
MotoGP第19戦カタールGPはタイトル争いが大きく動く1戦となった。ホルヘ・マルティン(プラマック)が決勝レースで大失速し10位に終わったことで、フランチェスコ・バニャイヤ(ドゥカティ)が優位な立場となったためだ。
マルティンはカタールGP2日目のスプリントレースでは高いパフォーマンスを示して勝利し、バニャイヤとの差を7ポイントまで縮めていた。しかし翌日の決勝では一転して精彩を欠いており、ズルズルと後退した末に10位フィニッシュ。バニャイヤがスプリントレースとは対照的に好調で2位となった結果、ポイント差は21点と、最終戦にバニャイヤがかなり有利な立場で最終戦に向かうことになった。
レース後、マルティンは今回の結果はタイヤに問題があったとハッキリと主張し、サプライヤーのミシュランを批判した。通常最高峰クラスのライダーの多くは、警告が与えられることを危惧して、あまり公然とはサプライヤー批判を行なわないことが多い。
しかし今回は、マルティンとしてもそれだけ腹に据えかねたということだろう。それはタイトルをミシュランに”盗まれた”という彼の発言が物語っている。
「こんなチャンピオンシップは残念だ。あんなに素晴らしいシーズンを過ごし、懸命に働いてきたのに、彼ら(ミシュラン)に盗まれたような気分だ。というのもレース前まで、勝てると思っていたからだ」
「彼らも(タイヤのせいで)チャンピオンを決めたくないと思うし、コンペティティブであってほしいと思っている。そうだと思うし、そうであってほしいと願っている」
「でも、1日で1.5秒もペースが落ちた。僕がライディングを忘れてしまったわけではないと思うし、彼らは改善する必要があると思う。今後このようなことが起こらないように分析する必要がある」
ミシュランのタイヤ品質について、アレイシ・エスパルガロ(アプリリア)も「あまり人の悪口は言いたくないんだけど、タイヤの品質はこのチャンピオンシップのレベルに達していないと思う」と思うところはある様子だった。
そしてそれは直接タイトル争い繰り広げているバニャイヤも同様だ。バニャイヤはカタールGPのスプリントレースでマルティンと同様にタイヤに苦しみ5位に終わった経験があったばかりだ。しかし、前述のように決勝では一転して好調な走りを見せている。
「(スプリントレースで)僕が抱えていた問題はバイクじゃなかったし、決勝に向けては何も変えていなかったんだ。スプリントで僕に起きたことと、決勝でホルヘに起きたこと、これはかなり妙なことだよ」とバニャイヤは言う。
■ミシュランは“調査中”

ただミシュラン側はまだこの件については口を閉ざしており、むしろカタールGPでラストラップにエネア・バスティアニーニ(ドゥカティ)の手でレースラップレコードが記録されたことを指摘している。
「これはミシュランタイヤのパフォーマンスが一貫していることを示すものだ」
ミシュランのMotoGP責任者であるピエロ・タラマッソはそう語っている。
「我々は情報を分析中だ。現時点で言えることは、彼(マルティン)のタイヤは製造後直接ここへ運ばれたということだ。そして予熱も、レース以前に使われたこともなかった」
タラマッソが言及している予熱(pre-heated)とは、現在ミシュランが採用しているタイヤの利用法だ。チームに手渡され、ヒーターによって温められたもののマシンには取り付けらなかったタイヤは、日曜日に返却される。そしてそのタイヤの再利用を行なっているのだ。
ミシュランタイヤのパフォーマンスの上下について、6度のMotoGP王者であるマルク・マルケス(レプソル・ホンダ)は、エスパルガロやマルティン、バニャイヤらと見解を概ね同じくしている。ただ彼ははるかに外交的な言葉で話しており、さらにタイヤが”良すぎる”ことによって、少し悪くなっただけで目立ってしまっているとも付け加えた。
「何が起きているかといえば、タイヤが上手く機能しすぎているんだと思う。一度少しでも悪くなると、とても目立ってしまうんだ。それが問題だ。全部がもう少し悪ければ、僕らは気が付かなかっただろう」
なおミシュランが2016年からタイヤサプライヤーを務めるようになって以来、ほぼすべてのコースでレコードタイムが更新されている。
そうした記録は称賛に値するものだろう。しかし今回のカタールGPのようにタイトル争いを繰り広げるふたりがタイヤへの不信感を表明するような出来事は、ミシュランだけではなくチャンピオンシップの信頼性を傷つける可能性がある。
あるMotoGPチームのエンジニアは、タイヤの透明性に関してこう語っている。
「バイクの外部サプライヤーから供給を受ける部分、たとえばサスペンションなんか、そこに何かが起これば、分解して確認できる。しかしタイヤは我々が知っていることといえば黒くて固く、丸いということだけで、タイヤには信じなければならない、コードの描かれたステッカーがあるだけだ」
「チームが苦情を出してもミシュランの返答はコンパウンドの製造時のコンディションには多少の変動がありうる、というモノだ。そして最初の10ユニットを破棄する安全策を講じているとはいえ、あるタイヤと別のタイヤでは違いがある可能性はあるという」
エンジニアの語るミシュランの返答通り、カタールGPで発生したパフォーマンスの落差も製造時の影響範囲なのかどうか、それとも問題が発生していたのか、それは現時点では分からない。しかし”タイヤでタイトル争いが決まった”と見られることを避けるために、ミシュランが採れる最善の戦略は、今シーズンが終了する前に透明性を高めることだというのは、明らかだろう。