2023.10.22

「このまま日本に居続けるのは違う」WECスポット参戦で世界への想いを一層強めた宮田莉朋。TGRヨーロッパをうならせた“速さ以外”の要素

Masahide Kamio

 スーパーGT・GT500クラスとスーパーフォーミュラという国内トップカテゴリーにTOM'Sから参戦する宮田莉朋は、両カテゴリー共にポイントリーダーとして最終戦に臨む。弱冠24歳にして、2020年の山本尚貴以来となる国内カテゴリーの“2冠”も視野に入っている。

 そんな宮田は今年5月、TGR WECチャレンジドライバーに選出されたことが発表された。宮田は既にル・マン24時間レースをはじめとしたWEC(世界耐久選手権)のレースでTOYOTA GAZOO Racingに帯同しており、9月の富士戦では代役出場という形で、急遽LM-GTE Amクラスでケッセルレーシングのフェラーリを走らせ、WECデビューを果たした。

 このWEC実戦デビューが、宮田にとってはかなりの刺激になった様子。チームへの帯同という形ではなく、実際にレースに出たからこそ感じたこと、いつも国内レースで走っている富士スピードウェイが舞台だからこそ感じたことがあったようだ。

「細かいレギュレーションや、レースの時にチームがやっていることが日本と全然違う。それを感じたのがWEC富士でした」

 宮田はそう語る。

「自分の目指すところがよりハッキリ見えたし、正直このまま日本に居続けるのは違うな、と感じました」
 日本と世界の違いを実感した具体的な事例について、宮田は次のように説明した。

「例えばレギュレーションの面で言うと、スーパーGTでは参加台数がWECと同じかそれ以上に多く、ピット作業でGT300とGT500のマシンが重なった時にどのような向きで止めるかがいつも大変です。隣のGT300のチームと(ピットインのタイミングが)被ってしまわないように、隣がいつ入るかを確認しないといけません」

「ただWECでは、そもそもピットでの停止位置が決まっています。停める時は斜めでもOKですが、一旦プッシュバックさせて枠内に止めてから、ジャッキを上げてタイヤ交換をします。混雑した時に斜め止めになるチームが、そのまま斜めで作業をして良いというルールがWECにはないんです。もちろん、それによる有利不利といった要素が出てくるのかもしれませんが、僕はそういうところも良いと思いました」

「ペナルティを監視するものも、よりデジタルでした。4脱(トラックリミット違反)も日本でやっているような物と違い、別でカメラを用意したり、そういう細かいところも印象に残りました」

「GTEクラスに関しても、ジェントルマンドライバーがいるから『ジェントルマンのレースでしょ』というような見方をされているかもしれませんが、いざやってみたら全然違うし、レベルがものすごく高いです。プロドライバーとジェントルマンの関係性も、よりビジネス色が強いです」

「巷では『GT500はハイパーカーよりも速い』みたいな議論がありますが、そういった速い遅いの次元ではなく、レースやチームの価値観が全然違いますし、ドライバー像も違います。日本に居続けたらこのまま萎縮してしまうと感じましたし、だからこそ1年でも早く海外に行きたいと思いました」

 “世界”への想いを力強く語った宮田。来季の参戦カテゴリーについては発表されていないが、WECのLMGT3クラスではないかと言われている。

 本人の口からは具体的なカテゴリーへの言及はなかったが、「TGR-E(TOYOTA GAZOO Racing ヨーロッパ)の方とも話をしていますが、概ね固まってきています」としつつ、急転直下でマクラーレンF1のリザーブドライバーの就任が決まった平川亮の例や、自身の急遽のWECスポット参戦を引き合いに出し、「何が起こるか分からない世界。それが上のカテゴリー(ハイパーカー)かもしれないし、逆に(海外に)行けなくなるという可能性もある」とした。



■幼少期から鍛えた語学力がチャンスを手繰り寄せた

Masahide Kamio


 いずれにせよ、宮田が将来的なTOYOTA GAZOO Racing WECチームのドライバー候補であることは間違いないと言えるだろう。数ある有力ドライバーの中からチャレンジドライバーに選出された宮田だが、TGR-Eからはどんな点が評価されていると感じるかと問うと、彼は“語学力”を挙げた。

「自分で挙げるつもりはないですが、自分がこのプログラムに選出されるきっかけになったのは、昨年12月にシミュレータテストを受けて、問題なく(英語を)喋れたことだと思っています」

「12月だったのでクリスマスパーティなんかもあったのですが、そこにも参加してすぐに溶け込むことができました。そばで見ていた一貴さん(中嶋一貴/TGR-E副会長)にも『これはいけるな』と思っていただけたと思いますし、実際一貴さんにもメディアを通してそう言っていただけています」

 海外カテゴリーに参戦するにあたり、語学力はかなり重視される点だと言える。実際、トヨタのチーム監督であるロブ・ルーペンも、WEC正ドライバーになるにあたっては「パフォーマンスも重要な一方、言語を話せるかどうかやメンタリティも重要」としている。

 既に海外のドライバーやスタッフ、メディアとも英語で円滑にコミュニケーションをとることができている宮田。しかし彼は帰国子女でもインターナショナルスクール出身でもなく、海外のレースカテゴリーに本格的に参戦していた経験もない。それでいて英語を話せるのにはいくつかの原体験と、本人の努力がある。実は筆者は昨年、彼の英語習得の背景について取材を実施していた。

 外国語を習得している両親の下で育った宮田は、幼少期から英会話スクールに通い、そこで英語に慣れ親しみ、英語の“ニュアンス”を掴んだ。そしてカートの世界選手権に参戦した時のメカニックからのアドバイスにも影響を受けたという。

「僕は中学生の時、カートの世界選手権でメカニックをしてくれた方に教えてもらったのが、当時ミシュランが出していたモータースポーツ用語辞典のようなものです」

「モータースポーツで使う用語などが、日本語や英語、イタリア語、フランス語、スペイン語などで書かれていて、その時はそれを覚えるだけ覚えました。それは今でも持っています」

 また宮田は英語のアウトプットという点では、間違いを恐れずにとにかく話すことを意識していると語っていた。

「英語は単数、複数、三人称など色々ありますが、僕も未だに完璧ではありません。そこは本来それほど重要ではないのですが、僕はそこで『間違った時に伝わるのかな』と考えちゃうタイプです。でもそういうのを考えちゃうと言えなくなるので、まず言うこと。それで伝わらなかったら調べて……そうやっていくと、またそこで勉強になります」

 このように宮田を突き動かしていたのは、何より世界でレースをしたいという思いがあるから。その思いが今、形として結実しようとしている。

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出典: https://jp.motorsport.com/wec/news/ritomo-miyata-interview-on-wec/10535693/
この記事を書いた人 戎井健一郎

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