
富士スピードウェイで行なわれたスーパーGT第4戦では、8号車ARTA MUGEN CIVIC TYPE R-GTが優勝。今季からホンダ陣営が投入したシビック・タイプR-GTにとっては、4戦目にして待望の初優勝となった。しかも2位には100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTが入りワンツーフィニッシュを飾るなど、富士でのシビックの速さは際立っていた。
同じく富士で行なわれた今季第2戦の3時間レースでも、ホンダ陣営は決勝こそトラブルやレースペース不足で後退したが、予選ではポールを獲得するなど速さを見せていた。その一因とも言われているのが、ベース車両がNSXからシビックに代わったことによるストレートスピードの向上だ。
GT500車両はモノコック等多くのパーツが共通部品だが、ベース車両が変わってその外観が変わることにより、多かれ少なかれ車両特性が変わることはあり得る。シビックは投入当初より、NSXよりはドラッグ(空気抵抗)、ダウンフォース共にやや少なくなる傾向だと言われてきた。そのため、最高速の速さを実感するような声も聞かれる。
優勝した8号車ARTAの野尻智紀はシビックの車両特性について、記者会見の中で次のように述べていた。
「当然、昨年までのNSXと比べると、タイムシートを見ても分かる通りストレートスピードが改善しています。それは主に、ドラッグの成分が減っていることも関係していると思います」
「その辺りはレースをしていても感じます。特に富士では、今までは(前走車の)スリップに入っていても離されていましたが、それが前についていけるようなストレートスピードになりました。レースとして戦いやすいと思っています」
またライバル陣営のドライバーからは、ホンダ陣営のシビックがストレートスピードという点で新たなベンチマークになったというコメントもある。12号車MARELLI IMPUL Zのベルトラン・バゲットは予選後にこう語っていた。
「(決勝では)ホンダ勢がとても速そうだ」
「彼らのトップスピードはクレイジーで、僕たちよりかなり速い。ストレートにおいては彼らが新たな基準になると思う」
「彼らをレースで抜くのは難しいだろうね。僕たちには表彰台を狙えるペースがあると思うけど、ホンダの直線スピードが少し心配だ」
ただ、実際にはそれほど大きな差はないのではと指摘するのは、ホンダ・レーシング(HRC)の開発陣。車体開発責任者の徃西友宏氏は次のように語る。
「レースだとコースティング(アクセルを抜き惰性で走る燃費走行)している車両もあるので判断が難しいですが、3社総じてハッキリ分かるような大きな差はないのかなと思っています」
「各陣営の中で最高速側に(セットアップを)振ったクルマは速さが目立っていますが、それ以外は燃リス(燃料流量リストリクター)の差がなければほとんど同じ最高速が出せる状況ではないかと思います」
ではデータ上ではどうか? スーパーGTのライブタイミングデータから、GT500各車の予選Q1、Q2における最高速を洗い出してみた。
最高速を陣営ごとの平均値で見てみると、ホンダ(289.24km/h)>トヨタ(288.34km/h)>日産(287.71km/h)の順となる。
ただHRC徃西氏が指摘したように、最高速重視のセットアップをした車両もいるはず。例えばホンダの16号車ARTAの最高速は1台だけ飛び抜けている。さらにポイントリーダーの36号車au TOM'Sはサクセスウエイト値が74kgに達していたため、燃料流量2段階ダウン(95.0kg/h→90.2kg/h)の措置を受けており、上の表を見てもそれがエンジンパワーに影響して最高速が下振れしたと推測される。
そういった“外れ値”の影響を除外するため、陣営全体の最高速を平均値ではなく中央値(複数あるデータを小さい順に並べた時の真ん中の値)で見た場合、シビックが288.33km/h、スープラが289.15km/h、Zが287.61km/hとなり、スープラが最も速いという結果となった。
これらの数字からも、実情としては「シビックの直線スピードが他を圧倒している」というよりも「ホンダがNSXからシビックに変わったことで、3社の最高速がより拮抗している」といった理解の方がより正確なのかもしれない。
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