
かつてアイルトン・セナのパーソナルトレーナーを務めていたジョセフ・レベラーは、F1におけるメンタルヘルスの重要性を語った。
長くF1の世界で活躍してきたレベラーは、昨年のアブダビGPを最後にパドックを去ることを決めた。彼がF1での仕事を始めたのは1988年。マクラーレン・ホンダに加入し、アラン・プロストとアイルトン・セナを支えた。
セナはそこでレベラーの重要性を見出し、パーソナル・トレーナーとして起用。セナの移籍と同時にウイリアムズへ移った。セナが1994年に死去した後はザウバーに移籍し、以後27年間にわたって同チームで働いてきたが、昨年限りでその役割にピリオドを打つことを決めた。
レベラーがF1への関わりを始めた頃、ドライバーがパーソナルトレーナーを起用するのは稀だった。そのためレベラーは、トレーニングはもちろん、理学療法や栄養管理、メンタルコーチなど様々な役割を一身に担っていた。
「素晴らしい機会だったね」
そうレベラーは言う。
「セナとプロストと共にマクラーレンでの仕事を始めた。それ以降、ミカ・ハッキネンやキミ・ライコネン、セバスチャン・ベッテルなど、様々なワールドチャンピオンと仕事をしてきたんだ。どの世代もとても刺激的で、それが私の原動力となった」
「当時デニス(ロン・デニス/マクラーレンのチーム代表)は、F1チームとしてはマシンとテクノロジーに巨額の資金を注ぎ込みつつも、最も重要な資産はドライバーであることも理解していた」
「でも当時我々は、今よりもはるかに多くのことを行なわなければいけなかった。たとえば私は、自分で料理をしなければいけなかった。そして、それぞれのドライバーに合わせて調整したんだ。しかも彼らは異なる文化圏からやってきているから、それも考慮する必要があった」
「トレーニング、セラピー、メンタル面、栄養管理……その全てを行なったから、ともに仕事をしたドライバーたちのことをよく理解できた」
■今や精神面でのサポートを受けるのは常識

現在では、精神面のコントロール、つまりメンタルヘルスのサポートを受けているドライバーは少なくない。むしろ、受けていないドライバーの方が少ないかもしれない。レベラーがF1での仕事を始めた頃は、それはあまり一般的ではなかったが、それでもレベラーは、セナと多くの時間を過ごすことで、メンタル面でのケアも行なっていたという。
「我々にとってそれは、何も新しいことではなかった」
「このスポーツでは、精神的な側面が非常に重要なんだ。だから私は、このスポーツに興味を持った。精神的な部分に集中しなければいけない時には、自分の感情をコントロールし、自律神経がどう機能しているかを理解する必要がある」
「最初の頃は、誰も弱味を見せようとしなかった。ドライバーたちは、そういうことをマネージャーにも、その他の誰かにも、話そうとはしなかったんだ。でも今では、問題が何であるかを診断することが、いかに重要なのかを彼らは理解している」
「私は心理学を学問として学んだわけではない。しかし世界チャンピオンになった多くのF1ドライバーのトレーニング、準備、彼らを世話する中で、現実的かつ実践的かつ実証可能な方法でそれを学び、研究してきたと信じている。F1ドライバーたちと仕事をすることで多くの知識が得られ、彼らと友好な関係を築くこともできたんだ」
「昼も夜も一緒に仕事をしている時は、それが公式のことではなかったとしても、いつも少し心理学やメンタルトレーニングを行なっている」
「セナも夕方には心を落ち着かせ、考えを変え、人を刺激しないようにすること、テンションを下げることがいかに重要だったかをよく理解していた」
「明日も、そして数年後まで100%のパフォーマンスを発揮したいのなら、自分のことは自分で守らなければいけない。睡眠もとても大切だ。偉大な才能があったとしても、それを正しく活用するためには、過剰な負荷をかけないようにしなければいけない」
■今後はF1での知見を活かし、他のアスリートをサポート

レベラーはARCKfitというプロジェクトを共同設立。今後はF1ドライバーだけではなく、様々なアスリートを支援していくという。
「私はもう64歳だが、自分ではまだ若いと感じている。何年もF1にいられて満足だ。そしてその間に、たくさんのドライバーが引退していくのを見てきた。しかし私は、次のステップに進むのに十分若いうちにF1を去ることになった」
「これは、アイルトンと仕事を始めて以降、私が取り組んできた全てのことの集大成だ」
「これまで何年にもわたって世界最高のアスリートを身体的、精神的、認知的にトレーニングしてきた。最先端のテクノロジーを使って若いドライバーや他のアスリート、そして子供たちもその恩恵を受けることができる」
「私も、少しずつ歳をとって賢くなってきたんだ。これまでずっとドライバーの世話をしてきたんだけど、今は自分の情熱と、ビジネス上の興味にもっと集中すべき時がやってきたんだ」
「個々のドライバーだけでなく、より多くのアスリートをサポートできることを願っている」
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