
9月頭のモンツァ戦から約3ヵ月弱。今季のFIA F2の最終戦アブダビラウンドが、いよいよ今週末に行なわれる。来季スーパーフォーミュラへの参戦が決まった岩佐歩夢(DAMS)にとっては、FIA F2での最後のレース。そしてその先に見据えるF1に向け、非常に重要なラウンドということになる。
今季ここまでの24レースで、3勝を含む6回の表彰台を獲得している岩佐は、ランキング3位で最終ラウンドを迎える。そしてその最終ラウンドを前に、来季岩佐は日本に戻り、TEAM MUGENのドライバーとしてスーパーフォーミュラに参戦することが発表された。さらには、F1ポストシーズンテストにもアルファタウリから参加することも決まった。
そんな岩佐に、今の心境を率直に訊いた。
「ようやくレースだなぁという感覚ですね。モンツァからすごく長くて、待ちくたびれました」
岩佐はF2のアブダビ戦に向けてそう語る。
「その間にチームと色んな準備をしてきました。自分のモチベーションもしっかり準備できたので、良い形で最終ラウンドに臨めます」
「自分たちの弱点がいくつかあったので、そこに集中して準備してきました。そしてなぜ去年のアブダビで良かった(ポールポジションを獲得し、フィーチャーレースで優勝)のかというところを確認しなければ、もう一回同じことを再現できません。色んな面から過去のデータも振り返り、準備してきました」
F2での最後の1戦。どんなところに主眼を置いて戦うのか? そう尋ねると岩佐は、次のように説明してくれた。
「チャンピオンの可能性はゼロではありませんが、僕がフルポイントを獲ったとしても、相手(ランキング首位のテオ・プルシェール/ARTグランプリ)の結果次第な部分もあります」
「自分たちに何ができるかと言えば、まずはポールポジションを獲ること、そしてフィーチャーレースを優勝することです。それが最大限のパフォーマンスだと思っています。チームと共にできることを最大限やって、最大限のパフォーマンスを発揮すること……それだけが、やるべきことだと思っています」
「この2年で、DAMSと学んできたこと、そして成長してきたことはかなり大きいです。その集大成を、パフォーマンスとして、コースの上で発揮できればと思います。DAMSに助けられた部分もありますし、ミスもあった……でもそれはお互い様ですから、思い出として、学んだことは悪かった部分も含めて今後の自分にはとても重要です。なのでDAMSに恩返しがしたいです。そしてヨーロッパのレースで、自分はここまで成長したんだというところを、みなさんにお見せできればと思います」
■スーパーフォーミュラ参戦への想い

そんな岩佐には、前述の通り新たな挑戦プランが示された。それが2024年のスーパーフォーミュラ参戦である。岩佐はTEAM MUGENの一員として、来年1年は日本のトップフォーミュラを戦うことになった。
日本人の岩佐にとっては、日本に戻るということは一見F1に向けては後退した……そんな風にも見える。しかし岩佐本人としては、F1に向けて非常に重要なステップアップだと認識しているという。
「スーパーフォーミュラはF2よりも速いですから、そこは興味深いです。そしてチームの動きやレースに向けた取り組み方も違うと、リアム(ローソン/今季TEAM MUGENからスーパーフォーミュラに参戦)などから聞いています。そこにアジャストするのも、ドライバーとしての能力が試される部分だと思います」
「僕としては、F1へのステップアップだと考えていますから、すぐに結果を出さなければいけないと自覚しています。もちろん簡単ではない、レベルの高いシリーズだと思いますが、そこでやり抜いていかなければ先はない。改めて気合が入っています」
日本に戻ることは、最初はネガティブな印象もあったと、岩佐は正直に明かしてくれた。しかしレッドブルと話をし、現在の自分の状況を改めて見直したことで、スーパーフォーミュラでの1年が非常に重要だと気付かされたと、岩佐は言う。
「来季については、一度にスッと報告された感じでした。自分としては正直、スーパーフォーミュラに参戦するというのは予測していませんでした。でもリアムのプロセスを見たり、自分の置かれている立場を見た時に、想像していたよりもポジティブなステップアップに向けた路線なのではないか……正直そう感じています」
「正直、はじめは(日本に戻ることには)ネガティブな印象もありました。僕はローソンと違って日本人だからです。欧州に残り、F1に一番近い場所で修行を積むということに、僕自身も強い思いがありました。スーパーフォーミュラには、F1で走らないサーキットも多いので、F1に向けて進んでいく上でネガティブなのではと考えたことも、正直ありました」
「でもこれはかなり大きな意味を持つステップアップなんだなと、今すごく感じています」
「スーパーフォーミュラと並行して、レッドブルジュニアのプログラムもあります。それはこれまで通り進めていきます。あとはレッドブルの動きだったり、自分のパフォーマンス次第ですが、色々な進展があってもおかしくないと思っています」
■F1のリザーブドライバー就任も視野に

現時点ではF1のリザーブドライバーを兼務することが決まっているわけではないようだが、レッドブルのモータースポーツ・アドバイザーのヘルムート・マルコからは、それも視野に入れているという話をされているという。
「マルコさんからは、そこも視野に入れているという話をされています。なのでまずはF2での最終戦、そして来年のパフォーマンスが、その先に影響してくるのは間違いないはずです。随時自分の印象が変わってくることになると思いますから、常に上位の結果を出すことが必須になると、そう思っています」
「レッドブルでは、いろんなイレギュラーなタイミングで物事が動くのは当然です。ひとつひとつ、しっかりと自分の仕事をやっていかないといけません。良い流れで来ていても、突然悪い流れになってしまうこともありますから……とにかくまずは、今週末のアブダビで勝つことが大事だと思います」
ちなみに岩佐は現在、レッドブルの育成という立場(レッドブル・ジュニア)と、ホンダの育成という立場(ホンダ・フォーミュラ・ドリーム・プロジェクト)の両方を担っている。現在レッドブルとホンダはF1で共闘している立場だが、2026年からホンダのパートナーはアストンマーチンに変更される。それも岩佐の立ち位置に影響してくるはずだ。
岩佐は将来についてどう考えているのか? レッドブルを選ぶのか? それともホンダと仕事を続けていくつもりなのか? そう尋ねると、岩佐は次のように語った。
「そういうことについては、今は1mmも考えていません。レッドブルとホンダの関係は少なくとも2025年まで続きます」
「今はふたつのプロジェクトに、多大なるサポートを受けています。それをしっかり活用して、自分のパフォーマンスを発揮しなければいけません。それができなければ、F1に上がることなんてできないと思います。日本でも欧州でも、どこへ行ったとしてもしっかりとパフォーマンスを発揮するのが、必須だと思います」
スーパーフォーミュラとF2の関係という意味では、最近ではトヨタ育成の宮田莉朋が、来季F2に参戦することが発表された。それについての印象を聞くと、岩佐は「気にはしていないものの、興味はある」と語った。
「正直、あまり気にはしていないです。自分としてはしっかりと一歩ずつステップを踏んできて、F1への準備を進めてきたので、宮田選手がF2に参戦するとしても、影響はないです。ただ、現役のスーパーフォーミュラ王者がF2に参戦するというのは、興味があります」
「どういうパフォーマンスをするのか、そこはドライバーとして興味があります。細かいところでどんなパフォーマンスを見せるのかという部分は、興味深いですね」
「スーパーフォーミュラの前年チャンピオンと、直接対決してみたかったという想いはありますが、宮田選手以外にも速いドライバーがたくさんいますからね」
岩佐は早速、12月6〜8日に鈴鹿サーキットで行なわれる「公式合同テスト及びルーキー・ドライバーテスト」で、初めてスーパーフォーミュラのマシンを駆ることになる。しかしその前には重要なアブダビでの最終決戦……彼の将来に向けて、好パフォーマンスを披露することが求められる。
「自分としても楽しみですし、示したい部分……予選含め、強さを取り戻したというところを、しっかりお見せしたい。全力で挑みます」
「今週は自分たちの強さと速さを、しみじみとお見せできたらと思います」
そしてそのアブダビ戦の後には、F1のポストシーズンテストに参加し、F1マシンを初めて走らせる。彼がドライブするのは、アルファタウリAT04……今季角田裕毅が走らせたマシンである。
岩佐歩夢は、F1に向けて重要な一歩を踏み出す。