
2023年のF1は、まさにレッドブルが席巻したシーズンとなった。レッドブルRB19はマックス・フェルスタッペンとセルジオ・ペレスのコンビで22戦21勝、勝率95.45%を記録したのだ。
レッドブルの快進撃が続くにつれて、RB19は伝説のF1マシンとよく比較されるようになった。それがマクラーレン・ホンダのMP4/4である。
1988年にアイルトン・セナとアラン・プロストという強力ドライバーラインアップで16戦15勝。永遠に破られることはないのではないかと思われた、勝率93.75%をマークした1台だ。
レッドブルは早々にRB19の開発を打ち切り、2024年に向けてマシン開発を進めているところだが、MP4/4は開幕戦まで4ヵ月という時点で設計図すら完成していなかったというから驚きだ。
MP4/4はブラバムから移籍してきたゴードン・マレーのアイデアがかなり採り入れられている。ドライバーがより寝た姿勢でコックピットに収まっているのは、今でこそF1ではポピュラーだが、当時はまだ斬新な考えであった。
MP4/4の心臓は、ホンダのV6ターボエンジン。ターボエンジンの燃料搭載量が引き下げられ、翌年からはターボが禁止となるという状況の中で、ホンダは低燃費・ハイパフォーマンスを両立。他のエンジンメーカーを圧倒した。
開発の遅れなどどこ吹く風。開幕当初から他チームを圧倒する速さだけでなく、高い信頼性を発揮したMP4/4は、様々な記録を打ち立てていった。
全16戦中、イギリスGPを除く15回のポールポジション獲得。これはレッドブルRB19をも成し得なかったポール獲得率だ。決勝ではイタリアGPを除く15戦で優勝し、全てのレースでセナとプロスト、どちらかが完走を記録している。
プロストに至っては2度のリタイア以外はすべて1位か2位。7勝をマークし、8勝のセナよりも11ポイント多く獲得したが、当時は有効ポイント制によりベスト11戦のリザルトが有効となり、セナが自身初チャンピオンに輝いた。
MP4/4にとってたった1度の敗北はイタリアGP。フェラーリのゲルハルト・ベルガーに土をつけられている。マクラーレンがフロントロウを独占したが、プロストはこの年唯一のエンジントラブルでリタイアを喫した。
セナは終盤まで首位を守っていたが、残り2周で周回遅れのジャン=ルイ・シュレッサーと接触。レーシングラインを外れ失速したシュレッサーを抜きに行った際のクラッシュだった。
フェラーリの2台が迫っていたこともセナを焦らせたのか……これで首位に躍り出たベルガーがミケーレ・アルボレートとワンツーフィニッシュ。このレースを前に亡くなったエンツォ・フェラーリに、ティフォシの前で勝利を捧げた。
レースにタラレバは禁物だとはいえ、セナがイタリアGPで逃げ切り、MP4/4がシーズン全勝を果たす可能性も十分にあっただろう。だがこの、MP4/4にとって”唯一の敗北”がドラマチックなものであったことも、MP4/4を特別な1台にしているというのは過言だろうか。
いちF1ファンとして、そんなMP4/4と並び称されるであろうレッドブルRB19の1年をリアルタイムで見られたことは幸せだったと言える。この2台を超えるには、24戦まで拡大した長すぎるスケジュールの現代F1を最速で、ほぼ全勝で駆け抜けなければならない。
いつか、そんな高すぎるハードルを超えシーズン全勝を果たすマシンも出てくるのだろうか。マクラーレン・ホンダMP4/4とレッドブルRB19が刻んだ歴史が、そんな未来に期待することを許してくれるような気がする。
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