
2023年シーズンより、動画配信サービスのABEMAがスーパーフォーミュラの全戦無料配信をスタート。誰もが手軽に見られるプラットフォームでの配信ということもあり、シーズン開始当初から注目を集めた。さらにABEMAは2024年シーズンから世界ラリー選手権(WRC)を無料配信することも発表するなど、モータースポーツ界に新たな風を吹かせようとしている。
2023年のスーパーフォーミュラは、F1候補生として来日したリアム・ローソンと国内組のタイトル争いが繰り広げられただけでなく、NEXT50プロジェクトの様々な施策により、例年にない盛り上がりを見せた。本格的なコロナ禍明けのシーズンということも手伝って、観客動員は軒並み前年から増加したが、ABEMAのレース配信の視聴数も年間で述べ250万視聴を記録したという。
ABEMAのモータースポーツ番組に携わる株式会社AbemaTV エンタメ局 局長である兼子功氏は、根っからのレース好き。スーパーフォーミュラ、そしてWRCと手を広げるABEMAがレース業界内で存在感を高めているのは、「モータースポーツにはポテンシャルがある」と信じてやまない兼子氏の熱意や尽力が大いに影響しているといえる。
「正直まだまだと言いますか、番組制作には改善の余地があると思っていますし、『どうやったらスーパーフォーミュラを分かりやすく見てもらえるか』という部分と向き合った1年だと思います」
ABEMAでのスーパーフォーミュラ配信1年目をそう振り返った兼子氏。今季はSNSやニュースサイトを活用してのアピールをしていたが、今後はプロモーションの幅を広げていきたいという。
スーパーフォーミュラ視聴者数の“伸びしろ”について、兼子氏はこう語った。
「僕は(伸びしろが)あると思っています。まだまだやれると思います」
「我々は現状、web上でしかプロモーションを展開できていませんが、今後はサーキットを含めたオフラインでの施策ですとか、そういった可能性を考えると、まだまだポテンシャルがあると思っています」
これは各所で散々言われていることではあるが、モータースポーツの魅力を知ってもらうためには、やはりサーキットに足を運んでもらうことが一番。実際に兼子氏も同僚を何人かサーキットに連れていき、その迫力を体感してもらったという。ただやはり、その“サーキットに行く”という行為が非常にハードルの高いものであることは否めない。アクセス面でも、コスト面でもだ。
そういった意味では、多くの人にとってアクセスしやすい首都圏でオフラインイベントを開催することができれば、既存のコアファンだけでなく、サーキットには足を運んだことがないライト層のファンや、それまでレースにあまり関心のなかった層にもリーチできるチャンスがあるだろう。兼子氏は、まさしくそういったオフラインイベントをやりたいと語る。
「レースには、サーキットに観に来ないと触れられないですよね。ただ、サーキットに行くことのハードルは高いので、出前のような形で『スーパーフォーミュラ側が街に行く』というパターンを、うちも(スーパーフォーミュラと)一緒にやりたいなと思っています」
そして「これは夢物語じゃないですけど……」と語る兼子氏は、こう続けた。
「道玄坂を降りてきたスーパーフォーミュラが渋谷109の前でドーナツターンをして、旧東急本店の方面に抜けていく、みたいなことができたらなと思います。うち(渋谷区宇田川の本社ビル)に公開収録用のスタジオがあるんですが、そこに解説の中山(雄一)さんがスーパーフォーミュラのマシンで乗りつけて、そのまま収録する……そういうことをやれたら面白いなと思います。ゲリラ的にというか、渋谷の街を行く人が『何あれ?』と思うようなことをやりたいですね」
「実現するには、色々と課題はあると思います。ただ、輪を広げて仲間を増やしていくことで、パワーは生まれてくると思います」
また兼子氏が力説するのは、モータースポーツ界を限られたコア層だけが楽しむような世界にはしたくないということ。だからこそ、ABEMAの持つ「無料プラットフォーム」という強みを活かして、モータースポーツの“入口”の役割を果たしたい……というのが、彼らの一貫したアプローチだ。兼子氏が「我々をきっかけにハマった結果、ABEMAで飽き足りなくなれば、有料のプラットフォームを見ていただければいい」と言い切るところからも、それは如実に感じられる。
つまりABEMAはモータースポーツ界を牛耳るために参入したのではない。10年先、20年先、50年先のモータースポーツが市場として成立するため、自分たちができることに、仲間を増やしながら挑戦しているようだ。
「個人的に、限られたコア層だけが楽しむような世界にしたくないと感じています。もっとオープンにしていかないと、新規の人は入ってきにくいですよね。もちろん我々もビジネスとしてやっているので大赤字でいいというわけではありませんが、少しでも貢献できるところを模索しています」
兼子氏はそう語る。
「後世のためにも、マーケットとして成立する規模に成長させないといけません。我々が無料で開放して、きっかけを作って……それでハマった結果、ABEMAで飽き足りなくなれば、有料のプラットフォームを見ていただければいいと思っています。我々はきっかけを作るエンジンになり得るプラットフォームだと思っています」
「現場に社員を連れていくと、『こんなに知ると面白い競技だと思いませんでした』という声が挙がりました。そういった草の根活動と言いますか、社内外の理解者、協力者を増やすということも同時にやっています」
来季以降も、「初心者に分かりやすい中継」「多くの人に知ってもらえる中継」にこだわっていくというABEMA。業界が探し求めていたピースを、彼らが埋めようとしている。
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