
2023年シーズン、アルピーヌF1チームはコンストラクターズランキングで前年度の4位から6位へと転げ落ちた。ルノー傘下ブランドであり、イギリス・エンストンとフランス・ヴィリー=シャティヨンに拠点を持つ彼らとしては、2017年以来最悪の結果に。暫定チーム代表を務めるブルーノ・ファミンは、チームには「大胆さが足りなかった」と振り返った。
2023年マシンのA523はパフォーマンスに一貫性がなく、高速かつダウンフォースを削らざるを得ないサーキットでは苦戦を強いられた。
シーズンにハイライトが無かったという訳ではなく、モナコGPではエステバン・オコンが3番手スタートから3位表彰台。乱戦と化したオランダGPではピエール・ガスリーが3位で表彰台を掴んだ。
しかし、入賞圏外を走る平凡な週末もあり、オーストラリアGPでの同士討ちを筆頭に接触によるリタイアも多かった。結果、シーズン合計の獲得ポイントは前年度の173ポイントから120ポイントに減少した。
また、アルピーヌにとってはコース外でも波乱の1年となった。まずアルピーヌのローラン・ロッシCEOが異動となり、ベルギーGPの週末にはオットマー・サフナウアー代表とスポーティングディレクターのアラン・パルメインが更迭された。
奇しくも同じタイミングでチーフテクニカルオフィサーを務めたパット・フライが離脱。「トップ3を狙う熱意と意欲に欠けている」としてウイリアムズへ移籍した。
そのため、レースチーム上層部の面子が刷新され、かつてウィリーでパワーユニット(PU)部門を率いたファミンが暫定チーム代表に就任した。
組織としてのポジティブな面を上げるならば、この変更を受けて、ルノーのルカ・デ・メオCEOがエンストンのファクトリーを訪れ、スタッフに向けてアルピーヌF1プロジェクトへ全面的に尽力するとスピーチしたことだろう。そして、レースチームが必要としていたアップデートは、シャシー部門のエンストンとPU部門のヴィリーの両方で進められ、シーズン終盤には上手くまとまりを見せていた。
「我々が望んでいた位置にいないのは確かだ」
2023年シーズンを終えて、ファミン暫定代表はそう語った。
「それはハッキリしている。しかしシーズン途中に行なった改革によって、みんなの潜在能力を引き出すことができたと思うし、もっと自由に色々なことを提案したり、改善したりできるようになったと思う」
「特に考え方の変化がすぐに見られたサーキットサイドではそうだと思う。例えば、我々はロブ・チェリーとジェイソン・ミリガンを昇格させたが、彼らは改善点を提案し、部下たちにも提案させるという、とても良い仕事をしている」
「7月末までは、このポテンシャルにも少し限界があったから、私はこの改革にとても満足している。ガレージでもそうだし、トラックエンジニアリングや戦略でもそうだが、我々は以前大胆にできなかったことに挑戦しているのだ」
「その考え方に私はとても満足している。もちろん、マシンはまだ我々が望むようなモノではない。シーズン後半は前半よりも1レースあたりの獲得ポイントが増えたが、攻め続けてこの調子で開発していく必要がある」
以前のアルピーヌは”アイデアを出しにくい”環境だった?

ファミン暫定代表の“大胆さに欠ける”という指摘は興味深い。そして、人事異動に関して、以前はこのチームのスタッフがアイデアを出すのを嫌っていた、あるいは恐れていたという指摘を受けるのは初めてのことではない。
これについて、ファミン暫定代表は次のように語った。
「全部に少し手を付けているようで、誰も大胆ではなかった。私は心理学者ではないから、その理由について詳しく語るつもりはない」
「しかし今確実なのは、このような競争の世界でパフォーマンスを発揮するためには、全員のポテンシャルを引き出す必要があるということだ」
「マシンの性能を引き出すこと、マシンやPUの開発に長けている必要がある。そして、たとえ最高のPUがなくとも、最高のマシンがなくとも、最終的に良いマシンを作って良い結果を残すために全体を調整することはできると思う」
「もちろん、将来的な話ではなく、今は枠組みを整える必要があるということだ。ウィリーとエンストンの関係を改善する余地という問題はあるが、私にとってそれはプロジェクトの本の一部であり、我々がやらなくてはならない仕事のほんの一部だ」
それが今、ファミン暫定代表にとっての重要な課題となっている。
サマーブレイクの人事異動から立て続けにグランプリが開催され、当初はレースチームに集中していたが、オフシーズンの間はエンストンとヴィリーに割く時間も増える。
「我々には才能のあるスタッフが沢山いる。マシンの開発だけでなく、仕事のやり方においても彼らが新しいアイデアを持ち込めるように手助けする必要がある」とファミン暫定代表は言う。
「そしてチーム全体のポテンシャルを引き出し、マシンのポテンシャルを引き出し、より良い結果を得ることが理想だ」
大きな問題は、アルピーヌが状況を好転させるのにどれだけ時間がかかるか

集団の考え方を変えると、そう口で言うのは簡単だが、本当に上手くいくのだろうか?
上手くいく証拠として、ファミン暫定代表は、イタリアGPでの週末が芳しくなかったことを受けて同じような高速サーキットでの開催となるラスベガスGPに向けて空力を改良した事例を挙げた。
「ラスベガスでの結果は、私が非常に満足している良い例だと思う」とファミン暫定代表は言う。
「4位という結果に対してではない。もちろん、予選5番手と決勝4位は嬉しいが、モンツァでの結果が本当に悪かったからこそ、満足しているのだ」
「ラスベガスはいくつかの点で似ていたから、(モンツァで)なぜそうなったのか、何が起こったのか、どこで間違っていたのかを分析し、すぐに新しいことを提案するために時間をかけた」
「もし我々が何もしていなかったら、ベガスではリスクがあった。すぐにチームが対応し、空力の進化を提案した。それを開発・製造し、マシンに投入した。ギリギリになったが実現できたし、上手くいった。以前なら、モンツァで17位なら(ラスベガスでも)17位だった」
「でも今は、とても強力な対応ができ、それが実を結んだ。最終的なポジションやリザルトは、とても良い状態だった。すでに変わったことの一例だ」
大きな問題は、アルピーヌが状況を好転させるのにどれだけ時間がかかるかということだ。
アルピーヌは以前、5年もしくは100レースでF1のトップグループに返り咲くという計画を立てていたが、サフナウアー元代表は野望を叶えるどころか、わずか1年半で解雇となった。
ファミン暫定代表は、グランプリで成功を収める上で明確な数字を設けていないと語った。
「どれくらいかかるか見当もつかないし、目標を決めたくない」と彼は言う。
「この冬と来年の目標は、その姿勢と考え方を発展させ、文化を変えることだ。今回もヴィリー対エンストンという構図ではなく、全体に対してだ」
「より良いチーム、より良い組織、より良いマシンを開発するために、この勢いを継続し、発展させるのだ」
「そうすれば結果はついてくる。どれくらい時間がかかるか、私には分からないよ」
「メルセデス製PUなら速く走れるのに」シャシー部門とPU部門、チーム内の確執

ロータスがメルセデス製PUに乗り換えた2015年を除けば、シャシー部門のエンストンとPU部門のヴィリーの2拠点は1995年から協力関係にある。
長年にわたり、ふたつのファクトリー間でのコミュニケーションを改善し、お互いがお互いを非難する文化の兆候を取り除くための施策が続けられてきた。そして、それは現在も続いている。
「私がヴィリーに着任した1年半ほど前、全員ではないが何人かが『今はカスタマーチームがひとつしかない』と言っていたのを覚えている」
ファミン暫定代表はそう語る。
「私は『なんて言った? カスタマーチームじゃなくて我々のチームだ。我々のワークスチームだよ』という感じだった」
「エンストンについた時には『メルセデス製PUなら速く走れる』という話を耳にしたこともあった。確かにメルセデス製PUなら15kW多く出力が出るが、メルセデス製PUになれば(F1)プロジェクトもエンストンもなくなってしまう……」
ファミン暫定代表は、そのような“彼ら”と“我々”という考え方に終止符を打つべく、迅速に取り組んだとして、次のように続けた。
「特にエンストンとルノー・グループの間には、かなり複雑な歴史がある。それが現実なのだ」
「何度身売りされて、何度買い戻されたか分からないよ!」
「それが状況をややこしくしているのは確かだ。でもPUファクトリーとシャシーファクトリーの関係は、アルピーヌのプロジェクトに限ったことではなく、どこにでもあることなのだ」
「我々はひとつのチームであり、ひとつのプロジェクトであり、ひとつの目標を持っている」
そしてファミン暫定代表は、PUはもはや“足かせ”ではないと断言する。
「もうそんな話は聞かないよ」
「それはハッキリしている。デ・メオのスピーチの後、かなり多くの人と話したが、もう誰もそのことには触れないだろう。そしてマシンを改善するために何をしなければならないか、誰もが理解しているのだ」
「課題はひとつではない。空力に限った話でも、PUに限った話でも、タイヤに限った話でもない。とても競争が激しいから、どの領域でも上手くやる必要がある」
「そのことは誰もが分かっているし、誰もがそこに集中している。それに満足できないなら、ここを出ていくことになる」
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