
F1は次のレギュレーション変更が行なわれる2026年に向けて、急ピッチで計画を固めつつある。
2026年にはザウバーと組んでアウディがF1に参入し、一度は撤退を決断したホンダもカムバックする。そうした動きの背景には、市販車との関連の薄いMGU-Hを廃止し、サステナブルな燃料を使用するというパワーユニット(PU)のレギュレーションも大きく寄与している。
しかし新しくなるのはPUだけではなく、レースが可能な限り良いものになるよう、マシンにも大きな改訂が加えられる予定だ。
FIAはこれまで、大まかなアイデアについては何度も議論してきたが、シャシー面の変更について具体的な詳細はあまり明らかにしてこなかった。
FIAのシングルシーター部門責任者であるニコラス・トンバジスがmotorsport.comを含む厳選されたメディアに対して、2026年に向けての方向性について詳細に語ったことで、その全貌が見えてきた。
より小さく、より軽く、より軽快なマシンに

現行マシンの最大の不満のひとつは、あまりに重いことだ。これでは反応が鈍くなるだけでなく、タイヤにも負担がかかりレース内容にも悪影響が及ぶ。
FIAは来年6月末までにレギュレーションの草案を提出する予定だが、2026年に向けてマシンの寸法が変更されることは明らかだ。
トンバジスは、2026年のF1マシンの基本レイアウトは決まっており、現在とは異なるものになると説明している。
マシンの全長はより短くなり、ホイールベースは現在の最大3600mmから3400mmに短縮されるだろう。また、車幅も10cm狭くなり、2000mmから1900mmに縮小されると見られる。
こうした変更はすべて、FIAにとって重要な目標のひとつである”マシンの大幅な軽量化”を達成するためのものだ。
「2026年には最低車重を40キロから50キロ減らすことを目標としている」とトンバジスは言う。
「というのも、近年のクルマは少し大きくなりすぎ、重すぎると感じているからだ」
寸法が小さくなることは重量の軽減に役立つだろうが、もうひとつの要素にも大きな影響を与える。それがダウンフォースの減少だ。ダウンフォースが減少すれば、パーツにかかる負荷が減り、チームはそれほど頑丈なパーツを作る必要がなくなる。
「ダウンフォースが減るということは、サスペンションなど部品にかかる負荷の多くが減るということであり、その結果、チームは重量を減らすことができる」とトンバジスは言う。
また、F1が現行の18インチホイールを捨てることで、さらなる重量削減が見込まれる。
トンバジスは「ホイール径を16インチに小さくし、フロントとリヤのタイヤ幅も小さくすることを暫定的に目指している。これらすべてが、大幅な軽量化につながると考えている」としている。
ダウンフォースを抑え、よりレースしやすいマシンに

エアロダイナミクスの観点から、FIAは2026年型マシンのコンセプトを現行マシンの進化形と見なしている。
グラウンドエフェクトは維持され、マシンが互いに追従しやすくなるようにルールが改善されることが期待されている。
現行のレギュレーションにいくつかの抜け穴が残されており、後方を走るマシンの空力性能に悪影響を与えるデザインが使用できる状態だとトンバジスは認めている。そして2026年には、こうした抜け穴を塞ごうとしているのだ。
「2023年シーズンは、接近戦のしやすさという特徴が少し悪化した。我々はその理由と方法、そして何をすべきかを理解しているつもりだ」
「次のラウンド(2026年)は、接近戦をよりしっかりと実現できると信じている」
ダウンフォースが減る一方で空気抵抗も減るため、現在のシミュレーションではラップタイムが劇的に悪化することはないとトンバジスはいう。
「今とほとんど変わらないだろう」
「差は2、3秒以内に収まると思う。でも、たとえ5秒遅かったとしても、大汗をかくことはない」
見た目については、2026年のクルマは今と同じようなものになるだろうとトンバジスは言う。
「それを知っている人なら違いがわかるだろうが、これまでと同じように見えるだろう。それに関しては、何の疑いもない」
可動式エアロとDRS

現行マシンからの変更点のひとつは、ストレートでの空気抵抗を減らすための可動式エアロの追加だ。これがどのように機能するのか、またストレートでのDRSのポテンシャルを損なうことになるのかどうか、不透明な部分もある。
以前は、前を走るマシンのウイングの角度が変化し、DRSとは逆に遅くされるのではないかという話さえあった。
トンバジスは可動式エアロのアイデアについて、遅くする方向に使われることはないと説明した。
「空気抵抗の低減を実現するために、ストレートでウイングの角度が変わるのは間違いない。しかし、何らかの手段で前を走るクルマを減速させることは絶対にない。それは単純にうまくいかないだろう」
DRSに関しては、FIAはオーバーテイクの機会を提供するためにいくつかの異なるアイデアを検討しているという。
「現在のDRSに相当するものが導入される予定で、基本的には一定の制限内にいる後続車がアタックできるようにする可能性がある」
「そのメカニズムがどのような形になるのか。ストレートでの空力コンポーネントの変化を追加するのか、コーナーでの空力コンポーネントの変化を追加するのか、エンジンのエネルギーの一部なのか……」
「3つのうちどれになるのか、我々はまだ最善の解決策を導き出すためにシミュレーションを行なっているところだ」
「我々が望んでいるのは、ストレートでクルマが互いに交わしていくようなことではない。ブレーキングポイントでクルマ同士が接近してバトルになり、ドライバーは自分の技術を駆使しなければならない」
トンバジスは、DRSが効果的すぎたとしても調整は可能であり、他の方法を模索してオーバーテイクできなくなるよりはいいと語った。
「オーバーテイクを簡単にしすぎたくはない。だが『もう必要ないんだ』と言うこともできない」
「オーバーテイクがまた不可能になるとか、そういう状況に陥るリスクは冒せない。だから、ポケットに忍ばせておいて、適度に使うことはあっても、大いに使うことはないようにしたいんだ」
「オーバーテイクも戦いでなければならない。クルマ同士がただ通り過ぎるだけではいけない」
根拠のない大惨事への懸念

今年になって、2026年のレギュレーションに関する話題は、特にレッドブルが発信した”大きな問題”が発生する可能性があるという警鐘で占められていた。
PUのうち、内燃機関(エンジン)の出力が約550~560kwから400kwに下がり、モーターの出力が150kwから350kwに跳ね上がるため、次世代PUを現在のマシンに搭載すれば、ストレートのかなり早い段階でバッテリーが尽きてしまうとレッドブルは主張したのだ。
また、軽量化されたクルマであっても空気抵抗が大きすぎれば、モンツァのような場所で、充電のためにストレートでギヤチェンジをするなど、奇妙なことをせざるを得なくなる。
トンバジスは、このような心配は根拠のないものであり、現在の状況とはかけ離れた初期のシミュレーションモデルに基づいていると考えている。
「そうしたコメントは少し時期尚早だったのかもしれない。というのも、我々はまだ仕事を終えていなかったからだ。解決策があることは分かっていたから、大惨事のようなシナリオにはならないと信じている」
「我々はマシンの空気抵抗低減と、エネルギーの回生と放出方法の組み合わせにより、現行マシンと非常によく似たスピードプロファイルを実現すると信じている」
「だから、マシンがストレートの途中でトップスピードに達し、減速するなんてことはないだろう」
FIAはクルマがコーナーに激しく突っ込むことを望んでおり、そのためにドライバーはブレーキを多用することになると考えている。
モンツァやスパのような長いストレートがあるサーキットでは、それがより困難な課題となるだろうが、そのようなサーキットでは特別な調整がされる可能性もあるという。
「エンジンのエネルギー面には、正しい特性を達成するための微調整が施される」
前述したように、次世代レギュレーションの草案が出されるまではまだ半年ほどかかる。しかしトンバジスの言葉から次のF1マシンがどんなクルマになるのか、少し見えてきたのではないだろうか。
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