2024.6.3

最強au TOMSのセットアップを真似て勝利掴んだDeloitte TOMS。今までそれができなかったのはなぜか? 転機となったSFでの“気付き”

Masahide Kamio

 鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーGT第3戦を制したのは、37号車Deloitte TOM'S GR Supra(笹原右京/ジュリアーノ・アレジ)だった。2台体制のトムスにおいて、圧倒的な強さを誇る王者36号車au TOM'S GR Supraの裏で苦戦していた37号車だったが、ついに大仕事をやってのけた。

「正直ホッとしたというのが一番ですね」

 そう語るのは、37号車のチーフエンジニアを務める大立健太エンジニア。彼にとってもKeePer TOM'S時代の2022年の第4戦富士でサッシャ・フェネストラズと宮田莉朋のコンビで勝って以来久々の勝利。スーパーフォーミュラも含め、笹原、アレジと共に苦しい時期を耐えてきたひとりだ。

 その大立エンジニアは今回、“チームメイト”である36号車のセットアップを真似て鈴鹿戦に臨んだと明かした。そう聞くと、「なぜ今さら。もっと早く36号車のセットアップを真似しておけば良かったのでは」と思う方もいるかもしれない。しかしながら、車体、ドライバー、タイヤなど、総合的なパッケージの合わせ技で戦うスーパーGTにおいて、速い車両のセットアップを真似れば同じように速くなるとは限らない。そのことは、笹原も常々話していた。

 ではなぜ、今回は36号車のセットアップを採用“できた”のか? それについて大立エンジニアは、スーパーフォーミュラでも共に戦う笹原とのコミュニケーションの中で、“クルマづくり”における道筋がお互いに噛み合うようになったのだと説明した。

 大立エンジニアによると、昨年も何度か36号車のセットアップを試したものの、ドライバーから出るフィードバックは36号車のそれとは異なっていたという。そこで37号車独自のセットアップで臨んだ第7戦オートポリスでは、笹原が予選Q1でトップタイム。「やっぱりちょっと違うんだよな」——この時点では、36号車のセットアップを活用できる道筋は立っていなかった。

 そんな中で転機となったのが、今年5月にオートポリスで行なわれたスーパーフォーミュラ第2戦だった。

「前回のSFオートポリス戦で右京とレースを戦う中で、『こうじゃなくてこうだよね』という道筋みたいなものが見えて、ふたりで噛み合ったところがありました。『右京はこういうドライビングがしたいからこうしたいんだよね』といった話が少しずつでき始めました。少し時間がかかってしまいましたが、そこが一番大きかったですね」

「そこから、『じゃあ、36号車のセットアップをこうすれば右京には合うよね』というところで持ち込みのセットアップになりました。自分の中で考えていた右京のスタイルと、右京がやりたかったスタイル……そういった話が噛み合ってきたので、36のセットアップを使えるようになったというところもあります」

「(SFとGTの)2カテゴリーを一緒にやっている強みが出たのかなと思います。ジュリアーノも他のカテゴリー(スーパー耐久)で連勝してモチベーションも上がっていました。その中で道筋が見えた部分があったので、今回はどうだろう、少し楽しみだねというところでした。ただ予想以上の結果でしたね(笑)」

 実はそのSFオートポリス戦の際に、笹原も興味深いコメントをしていた。トムス移籍後入賞にも届いていない笹原は、12位でフィニッシュしたレースを終えて「トムスに加入してから一番収穫があった」と話していたのだ。

「ちょっと表現が難しいのですが……」と苦笑する笹原は、こう続けた。

「自分もパフォーマンスが出ないと、自分の走りが違うんじゃないかとか、違う考えが巡ってしまって、自分としてもロストしていた部分があったのかもしれないし、チームともお互いすれ違いがあったのかなと思います」

「それが今回のレースで答え合わせができたような感じがありました。自分の走りもこっちだったのかな、とか。ポイントも獲れていないのでこんなことを言うのもあれですが、自信に繋がったと思います」

 笹原とアレジ、そして大立エンジニアは共に若く、タッグを組み始めてからの年月もそう長くはないが、ついに37号車陣営の“ケミストリー”が構築されようとしているのかもしれない。37号車のランキングも3番手に急浮上したが、大立エンジニアも「とはいえクルマとしては36と完全に同じようなセットアップで持ち込んでいる部分はあるので、煮詰まっていないところもまだまだある」と語るように、36号車のようにタイトル争いに絡んでいくにはさらにステップを踏む必要があると考えている。

「今日の36のペースを見ていると、速さとかではなく、強いレースができていると思います。まだまだ僕らとしては足りない部分があります」

「もちろんチャンピオンを取りたいし、ランキング3番手まで上がったということはありますけど、僕としては今回“飛び級”みたいな感じだったんです。まだまだチャンピオンを取れるレベルじゃないというのは分かっているので、もう少し自分たちをレベルアップさせたいです」

「でもマイケル(ミハエル・クルム監督)もよく言っていますけど、チームとしてステップバイステップでしっかりと順序を踏んで、来たるべき時にしっかりと結果を掴み取れるようなチーム、ドライバー、エンジニアリングというところに持っていけるよう、しっかりと準備したいなと思います。チャンピオンを獲りたいといった目標設定には、まだちょっとできないかなと、客観的には思っています」

 結果を残して、多くのサクセスウエイトを積んでからが真価を問われる時。それがスーパーGTだ。今回経験したブレイクスルーが、Deloitte TOM'Sにとってどんな意味を持つことになるだろうか。

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出典: https://jp.motorsport.com/supergt/news/2024-r3-suzuka-37-toms-post-race-review/10618980/
この記事を書いた人 戎井健一郎

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