
5月9日(金)、ニュルブルクリンク耐久シリーズ(NLS)のドライバーたちは、シリーズ第3戦を前にテストデーを実施したが、そこでスイスのエミール・フライ・レーシングに注目が集まった。
チームはテストに向けて、“フランツ・ヘルマン”というオランダ人ドライバーをエントリーリストに加えたが、そのヘルマンが4度のF1世界チャンピオンであるマックス・フェルスタッペンの偽名であることがすぐに明らかとなった。
フェルスタッペンがチームのフェラーリ296GT3を駆り、ニュルブルクリンク“北コース(ノルドシュライフェ)”のラップレコードを更新したと報じられ、後に本人が認めたことで、GT3テストが大きな話題となっていた。
motorsport.comの独占インタビューに応じたエミール・フライ・レーシングのロレンツ・フライ-ヒルティ代表は、テストは以前から予定されていたものの、実施されるかどうかについては不確定要素があったと明かした。
「マックスと我々のスケジュールは常に少し厄介だ」とフライ-ヒルティ代表は言う。
「我々は数週間前にテストへ行くことを決めたが、彼が父親になったばかりだったから、いざとなるまで確信が持てなかった」
フライ-ヒルティ代表自身は、テストに参加することができなかった。
「私はスイスで重要な会議があったんだ。しかし私が聞いたところによると、マックスは本当に楽しんでいたようだ。それがテストの目的だったんだ」
フェルスタッペン本人も、楽しむためにNLSのテストに参加したことを明かしていたが、このテストはエミール・フライ・レーシングに有益な情報をもたらした。
「4度の(F1世界)チャンピオンに輝いたフェルスタッペンからフィードバックを得るというのは、いつだって素晴らしいことだ」とフライ-ヒルティ代表は続けた。
「彼とは既に何度かテストをする機会があった」
常に全力

「ノルドシュライフェでは、他の場所とはセットアップの方向性が大きく異なる」
そう語ったフライ-ヒルティ代表は、フェルスタッペンのコースレコード樹立で話題となったバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)についても言及した。
ソーシャルメディア上では、NLSよりも有利なBoPが適用されるドイツ・ツーリングカー選手権(DTM)のセットアップでフェルスタッペンがタイム計測を行なったのではないかという憶測が飛び交った。経験豊富なGT3ドライバーのマーロ・エンゲルも、パドックでの会話からフェルスタッペンがDTMのBoPで走ったはずだと発言していた。
しかしフライ-ヒルティ代表は「みんな、我々が全く違うBoPでドライブしていると話していたが、それは本当にNLSの仕様に沿ったモノだった」と強調し「本当に興味深いテストだった」と振り返った。
「我々はフェラーリをノルドシュライフェで走らせたことはなかったので、基本的なセットアップを施した。ノルドシュライフェでの経験を持つスタッフはたくさんいるが、フェラーリと(の組み合わせは)はなかった。だから、我々にとっては良い勉強になった」
「色々なセットアップを試したし、世界最高のドライバーがフィードバックしてくれる姿を見るのは素晴らしい」
「マックスの献身はすごいよ。彼がどれだけ細部まで密接に関わり、マシンの改善にどれだけ強くコミットしているかはみんなが想像できないレベルだ。それが目にすることができて本当に良かった」
フェルスタッペンのこうした献身が、レースチームのステップアップにどれだけ役立っているかと訊かれたフライ-ヒルティ代表は次のように答えた。
「ストップウォッチからそれを読み取るのは難しい。我々はマックスのサポートを受けたティエリー・フェルミューレン、クリス・ルーラム、ベン・グリーン、コンスタンチン・ラッパライネン、ジャック・エイトケンからなる非常に強力なラインアップを擁している。彼らもGT3レースで多くの経験を積んだ強力なドライバーだ」
「いつも言っている通り、彼は分析的なやり方でF1に取り組んでおり、それが間違いなく役立っている。それがストップウォッチ上でどれだけの意味を持つかは断言できないが、彼が我々を大いにサポートしてくれるのは間違いない」
「彼にとっては、どのテストも楽しみのひとつだ。しかし同時にマシンを速くすることにも喜びを見出している。我々にとってはそれが大きなアドバンテージだ」
レースの虜

ノルドシュライフェでのテストは、フェルスタッペンが将来的なニュルブルクリンク24時間レースに参加するための布石なのではないかという話もある。
参戦するためには、事前にNLSなどで少なくとも2レースを走破するなどのプロセスを経て、ノルドシュライフェ用のライセンスを取得する必要がある。ニュルブルクリンク24時間レース参戦のため、フェルスタッペンも同じプロセスを踏むのだろうか?
「それは分からない。まだ完全にオープンな状態だ」とフライ-ヒルティ代表は言う。
「彼が遵守しなければならないルールがある。彼がすぐにノルドシュライフェを再訪する機会があるかどうかは分からない」
フライ-ヒルティ代表はそう語る一方で、もしニュルブルクリンク24時間レースへの参戦決定となれば、サポートを提供する用意があるという。
「これまでも、彼がそれを要求してきた時は常に、我々は彼のマシンを可能な限り準備するためにベストを尽くしてきた」とフライ-ヒルティ代表は言う。
「彼はノルドシュライフェが大好きで、初めて本格的な走行を行なって、その気持ちがさらに高まったことを期待している。だからチャンスはあると思う……F1カレンダーが許せばだけどね。ライセンスを取得したら、間違いなく彼はGT3で数レースを走ることになるだろう」
フェルスタッペンがノルドシュライフェに恋をしたのは間違いない。実際、エミリア・ロマーニャGP予選後、フェルスタッペンはiRacingでシムレースに参加。もちろん、舞台はノルドシュライフェだ。
フェルスタッペンが明らかに“グリーン・ヘル”に魅了されていることに触れ、フライ-ヒルティ代表はこう付け加えた。
「彼はモータースポーツに首ったけだ。プライベートテストにだって参加する。暇な時でもやっているし、夜遅くまでエンジニアやメカニックたちとGT3マシンの改良について話し合っているんだ。彼のモータースポーツへの注力と集中……GT3ドライバーのことも含め、細かいことまで全て知っている」
「彼は我々のレースを全て観ていて、我々が下した決断と理由について聞いてくる。彼はたくさん質問をする。その献身は信じられないほどだ」
“別次元”の走り

GT3テスト終了後、偽名以外に大きな話題となったのは、ラップレコード更新にまつわる疑惑だった。公式には記録されていないものの、フライ-ヒルティ代表はレコードを記録したことを認めた。
正確なラップタイムは明かさなかったが、フライ-ヒルティ代表はフェルスタッペンが「超速かった」と明かした。
「正直なところ、私としては大きな驚きではなかった」とフライ-ヒルティ代表は続けた。
「他のサーキットでも彼は1周のペースがある。GT3で見せたモノは別次元だ」
フライ-ヒルティ代表曰く、F1ドライバーが必ずしもGT3をすぐ速く走らせることができるとは限らないという。
「ドライビングスタイルが違うからね」とフライ-ヒルティ代表は言う。
「しかし彼はGT3でも別格だ。私はノルドシュライフェで何度もレースを走ったことがあるが、スピードを掴むまでにかなりの時間が必要だったことを覚えている。当時私はゲームをしていなかったけどね!」
フライ-ヒルティ代表はフェルスタッペンのシムレースで活躍についてジョークを飛ばし、こう続けた。
「でも本当に信じられないことだ。6周後には既に最速タイムをマークしていたんだ」
GT3選手権は常に、マシンとサーキットを知り尽くしたベテランドライバーが多く戦っている。その中でフェルスタッペンがいきなり296GT3に飛び乗って非公式ながら数周でラップレコードを更新したことは「驚くべき才能」を示しているとフライ-ヒルティ代表は言う。
「自分自身とマシンを向上させようとする彼の献身的な姿勢も同様だ」とフライ-ヒルティ代表は語った。
「彼はセットアップでも良いフィードバックを与えてくれた。この日は公式テストではなかったし、我々やマックスが意図していた(ラップレコードを狙いにいった)わけでもなかった。彼はただ楽しんでテストがしたかっただけなのだ」
「速いタイムを出すコンディションは整っていた。気温、朝のトラフィックの少なさ……他のドライバーがラップタイムでどうだったかは分からない」
「でもこれが“マックス・ファクター”だ。数々の速いドライバーとテストをやってきたが、彼は信じられないほどだ」
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