
ついに開幕した2023年のF1日本GP。舞台となるのは鈴鹿サーキット……言わずと知れた世界屈指のドライバーズサーキットだが、近年は国内カテゴリーを含め、その走行ラインにやや変化が起こっている。これについて、日本のトップカテゴリーで活躍するエンジニアに話を聞いた。
以前と比べて走行ラインが大きく変わっているコーナー、その代表格がヘアピンだ。
1990年代や2000年代のオンボード映像を見ると、ドライバーはヘアピンの進入でインを突き、イン側の縁石をかすめるようなライン取りをしていることが分かる。しかし、今季の日本GP初日に行なわれたフリー走行1回目を見ても分かるように、現代のF1マシンはコーナーのエイペックス(頂点)を外すような形で、ややアウト側からヘアピンを回っている。
実は今季のスーパーフォーミュラでも、F1と似たような傾向が見て取れる。予選オンボード映像を見ると、F1のようにエイペックスを外してヘアピンを回るマシンが多く見られるのだ。
こういった新たな“トレンド”はどういった理由が考えられるのか? F1に次ぐ速さを誇ると言われるスーパーフォーミュラで野尻智紀を2年連続チャンピオンに導いた国内トップエンジニア、一瀬俊浩氏に聞いた。
そもそも鈴鹿サーキットは、S字やスプーンといった、大きなダウンフォースを必要とする高速コーナーが特徴のコースである。一瀬エンジニアはマシンのセッティングについて、スーパーフォーミュラなどでも「ぶっちゃけ(低速コーナーの)ヘアピンは無視してクルマを作っています」と説明する。高速コーナーを速く駆け抜けるためには、フロアで大きなダウンフォースを発生させなければならない。そのためには、車高をできるだけ低い位置で安定させ、走行する必要がある。それを実現するためには必然的に、サスペンションのセッティングはいわゆる“硬め”の方向となる。
ただその一方で、硬いサスペンションだと低速走行時に十分なグリップが得られないと一瀬エンジニアは指摘する。そのため現代のF1マシンは、なるべく車速を落とさないように大回りし、ダウンフォースを得ながら旋回しているのでは……というのが一瀬エンジニアの仮説なのだ。車速が速ければ速いほど、ダウンフォースの発生量は増すからだ。
特に近年のF1マシンは車両の下面で大きなダウンフォースを発生させるグラウンドエフェクトカーとなっている。実はスーパーフォーミュラも今季から導入された新車両『SF23』では、ダウンフォース発生におけるフロアへの依存度が上がった。こういった傾向が、ヘアピン進入ラインの変化に拍車をかけている可能性がある。
「ハイスピード側にクルマを合わせると、車高変化を規制してダウンフォースを稼ぐために、サスペンションが相対的に硬めになります。ただ、そうなると低速側はグリップせずに小回りができなくなります。だから少しでも車速を稼いでダウンフォースを加えることで、そのネガティブな点を打ち消す走りをせざるを得ないのではないかと思います」
「そもそもF1でそれが主流なのは、ダウンフォース総量が多いことで足回りが硬いんだと思います。去年からグラウンドエフェクトカーになり、下面でよりダウンフォースを出しに行くようになったことで、より厳しく車高制御をしていると思います」
そう分析する一瀬エンジニア。さらにこう話した。
「また、小回りをするとなると、風が前から入りにくくなると言いますか……コーナーのRが小さい(より鋭角なコーナー)ということは、クルマの正面から風を受けられず、斜めから風を受けることになります。そうなると、ウイングやフロアの機能が低下します。だから大回りをして、できるだけダウンフォースを確保したいという側面もあるのではないかと思います」
またその一方で、スーパーGTのGT500車両も現代ではフォーミュラカー並みのダウンフォースマシンとなっているが、スーパーGTではタイヤ開発競争の存在によってハイグリップなタイヤが供給されているため、それによって小回りを効かせられているのではと一瀬エンジニアは言う。
■最終コーナーの通過ラインにも興味深い点が!

続いて鈴鹿の最新トレンドとして気になるのが、予選アタックラップにおける最終コーナー立ち上がりのラインだ。
最近では特にスーパーフォーミュラを中心とする国内カテゴリーのレースでは、いわゆる“インベタ”で最終コーナーを最短距離で立ち上がり、ピットウォールをかすめながらコントロールラインを通過するドライバーが多く見られる。ただ昨年のF1日本GPの予選を見ると、マクラーレンのランド・ノリスやフェラーリのカルロス・サインツJr.など一部のドライバーがインベタラインを走行していたものの、そのラインを通るのは少数派であった。
このインベタラインの有効性については「カテゴリーとセットアップで変わってくる」と語る一瀬エンジニア。ただ、近年見られるようになったばかりのインベタラインは、最近のグラウンドエフェクト化によりF1もスーパーフォーミュラも通るのが難しくなっているのではないかと話した。
「今年のスーパーフォーミュラ第3戦を見ると、みんなインに寄るのに苦労していた印象です。確かにコントロールライン手前ではインに寄るんですけど、そこにいくまでに結構アウトに膨らんでいました」
「フロアで多くのダウンフォースを出すようになっていると、低速側のダウンフォースを稼ぐのが厳しいので、シケインから立ち上がっていく時の加速ではダウンフォースが足りず、インに寄れるだけの余力はないのではないでしょうか」
「F1に関しては、そもそもパワーが違っています。F1くらいパワーがあると、加速する上で縦方向にいっぱいタイヤの力を使っているので、横方向にあまり力をかけられないんだと思います」
また、NIPPOコーナー(旧ダンロップコーナー)への進入を見ても、最近のF1ではイン側にある路面のギャップを嫌ってややアウト気味に旋回しているマシンもあると指摘する一瀬エンジニア。先述のヘアピンやシケインのライン取りも含め、「今まで以上に車高を安定させることを意識して走らせているのが、そういったライン取りに繋がっているのだと思います」と総括した。
今週末のF1日本GPでは、こういった各車のライン取りに注目して観戦するのもアリだろう。
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