2025.5.11

「V10エンジン大好き」と公言するフォーミュラE代表。それでも電動化を推し進める理由……次世代ファンのためなら角田裕毅や大谷翔平も呼び込む?

Andreas Beil

「私はホンダでF1活動に携わっていたし、V10、V12、V8、V6……全てが大好きだ。私はエンジンと共に育ってきた」

 そう語るのはフォーミュラEでCEOを務めるジェフ・ドッズだ。

 FIA唯一の電動フォーミュラシリーズを率いているのに内燃エンジンが好きなの? と思うかもしれない。しかし自動車というモビリティの将来的な方向性が、必ずしも自らの好みと一致しているとは限らない。

 そして大排気量のエンジンに馴染みが薄い次世代のファンに向けて、フォーミュラEは電動化を推し進めている。プロモーションという面でも、シリーズが重きを置いているのは若年層だ。

「その音や匂いには思い入れがあるが、それは世代的なモノ。私はそういう時代を生きてきた」と現在52歳のドッズCEOは続ける。

「しかし今の世代は全く異なるモノに慣れ親しんでいると思う」

 国際エネルギー機関(IEA)が昨年4月に発表した「Global EV Outlook 2024」によると、世界的なEV新車台数の伸び率は前年度を下回ったものの、全新車台数に占めるEVの割合は前年の14%から18%に拡大。2035年には4台に1台以上がEVとなると予想されている。

 また、日産がエコノミスト・インパクトに依頼した世界15都市3750人を対象とした市場調査では、都市部に住む若年層の約3分の1が将来的にEVを所有することを希望し、回答者の40%以上が新たなEV技術に高い関心を寄せているという。

 ドッズCEOも、今後は電気や水素などをパワーソースとする自動車が主流になると考え、フォーミュラEは将来的に自動車の購入を検討する世代に訴求することができると説明した。

「ひとつポイントを指摘すると、これから生まれてくる若い世代の大部分はEVかハイブリッド車、あるいは将来的に水素自動車のみに乗るということだ」とドッズCEOは言う。

「彼らがディーゼル車やガソリンエンジン車に乗ることはあまり考えられない。我々のプロダクトは、若い世代には非常に適しているのだ」

 実際、フォーミュラEが抱える約4億人のファンのうち半数は40歳以下と、従来のモータースポーツカテゴリーよりもファンの平均年齢は低い。そして今年11年目のシリーズはデジタルを中心とした訴求を強みとしており、新たな若いファンを惹きつけるため今年3月に行なわれた施策のひとつが“EVOセッション”だ。

 このイベントは、元サッカーイングランド代表デビッド・ベッカムの息子であるブリックリン・ベッカムや、元サッカーアルゼンチン代表でプレミアリーグのマンチェスター・シティなどで活躍したセルヒオ・アグエロをはじめ、世界的なセレブリティやクリエイターに現行車両Gen3 Evoを体験してもらうというモノだ。

 3億8000万人以上のYouTube登録者を誇るMr.ビーストがクラッシュした様子を映したショート動画は、Instagramだけでも3000万回以上再生されるなど、各アカウントを通じて、フォーミュラEマシンの難しさやパワフルさが発信された。

「我々がこうしたことをやる理由はふたつある。ひとつ目はドライバーの認知度を上げ、ドライバーたちがいかにエリート集団であるかを示すこと。ふたつ目は、プロダクト(フォーミュラE)を新しい層へ届けることだ」

「スーパーカー・ブロンディであれ、セルヒオ・アグエロであれ、彼らのファンは必ずしもフォーミュラEのファンではない。しかし彼らがマシンに乗り、ドライブの仕方を学ぶ姿を見ることで、我々が新たな観客を惹きつけることができたらと期待している。我々はこのスポーツに新しいファンを呼び込むため、非常にクリエイティブであろうとしているんだ」

 EVOセッションを実施した理由についてそう語ったドッズCEO。来年以降は、ひとつのイベントとしてカレンダーに組み込む可能性もあると明かし、東京E-Prixのプロモーションの一環として、日本で人気のあるタレントやアスリートを呼ぶことを期待している。

「今回のイベントが成功したら、毎年開催することも視野に入れている。毎シーズン、カレンダーの一部になるかもしれない」とドッズCEOは言う。

「我々としては、ユウキ(角田裕毅/レッドブルF1)には是非マシンに乗ってもらいたい。もちろん、レッドブルファミリー的に彼がドライブすることに乗り気かどうかわからないけど、日本の有名人やタレントを見つけるのは素晴らしいことだと思う」

「誰か推薦してくれたら助かる」と続けたドッズCEOに対して、メジャーリーグ(MLB)のドジャースの大谷翔平の名前を挙げると、彼は次のように続けた。

「もちろん、知っているよ。本当に有名だ」

「来年に向けてリストに入れておくことにしよう。彼はかなり稼いでいるし、我々に野球選手を呼べるだけの予算があるかどうか分からないけどね(笑)」

 そして、デジタルコンテンツから実際にサーキットへ足を運んでもらうため、フォーミュラEは現地の観戦体験においても“タイパ”、つまり短時間でいかに満足感の高いアクティビティを提供できるかどうかを重視している。

 ドッズCEOは比較として、シルバーストン・サーキットで開催されるF1イギリスGPを“屋外フェスティバル”と表現する一方で、展示場でもあるExCeLセンターを中心としたフォーミュラEロンドンE-Prixを「テイラー・スイフトやK-POPの音楽ライブ」と表現。若年層にも適したイベントづくりのため、1日で全てを楽しむことができるスケジュールにしていると明かした。

「私には16歳と13歳になる子どもがいるが、彼らは3日間もどこかへ行って、テントで寝ることは望んでいない。集中できる1時間のレースで特別な体験を求めているのだ」

 ドッズCEOはそうレース観戦での実体験を明かし、フォーミュラEの方向性について次のように説明した。

「会場に着いたら、ファンビレッジがあって、そこで色々なことを楽しむことができる。フリー走行、予選、レース、そして音楽ライブが1日で楽しめるというのは、フォーミュラEならではだ。家族で来ても、音という面では優しいので、耳栓をつける必要がなく互いに話すことができる」

「1日だけでもイベントづくしで、音楽に耳を傾けたり、サーキットでたくさんバトルを観たりすることもできる」

「他の多くのモータースポーツは複数日にわたって開催される。日曜日や土曜日に会場に足を運ぶと、レースを待つために、かなりの時間座っていることになる。我々は全てを1日に詰め込むのだ」

 そんなフォーミュラEは5月17日(土)と5月18日(日)、日本・東京にカムバックする。2年目の今年はダブルヘッダーでの開催となり、フリー走行、予選、レースが各日実施され、アーティストによる音楽ライブなども予定されている。

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出典: https://jp.motorsport.com/formula-e/news/formula-e-eyeys-on-youth-generation-despite-the-love-for-v10/10721532/
この記事を書いた人 滑川 寛

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