
2024年シーズンから、全日本ロードレース選手権に参戦するDUCATI Team KAGAYAMAにファクトリーマシンのパニガーレV4を提供しているドゥカティ。鈴鹿8耐には、そのドゥカティでかつてはMotoGPのスポーティングディレクターも務め、今はオフロード部門や各国のスーパーバイクシリーズをマネジメントするパオロ・チアバッティが姿を見せた。今回そのチアバッティにインタビューを実施……DUCATI Team KAGAYAMAへの評価や、将来的な鈴鹿8耐へのファクトリー参戦の可能性など、様々な話を訊いた(※インタビューはトップ10トライアル後に実施)。
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──トップ10トライアルでは、水野涼選手とハフィス・シャーリン選手が高いレベルの走りを披露していました。今回の鈴鹿8耐でのここまでのセッション、そしてトップ10トライアルのパフォーマンスを見て、どうでしたか。
PC(パオロ・チアバッティ):ここまでの内容にはとても満足しています。Team KAGAYAMAに提供したスーパーバイク仕様のパニガーレV4Rが卓越した戦闘力を備えていることは、あらかじめわかっていたことです。我々が参戦している他の選手権、SBKやアメリカ、イギリスのスーパーバイク、そして全日本のシーズン前半戦でも、バイクは高い能力を発揮しています。我々はスーパーバイクでブリヂストンタイヤの経験がないため、その部分をしっかりと理解する必要がありました。ブリヂストンがデータを提供してくださり、チームもがんばってくれたおかげでよいセットアップを見いだすことができています。
トップ10トライアルはとても順調に進みました。0.1秒差でポールポジションこそ逃してしまったものの、YART(1号車YART YAMAHA)はとても手強いチームで、水野涼選手は力強い速さを発揮してくれました。
一番重要なのは明日の決勝レースですが、ご存じのとおり我々には8耐の経験がありません。ライダーはノーミスで速く走らなければならず、転倒はできません。チームにもミスは許されず、効率的なピットワークが求められます。そして何より信頼性。はたして我々がどれだけのレベルにあるのか、興味深いところですね。私たちは、将来に向けて経験を重ねるために、Team KAGAYAMAとともに今回の参戦をしています。MotoGPに参戦するドゥカティのライダーたちが8耐に関心を示しているのは秘密でもなんでもなく、彼らはいつか8耐に参戦したいと言っています。
だから、明日のレースがどうなるのか、とても興味深いところですね。できればしっかりと完走を果たし、トップ5で終えることができるならば今後に向けても完璧な結果だといえるでしょう。昨日、私がインスタグラムに投稿した写真には、ペコ(フランチェスコ・バニャイヤ/MotoGPドゥカティ)が「しっかり仕事をして、僕のためにも備えておいてよね」とコメントしていましたよ。彼は今日(7月20日)が結婚式だったんですけどね。
ともあれ、今回のライダーラインナップで最良のパフォーマンスを発揮してくれていますし、今後に向けてもどんどん改善を進めていきたいと思います。
──今週末ここまでのパフォーマンスは、予想どおりでしたか。あるいは想像以上だったのでしょうか。
PC:期待以上と言っていいと思います。水野選手は全日本で素晴らしい結果を残してくれています。数週間前に8耐のテストで私が来日したときも、セッションで最速をマークしていました。今週末にこれだけの速さを発揮しても、もはや驚くことではなく、我々が描いていたベストシナリオをしっかり裏付けてくれたということです。
──おっしゃるとおり、ドゥカティがスプリントレースで強烈な速さを発揮するのは万人の認めるところですが、耐久レースはまた別ものです。明日の決勝では、表彰台を獲得できると思いますか?
PC:できると思いますよ。とはいえ、そのためにはいろんな要素が噛み合わなければなりません。ライダーは安定した速さを発揮し、ピットストップでは効率的な作業が必要で、バイクにも信頼性が求められます。先ほど申し上げたとおり、今回の8耐は我々にとって初めての経験で、チームもバイクについて理解を進めている途上の段階です。だから、トラブルなくトップ5で終えることができれば最高だと思っています。なにせ我々には初めて尽くしなので、何があっても不思議ではありません。決勝レースは今までと話が違う、と考えるべきなのかもしれませんね。そうは思いたくないですけれども。
──今回のレースで高パフォーマンスを発揮することは、ドゥカティにとってどれほど大きな意味を持つのでしょうか。
PC:鈴鹿8耐は特別なレースです。EWC(世界耐久選手権)に組み込まれた一戦ではありますが、レースそのものが際立っているのです。過去には、バレンティーノ・ロッシをはじめ、様々なMotoGPのトップライダーたちが鈴鹿へやってきて、勝つことを夢見てきました。近年では少しその傾向にかげりがあったのかもしれませんが、それでも二輪メーカーにとって8耐は特別なレースです。ここでは、日本以外のメーカーが勝ったことはありませんよね。だから、それをいつの日か達成するのが我々の夢です。できれば近い将来に、鈴鹿で勝つ初めての日本国外メーカーになりたい、と考えています。
■ドゥカティ、鈴鹿8耐へのワークス参戦の可能性あり!

──チアバッティさん自身も、8耐へ来るのは今回が始めてですよね?
PC:そうですね。全日本スーパーバイクには過去にもドゥカティのバイクが参戦していましたが、ここまでのレベルで関与はしていません。我々がプロフェッショナル集団として関わるのは、これが始めてだと思います。ドゥカティのエンジニアも、技術的にチームをサポートしています。
──今回鈴鹿8耐にやってきたあなた自身の使命は何なんでしょうか。
PC:将来的にまたここへ来て勝つために、知見を積み重ねることです。
──ドゥカティはMotoGPで他を圧する権勢を誇り、SBKでもBMWと熾烈な争いをしています。チアバッティさん自身は、今年からオフロードレースのマネージメント業務を担当することになりましたね。
PC:はい、そうですね。
──ということは、ファクトリーが関わるべき次の分野は耐久レースかと……。
PC:ここ数年のMotoGPではご存じの通り、ドゥカティはもっとも戦闘力が高いバイクを作り上げて成功を収めることができました。SBKではトプラク(・ラズガットリオグル)とBMWが強力ですが、我々も依然として高い戦闘力を発揮しています。彼とBMWのコンビは容易には打ち負かせないコンビネーションですね。トプラックは本当に卓越したライダーで、カワサキに乗ってもヤマハに乗ってもBMWに乗ってもバイクの最高の性能を引き出すことができる能力の持ち主です。タフな競争相手ですよ。
でも、すべてのカテゴリーで常に勝ちまくることなど到底不可能だし、競技にとって健全なことでもありません。いつの日か勝ってやろうと思うことは、いいモチベーションにもなりますよね。
モトクロスについては、我々にとって新たなチャレンジです。今年は開発を兼ねてイタリア選手権に参戦しており、いまのところとても満足できる内容になっています。引退していたトニ・カイローリが復帰して優勝を達成し、別のレースでは2位に入ってくれました。もうひとりのライダーも大雨の後の難しいマディコンディションでレースをリードして、いい走りを見せてくれました。我々は来年、MXGP(モトクロス世界選手権)に参戦する予定です。私自身にとっても、企業にとっても、これは大きな挑戦になるでしょうね。ドゥカティとしては、来年半ば頃に若いファンがモトクロスコースの走行を楽しめるような量産車を販売できれば、彼らがさらに成長してドゥカティファミリーに定着してもらうチャンスにもなるでしょう。
──ダカールラリーには興味はないのですか?
PC:今のところはないですね。個人的は面白いと思っていて、今年のダカールも1月に数日見に行きましたが、ホンダやKTM、HEROのレベルはとても高いことがよくわかりました。だから、現状ではまずモトクロスの450ccに注力し、250ccの力もつけてからアメリカのスーパークロスに参戦することを考えています。それが現状の優先順位です。そこで納得のいく成功を収めることができれば、ダカールやラリーを考えるかもしれませんが、今はまだその段階ではありません。
──ダカールといえば数年前に、ダニーロ・ペトルッチ選手が参戦して話題になりましたよね。
PC:ああ、そうですね。ダニーロは面白いライダーで、常に新たな挑戦を探し求めているんです。MotoGPではKTMへ移り、KTMにダカールへ参戦させてほしいと打診したようですね。おそらくただ楽しむために走りたいんだろう、と皆は思っていたのですが、あのとおりのタフガイですから、いい走りをしてスペシャルステージでは勝ちましたよね。すごいことだと思います。とはいえ、ダカールというレースは企業にとって非常に大きな挑戦です。しっかりとした組織づくりをし、ロジスティクスにも大いに気を配らなければなりません。なので、繰り返しますがダカールは今のところ我々の計画には入っていません。
──では、ドゥカティとしてEWCや鈴鹿8耐に参戦することは、可能性としてありえるでしょうか。
PC:8耐については、イエスですね。我々がユキオのチームと協業しているのは8耐に参戦して経験を重ね、再びブリヂストンとの関係を築くという目的があるからです。8耐を考えると、彼らのサポートは非常に重要ですから。
ブリヂストンのサポートでたくさんのことを学べて、本当に感謝をしています。先ほども申しましたが、我々の将来的な計画はボローニャからファクトリーバイクとMotoGPライダーたちを投入し、ユキオのチームとともに戦うことです。イタリアからのロジスティクスは大変なので、今と同じチームであったとしても、ユキオたちが持っているロジスティクスを活用し、規模はさらに大きくなるでしょう。
──そういえば、過去にバニャイヤ選手が「いつか8耐に参戦したい」と言ったことがありましたね。リップサービスだったのかもしれませんが、ドゥカティでドリームチームを結成して参戦することは将来的にあり得るでしょうか。たとえば、バニャイヤ、マルク・マルケス、アルバロ・バウティスタといった選手のラインナップで……。
PC:マルクやバウティスタについてはわかりませんが、ドゥカティのMotoGPライダーたちで参戦したいとは考えています。ペコとファビオ・ディ・ジャンアントニオは鈴鹿8耐に参戦したいと言っているので、MotoGPやSBKからやる気のあるライダーを第三ライダーとして探したいところですね。それが来年になるのか、あるいは2026年なのかは、時期尚早なので今はまだなんともいえませんが、明日の決勝レースを見て、データや様々な情報をボローニャに持ち帰り、そのうえで今後の計画をしっかりと見極めたいと思います。
──ぜひ、ごく近い将来に実現してほしいと思います。
PC:私も同感ですよ。
──では、明日の健闘を祈っています。
PC:アリガトーゴザイマス。がんばりますよ。