイングだ』と伝えていなかったら、おそらく彼は気付かなかっただろうと思う。シミュレータでも検証したが、数値的な違いはほぼゼロだった」
「だから今回のレースに向けて発効された技術指令により、隊列の順序が変わるとは予想していなかった。お金の無駄かどうかという点については、実際に検討したわけではない。技術指令は以前から存在していたから、(新基準のウイングは)以前から計画されていたんだ」
■悪影響を受けたチームもあった?

ただ空気抵抗に対する影響は「無視できる程度」だったとしても、微妙な影響を受けたマシンもあったようだ。そういうマシンは、高速コーナーではオーバーステア、低速コーナーではアンダーステアに陥りやすくなった。
そのためこれらの領域でバランスの問題を抱えていたマシンは、今回の変更によって状況が悪化しただろう。しかしラップタイムには大きな影響はなかった。
影響が少ないことは、シミュレーションではかなり以前から分かっていたはずだ。では、なぜ一部のチームは、新基準によって隊列に大きな変化が及ぶという期待を煽り続けていたのか。なぜそんなことをしたのだろうかということは、大いに疑問だ。
「F1には、万事を解決する魔法の弾丸があると信じようとすることもあるかもしれない」
そう語るのは、メルセデスのトト・ウルフ代表だ。
「しかし今回の場合は、そうではなかったということだ」
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