
ル・マン24時間レースの舞台で知られるフランスのサルト・サーキット。ここではMotoGPフランスGPが開催されているが、カレンダーには“サルト・サーキット”の名前がない。
フランスGPの開催地として書かれているのは“ブガッティ・サーキット”。サルト・サーキット内にあるショートレイアウトのコースである。
MotoGPのサーカスは毎年、フランスのル・マンに降り立つ。ここで開催されるのが世界三大レースのひとつ、ル・マン24時間レース。フォードvsフェラーリの死闘、メルセデスの宙を舞うクラッシュ、トヨタの残り数分でのマシントラブルなど、数々の歴史が刻まれた場所だ。
そんなル・マンでMotoGPが開催されているとはいえ、それは全長14kmのフルレイアウトではなく、その3分の1にも満たない大きさのブガッティ・サーキット。これはMotoGP初心者にとっては驚きかもしれない。そしてもしかすると、長年のファンもその理由をあまり気にしたことがなかったではなかろうか。
では、これまでMotoGPでサルト・サーキットが使われてこなかった理由は何なのか? 結論から言えば、安全性の理由が大きい。
現在のMotoGPサーキットはライダーの安全性を最優先にしている。そのため、これまで数え切れないほどの死亡事故や重大事故が引き起こされてきた公道コースは徐々に廃れていき、今や完全にスケジュールから排除されている。100年以上の歴史と伝統を誇るマン島TTレースがカレンダー入りしていないのがその好例だ。そしてサルト・サーキットも、常設区間と公道区間を組み合わせたレイアウトとなっているのだ。
MotoGPが使用するブガッティ・サーキットは、町に常設のレース施設を作る目的で1965年に建設され、創業者エットーレ・ブガッティにちなんで名付けられた。ル・マン24時間レースを開催する場合は公道を閉鎖して開催するが、年間を通じて利用できる常設のサーキットが必要だったためだ。
現在のブガッティ・サーキットは全長4.2kmで、フルコースの一部を使いつつも、専用のセクションも取り入れており、何年にもわたってMotoGPが走れるよう安全面の改良が加えられてきた。一例には、ランオフエリアや安全バリアの拡大、そして充実した医療施設などが含まれる。
そして想像の通り、このように長年進化を続けてきた2輪ライダーの命を守る安全設備を、14kmにも及ぶフルコース全体に行き渡らせるのは極めて困難なのだ。
ちなみに、バイクレースが初めてル・マンで開催されたのは1969年のことで、この時には既にブガッティ・サーキットが完成していた。つまり、2輪のロードレーサーはサルト・サーキットのレイアウトを体験したことがない。ちなみにEWC(FIM世界耐久選手権)の1戦であるル・マン24時間耐久ロードレースも、ブガッティ・サーキットで行なわれている。
とはいえル・マンは幾度かの浮き沈みを経て、今やフランスの2輪レースの聖地となっている。
MotoGP開催は2000年に始まり、それ以来ずっとカレンダーに定着している。
このように、MotoGPはル・マンのフルコースを使ったことがなく、おそらく今後も使われることはないだろう。現在のMotoGP界は公道サーキット復活について意見が割れているが、これらの問題はすべて「リスクと安全性のバランス」に帰結する。






