
アメリカのカジノ街、ラズベガスの中心部を舞台に今週末初開催されるF1ラスベガスGP。やはり夜間の寒い気温に悩まされることになるかもしれない。
F1ラスベガスGPは、これまで開催された多くのグランプリとは、異なるレースになることが期待されている。通常のように金曜日から日曜日にかけて開催されるわけではなく、木曜日から土曜日にかけて行なわれるというのも、独特のフォーマットである(時差があるので、日本では金曜日から日曜日にかけて走行を見ることにはなるが)。
ラスベガスの街中を走るという雰囲気を最大限に活かすため、全ての走行セッションが夜間に設定されている。特にフリー走行2回目と予選は、日付が変わった現地時間24時にセッションが始まるのだ。
こうなるとドライバーやマシンが悩まされることになるのが気温だ。ラスベガスはネバダ州の砂漠の中で発見されたオアシスに端を発する都市であり、気候は砂漠特有のモノ。日中は気温が上がるものの、夜間には著しく気温が下がる傾向にある。
このラスベガスでは、高級ホテル”シーザーズパレス”の駐車場を舞台に、シーザーズパレスGPが1981年と1982年に開催されたことがある。この時は日中にレースが行なわれ、1982年のレースでは最高気温37.1℃を記録した。1981年のレースも暑く、同レースでチャンピオン獲得を決めたネルソン・ピケ(ブラバム/当時)は、レース終了後に失神寸前の状態となり、自力ではマシンから降りられなかったほどだ。
しかし今回のグランプリは真逆。ここ数日は夜間でも比較的温暖な日々が続いているようだが、週末の夜は寒くなるとの予報も出ている。
以前F1のマネージングディレクターを努めていたロス・ブラウンは、ラスベガスGPを11月に開催することを決めた際、同地の夜が非常に寒くなることを考慮していなかったと認めている。
■今週末のラスベガス、天気予報は?
■11月16日(木)
FP1の時間帯は晴れるが、若干風が強まる可能性がある。またFP2の終盤には雨が降る可能性がある。気温は13℃、最低気温は8℃とされていて、降水確率も20%である。
■11月17日(金)
気温はこの日も13度の予定で、FP3と予選では最低気温が9℃となる可能性がある。午後早くから夕方にかけて雨が降るとの予報が出ているが、予選が始まるまでには上がるものと見られている。降水確率は40%。
■11月18日(土)
午後の早い時間までは小雨が降ることが予想されているが、夜までには上がる見込み。夜間の最高気温は13℃、最低気温は7℃という予報になっている。
■気温が低いと、F1マシンにどんな影響があるのか?

気温が低くなると、一番に影響が及ぶ可能性があるのがタイヤだ。
もちろん気温が低ければ、マシンの全体に影響を及ぼす可能性がある。しかし路面まで冷えてしまうと、タイヤがパフォーマンスを発揮できる温度まで温まるまでに時間がかかる可能性がある。
タイヤが冷えたまま走行するとグリップが足りず、ドライバーは扱いに苦労することとなるだろう。ただでさえ気温が低いにもかかわらず、タイヤに熱を入れるのに適した高速コーナーは少なく、さらに直線がものすごく長いことでタイヤが冷えてしまう。他のグランプリではオーバーヒートを避けることが重要な場合が多いが、ここでは逆に、タイヤを温め続けるのに苦労するかもしれない。
グリップが低いということは当然マシンが横滑りしやすくなるということを意味しており、タイヤのトレッド面にグレイニング(ささくれ摩耗)が発生しやすくなることも予想される。
なお今回のグランプリ開催に向けて、ラスベガス市街の舗装が一新された。ただ、セッションが行なわれない時間帯は、コースが一般車が通行できるように開放される。このことにより、路面にラバーが乗ることを防いでしまうはずであり、セッションが進むにつれてグリップが上がっていく(路面が改善していく)効果はあまり期待できないとも考えられる。
ブレーキにも影響を及ぼすだろう。F1マシンはカーボン製のブレーキディスクを使っているが、このカーボンブレーキは500℃から600℃まで温まらないとうまく作動しない。急減速のシーンなどでは、1000℃を超える場合もある。
しかしブレーキディスクが冷えてしまうと、制動能力が大幅に低下する可能性があり、制動距離が長くなってしまう。そのため、ブレーキングポイントでロックアップするシーンや、場合によっては減速しきれず、ウォールに激突してしまうシーンが多発するかもしれない。
■ラスベガスGPは、歴史上最も寒いグランプリになるのか?
前述の通りラスベガスは砂漠地帯にあるため、夜間は気温が急激に下がる。過去の記録で言えば、11月の最高気温の記録が31℃なのに対し、最低気温の記録はマイナス9℃。さすがにそこまで下がることはないとみられているが、それでも11月の最低気温の平均は8.1℃である。12月ともなれば、3.7℃まで最低気温の平均は下がる。
もし気温が5℃を下回るようなことがあれば、F1史上最も寒いレースとなる可能性がある。わずかながらも雨が降る可能性があり、もし本当に雨が降ることとなれば、さらに難しいレースとなるかもしれない。
なおF1の歴史上最も寒かったレースは、1978年のカナダGP。舞台は今と同じモントリオールである。
カナダGPは今でこそ初夏に開催されるが、同年は最終戦として10月8日に決勝レースが行なわれた。モントリオールは緯度が高く、10月でも日中の平均気温は9℃。同GPでは気温が5℃まで下がった。しかもレース後に行なわれた表彰式では雪が降り始め、表彰台に立つドライバーたちは防寒具を身に纏った。
このレースは、ジル・ビルヌーブが初優勝を飾ったグランプリとしても知られている。
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