2025.2.16

アストンマーティンがモータースポーツに灯す絶滅危惧種V12エンジンの火。WEC&IMSA最高峰に”鳴り物”入りで登場

Aston Martin Racing

 多くのモータースポーツファンにとって、サウンドは重要な要素のひとつだ。その点、近年は環境対策や持続可能性のため内燃エンジンを使用するモータースポーツの多くが燃費や耐久性に優れたV6へと移行しており、明るい話題は少ない。

 例えば、F1は2014年からV6ハイブリッドエンジンへ移行。全世界で人気のGT3レースでも、ランボルギーニがテメラリオへの移行によってV10からV8となり、その姉妹ブランドであるアウディのR8が唯一のV10搭載GT3車両だが、既に最後のデリバリーを終えた。

 それだけに、世界耐久選手権(IMSA)のハイパーカークラスとIMSAのGTPクラスで全く異なる路線を選択するマニュファクチャラーが現れたのは珍しいことだ。

 アストンマーティンは2大耐久シリーズの最高峰クラス両方に投入が可能なル・マン・ハイパーカー(LMH)レギュレーションに則り、チーム母体のハート・オブ・レーシング(HoR)と共にヴァルキリーAMR-LMHを開発。2025年からWECハイパーカークラスとIMSA GTPクラスに参戦する。

 このLMHは、いくつかの点で一線を画する。まず、市販ハイパーカーをベースにした初の車両であること、そしてコスワース製のピュアなV12エンジンを採用したことだ。

 メーカーがより“理にかなっている”V6エンジンやV8エンジンを選択する中、アストンマーティンは全く異なる道を選んだ。しかし、1万1000rpmまで回せる最高出力1000馬力以上の6.5リッターV12エンジンを積み、時々ワインディングを走るようなヴァルキリーの市販車版とは少し異なる。

 AMR-LMHでは、ル・マン24時間やデイトナ24時間のような過酷なレースに耐える必要がある。搭載されるV12エンジンも限界まで性能を発揮し続けることはできない。

■おサイフにも優しいV12エンジン

 V12エンジンを選択するにあたり、アストンマーティンはいくつかの変更を余儀なくされた。結局のところ、WECではトータル500kW(680PS)の出力制限がある。ただ、これは耐久レースにおいてアストンマーティンにとっては有益なことで、V12エンジンの“希薄燃焼”バージョンの話もある。

「必要なスティントをこなすために、走り切るのに必要な燃料の量を減らすことができる経済的なドライビングが重要だ」

 アストンマーティンの耐久モータースポーツ主任であるアダム・カーターは、ヴァルキリーAMR-LMHの発表会でそう語った。

「必要なパワーが少なくなるため、我々はより低い回転数で使用する。レギュレーション内の出力制限が低いため、トルクカーブを見直し、燃料効率を上げるために回転数を下げ摩擦抵抗を減らしていく」

 他のLMH/LMDhメーカーがV6エンジンやV8エンジンしか使わない中で、V12という選択肢はグリッド上でも際立つ存在だ。

 例えばフェラーリ、プジョー、トヨタはLMHにV6エンジンを搭載。2026年にニューカマーとして登場するヒョンデ傘下のジェネシスはV8エンジンを採用しているが、これは世界ラリー選手権(WRC)の知見を活かしてV8エンジンを開発することが比較的容易であるためだ。排気量の小さいV6エンジンを投入するにはスケジュールに不確定要素が多すぎたのだ。

■ハイブリッド非搭載という選択

 同様に注目すべきは、ヴァルキリーの市販バージョンにはハイブリッドシステムが搭載されている一方、アストンマーティンがAMR-LMHに組み合わせるのを見送ったことだ。

 次世代LMP2シャシーをベースに、WECハイパーカークラスやIMSA GTPクラス用に開発されたLMDhレギュレーションでは、共通ハイブリッドシステムが標準搭載。LMHレギュレーション下でマシン開発を行なうメーカーには、マシンデザインや搭載するパワーユニット設計の面で大きな自由を与えられている。

 WECハイパーカークラスから姿を消したヴァンウォール・バンダーベル680を除き、現在全てのLMHメーカーがハイブリッドシステムをマシンに搭載している。この点でもヴァルキリーAMR-LMHはユニークな存在だ。

「LMDhが後輪駆動であるように、我々は基本的に後輪駆動でマシンを走らせている」

 カーター主任はmotorsport.comを含むメディアに対してそう語った。

「結局は、ドライブシャフトのトルクコントロール次第だ。これが不利になる理由は全く見当たらない」

 さらにカーター主任曰く、ヴァルキリーのV12エンジンをハイブリッドシステムと組み合わせて使うことは不可能だったという。

「あのパッケージに6.5リッターV12エンジンを搭載し、V12を動かし、WECとハイパーカーのレギュレーションの他の要件を満たすことは不可能だ」とカーター主任は説明し、ハイブリッド搭載によって増える車重についても言及した。

「ハイブリッドシステムは搭載するには大きなモノだ。つまり、それでいてV12エンジン搭載マシンを選ぶとなると、重量において別の課題を抱えることになる」

「(市販車版の)ヴァルキリーのハイブリッドシステムを見てみると、フロントアクスルではなくリヤアクスルに搭載されている。つまり、シャシーもコンセプトもモノコックも異なるということだ」

 結局のところは妥協を強いられる形ではあるものの、アストンマーティンはヴァルキリーのコンセプトにできるだけ忠実であることを選んだ。ブランドにとって、市販車とレーシングカーの強い繋がりはアドバンテージになる。

「全てのシステムには利点と欠点がある」とカーター主任は言う。

「結局のところ、それが我々が直面しているチャレンジであり、今後の課題の一部なのだ。明らかに、我々は戦いの場での立ち位置を知らない」

「ハイブリッドシステムには、理論的にはほぼ瞬時にトルクを伝達できる利点がある。V12は他の内燃エンジンとはトルク挙動が異なる。だから、最終的には誰もが、トルクコントロールを行なう上で長所と短所を持っている」

 少なくとも、サーキットに来たファンにとっては、WECカタール1812kmでヴァルキリーAMR-LMHがデビューを迎える時、昨今は出番も少なくなった耳栓を持て余すことはなくなるだろう。

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出典: https://jp.motorsport.com/wec/news/hoe-de-v12-motor-dankzij-aston-martin-voortleeft-in-autosport/10695217/
この記事を書いた人 Laurens Stade

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