
現在F1の放映権は、リバティメディアが一括して管理している。そして世界各国の放送/配信事業者と交渉の末、放映権を取得する業者が決まるという形だが、これは1980年代にバーニー・エクレストンが確立したビジネスモデルを踏襲した格好である。
F1にとって放映権は、貴重な収入源になっている。各放送/配信事業者は放映権を取得することで国際映像のライブフィードを受け取ることになる。
ただその結果、国によってはF1の放送/配信が実に複雑になる場合がある。イギリスの事例を見てみよう。
イギリスでは2012年、スカイが放映権を取得し、国営放送であるBBCと並行してF1を放送することになった。その後チャンネル4が参入し、各レースのハイライト放送と、イギリスGPの生中継を行なうこととなった。ただ2019年からはスカイがイギリス国内でのF1中継権を独占し、その後2029年まで契約を延長することになった。ドイツとイタリアでもSkyがF1の放映権を取得しており、少なくとも2027年までは継続されることになっている。
ただその代償として、これらの地域では、F1が独自のアプリケーションを通じてF1の国際映像を配信するF1 TV Proを利用することができない。
F1 TV Proは、全24戦の全セッションを生配信している。通常は放送されない、無線交信も聞くことができる。
上記の地域ではスカイとの契約が延長されたことで、F1 TV Proは今後も見られない。DAZNとフジテレビNEXTがインターネットを通じて配信している日本でも、F1 TV Proは視聴できないが、それと同じ状況になっているわけだ。
■番組の作り込みは必要か?

さてアメリカでは、リバティメディアはESPNと強い繋がりを持っている。アメリカ国内でのF1人気拡大すべく、リバティメディアは2018年の1年に限って、ESPNにF1の放映権を無料提供したという。その後ESPNは、2019年から2022年までは年間500万ドルで放映権を取得。その後、2025年までこの契約は延長されたが、放映権料は年間9000万ドルにまで上がったようだ。
なおESPNのF1番組は、Skyが制作する番組に大きく依存している。アメリカでのF1ファンが大幅に増えているにも関わらずだ。しかもSkyはテクノロジーと番組に多額の投資を行なっているものの、ESPNにはそれがない。
その結果、SkyはNetflixの影響を意識することになるだろう。Netflixのようなストリーミングサービスは、まだまだ市場を開拓できる可能性がある。しかしその一方で、ESPNがF1番組に対して行なっている投資が少ないことを考えれば、投資することがどれほど重要なのかは分からない。
例えばSkyは、各レースで独自のテレビクルーを現場に派遣しているが、これが必要かどうかという点については、疑問を抱く要素でもある。ライトなファンのためには、レースの細かい部分を解説する必要は本当にあるのだろうか? またレース前の非常に手間がかかった特集番組はどうだろうか?
よい番組を制作するためには、それは必要なことである。しかし現実的には、視聴者の多くを占めるライトユーザーは、そういうことについては気にしない可能性がある。
リバティメディアはおそらくそのことを認識している。そのため、熱心なファンをターゲットに、F1 TV Proで細かい情報を提供しているわけだ。
■ネットのプラットフォームでのライブ配信は、今や普通に

Netflixに関してはライブスポーツの配信に進出するのは驚くべきことではない。しかも同社は昨年11月、ESPNでF1関連番組の制作担当副社長だったケイト・ジャクソンを、ライブスポーツ番組の制作担当として採用した。
そしてもちろん、2019年から放送が開始され、F1の魅力を高めるのに大きく貢献したと評価されている『Drive to Survive』のことも考えれば、F1コンテンツの幅を広げようとすることは当然だろう。
Skyは、Netflixがグローバル展開しているプラットフォームをどう活かすのかということに注目している。昨年末、NetflixではNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)の試合を「クリスマスゲームデー」として配信し、アメリカ全土で6500万人もの視聴者を集めたとされるが、Skyはこの手法にも注目しているようだ。
関係者によれば、F1はアメリカでのファン拡大をさらに推し進めるために、複数の放送局やストリーミングサービスと契約を結ぶ可能性が高いという。これはアメリカの他のスポーツと似たモデルであると言える。
NFLは、5つの異なる放送局が分散して放送している。またアップルは、金曜日夜だけMLB(野球のメジャーリーグ)の配信権を取得し、「フライデーナイトベースボール」として展開している。AmazonはNBAの配信を行なう。
なおこれは何もアメリカに限った手法ではない。イギリスでも、サッカー・プレミアリーグの試合はAmazon、TNTスポーツ、Skyが分割して放送/配信している。前述の通りDAZNとフジテレビがF1中継する日本も、同じような事例と言えるかもしれない。
これらは全て、ひとつの事業者が独占する時代が終わったことを示しているかもしれない。新しい視聴者に市場を開放することで、F1は成長のチャンスを増やすことができる。
F1は新たな方法で自らのことを宣伝する必要があるが、それはアメリカだけでなく、世界中での放映権の取り扱いにも影響を及ぼす可能性がある。
かつて、各国ごとに独占放映事業者を選んできたF1。そのことにより利益ももたらされたが、F1の成長を阻害してきた部分もある。F1を視聴できる新たなプラットフォーム、しかもファンがアクセスしやすいプラットフォームを用意することができれば、まったく新しい市場を開拓できる可能性がある。
F1にとっては、独占的なテレビ放映権契約よりもはるかに価値があるだろう。
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