
ベースモデルのWLTCモード燃費は23.2km/L
フィアット「600 Hybrid(セイチェント・ハイブリッド)」に乗って、ヒットの予感がした。筆者の予想なんてまったくアテにはならないけれど、これならきっと、フィアット 500(チンクエチェント)のよき後継車になってくれるに違いないと感じた。
600 ハイブリッドは、2024年に発売されたピュアEV「600e(セイチェント・イー)」とプラットフォームを共有するマイルドハイブリッド車だ。ベースとなるのは旧PSAグループが開発したモジュラープラットフォーム「CMP」で、そのフロントコンパートメントには直列4気筒1.2リッターターボのマイルドハイブリッドシステムを搭載している。
よってボディサイズも、フィアット600eとまったく同じだ。具体的には4200×1780×1595mm(全長×全幅×全高)の小ぶりな5ドアハッチで、ジャンル的にはBセグメントのコンパクトSUVとなる。ちなみに500e(チンクエチェント・イー)よりも全長で570mm、全幅で95mm長く、全高は65mm高い。そして乗車定員も1名増えた5名となる。またフィアット 500X(4380×1795×1610mm[同])と比べると、少し小さい感じだ。
日本仕様のグレード体系は、いたってシンプル。ベースグレードは受注生産で、上級グレードは今のところ今回試乗した「ラ・プリマ」のみの2グレード展開となる。
見た目の違いはベースグレードが16インチタイヤに樹脂カバー付きスチールホイールを履くのに対し、ラ・プリマが18インチタイヤにアルミホイールを組み合わせる。それ以外ではLEDフロントウインカーや、クローム仕上げとなるサイドウィンドモールディング、グロスブラック仕上げのミラーキャップの有無くらいだ。






ユーティリティではハンズフリーパワーリフトゲートと、高さ調整機能付きカーボフロアー、センターアームレストの有無。安全装備はベーシックでも多くの機能を標準装備としているが、アダプティブクルーズコントロールとドライビングスポットモニター、そしてレーンポジションアシストという、いまどき外したくない機能が付いていることを考えると、ラ・プリマが売れ筋となるのは間違いなさそうだ。










要のパワーユニットは、フィアット初の48Vマイルドハイブリッドシステムだ。エンジンはフィアットが長らく熟成させてきた直列3気筒1.2リッター「EB2」型(136PS/230Nm)を搭載しているが、今回のハイブリッド化に伴いシリンダーヘッドを新設計。さらに耐久性を高めるためチェーン駆動に変更するなど、約7割の部品が刷新された。
またミラーサイクルエンジンでターボ化し、11.5という高圧縮を実現。さらにVGT(可変ジオメトリータービン)を採用して低回転でのトルク不足を補いながら、高出力化に対応。2機の電動ウォーターポンプで熱対策を行なうなど、見えないところにかなりのコストがかけられている。

その上で、この直列3気筒ターボには2つのモーターが搭載される。1つはいわゆるベルトドライブの発電用P0モーターで、エンジン始動や充電を担当。もう1つはトランスアクスルに組み込まれる駆動用P2モーター(定格出力6.3kW/最高出力16kW/最大トルク51Nm)となる。そう、トランスミッションは6速e-DCTとなったのだ。ちなみにシステム全体の出力は145PSだ。
48Vリチウムイオンバッテリの容量は0.8979kWhと小さいが、マイルドハイブリッドながらモーターのみで駆動できるのと、ベースモデルで23.2km/L、ラ・プリマで23.0km/Lという燃費が自慢だ(共にWLTC値)。燃料はハイオクになってしまうけれど、この数字はルノーの新型「キャプチャー」(ストロングハイブリッド)とほぼ同数値だ。
アクセルを踏んでもハンドルを切ってもワクワク

気になる走りは、とっても快適。そして静かだった。
筆者は古いタイプだから、静粛性がフィアットの魅力だとはまったく思わない。むしろツインエア時代の空冷バイクのようなにぎやかさは大好物だが、それでもこのジェラートみたいになめらかで爽やかなマイルドハイブリッドの乗り味は、既存のフィアットオーナーたちをおどろかせるだろう。
モーター走行をしたいなら、アクセルはそっと。一応の条件としては「SOCが50%以上あり、30km/h以下の場合、約1kmのモーター走行が可能」とのことだが、要するに電池残量が小さいため、アクセル開度が大きいとすぐにエンジンがかかってしまう。
しかし条件がかみ合うと、かなりの距離をモーターだけで走ることができておどろいた。たった1kmというなかれ。これなら早朝や深夜でも静かに動かせるし、たとえエンジンがかかってもうるさくはない。
となるとEVモードがあった方がよいのでは? とも思ったが、よりバッテリ容量が多い国産ハイブリッドでEVボタンを押しても、SOC次第で「EVモードに現在切り替えできません」のお約束メッセージが出るくらいだから、必要ないかと考え直した。できないときはできないし、できるときはできるということだ。
ちなみに600 ハイブリッドにはEVモードどころか、いわゆる「エコ/ノーマル/スポーツ」という定番のドライブモードすらない。パスタで言えばペペロンチーノくらいシンプルなクルマである。

街中を普通に走っているときのステアリングはちょっと軽い。理由は低速時における電動パワステの制御が強いのと、18インチタイヤの転がり抵抗が低いからだろう。男性目線だと少し軽すぎる気もするが、これなら女性でも取りまわしがラクそうだ(最小回転半径は5.3m)。
また高速道路でACCを起動させれば、ステアリングが座って直進安定性が高まる。今回はさほど距離を走れなかったが、カーブでも操舵支援は素直だと感じた。
乗り心地は、硬過ぎもせず柔らか過ぎもせず。この足には16インチタイヤの方が合いそうだが、いま風のスッキリとした乗り味だ。トランスミッションが従来のシングルクラッチ式デュアロジックから6速eDCTへ変わったことで変速時のピッチングが抑えられているのも、スムーズな乗り味に貢献している。

対してリアサスがトーションビームということもあるのか、後部座席はちょっとだけ突き上げ感がある。アームレストもアシストグリップもないから、革シートだと若干体が支えにくい。しかし振動そのものはうまく減衰できているし、足まわりがこなれてきたらもっと乗り心地はよくなるはず。
足もつま先はシートの下、レッグスペースもとりわけ広くはない。正直大人が長距離移動すると広々としているとは言えないが、エマージェンシーシートとしては十分豪華だ。
ハイブリッドというと実用一辺倒なイメージだけれど、アクセルを踏み込んだときこそ、セイチェントらしさが発揮される。絶対的なパワーはさほどない。たとえば高速道路の追い越し加速では、その加速力をイメージして多少早めに、そして多めにアクセルを踏み込む必要がある。
しかしその要求に応えるかのようにVGT(可変ジオメトリーターボ)が、空気をたくさん取り込んで3気筒エンジンをめいっぱいまわす様子は楽しい。サウンドにエモさはまったくないけれど、代わりにとっても元気なまわり方をする。3気筒ゆえに排気干渉はないから吹け上がりそのものはスムーズだし、特有の振動もバランサーによってだろう、ちゃんと抑えられている。燃費を真摯に追い求めながらも踏めば“バーン!”とまわしてしまうのは、やっぱりイタリアン。
だから600 ハイブリッドを手に入れたら、きっと毎日が楽しくなると思う。スポーツカーでもなんでもないのにアクセルを踏んでもハンドルを切ってもワクワクして、どんどん出かけて行きたくなるはずだ。

ベースモデルで365万円、ラ・プリマで419万円という価格はBセグコンパクトのSUVと考えるとちょっと高い(600台限定で399万円のローンチエディションは狙い目だ)。もう少し安くて実用的なクルマがほしいなら、このあと出てくる新型「パンダ」がある。そしてもっとエモーショナルな走りがしたいなら、アルファ ロメオ「ジュニア」をどうぞ。
さらに言えば本国では500 ハイブリッドがすでに登場しているようだけれど(日本導入は未定)、とにもかくにも600 ハイブリッドは傑作だ。そしてこのハイブリッドシステムは、これからのフィアットを元気にしてくれると思う。

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