2025.5.30

黄金時代の再来だ! ジャガー『TYPE 00』が日本上陸、新戦略の狙いとは?

ジャガーTYPE 00
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昨2024年12月に米国マイアミでデビューし、議論を巻き起こしたジャガー 『TYPE 00』が日本上陸。5月16日に東京・天王洲で発表会が開催された。TYPE 00が指し示す新生ジャガーの方向性とは何か? 幹部たちが語った言葉から紐解いていこう。

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◆電動ラグジャリー・ブランド

TYPE 00は新生ジャガーの方向性を具現化したビジョンコンセプトモデル。事の発端は、ジャガーランドローバー(JLR)が2021年2月に発表した「REIMAGINE」の新戦略だ。2039年までに企業活動全体をカーボンニュートラルにしていく。その一環として、ジャガーを「2025年にBEVだけのラグジャリーブランドとして再出発させる」と打ち出した。

これに伴い、すでに開発の最終段階にあった次世代『XJ』をキャンセル。さらに2024年5月にキャッスルブロムウィッチ工場での『XE』、『XF』、『Fタイプ』の生産を終了し、同年12月にはオーストリアのマグナ・シュタイヤーに委託していた『E-PACE』と『I-PACE』の生産も打ち切った。

レンジローバーなどと同じソリハル工場での『F-PACE』の生産は少量ながら来年初頭まで継続されるが、英国での新車販売はすでに24年11月に終了。現在は日本でも、F-PACEも含めてすべての在庫を売り切り、新規受注が停止している。

しかし新型BEVの発売は来年の2026年だ。それまで販売店からジャガーが消える。そこまでしてジャガーを生まれ変わらせなくてはいけない理由とは何だったのか? 

◆妥協をなくしてcopy of nothing

発表会でJLRのエイドリアン・マーデルCEOは「我々は2019年に会社を完全にリセットした」と語った。19年と言えば、元ルノーのティエリー・ボロレがJLRのCEOに就任した年だ。財務畑が長いマーデルはCFO(最高財務責任者)としてボロレを支え、改革を推進。ボロレの退任に伴って2022年12月に暫定CEOに就き、翌23年7月に正式にCEOとなった。

「今では2019年時点の半分の販売台数でも利益が出るようになった」とマーデルCEOは損益分岐点を大幅に引き下げた実績を語り、「そのおかげでコロナ禍や半導体不足といった嵐を乗り越えることができた」。実際にJLRは2025年1~3月期まで10期連続で黒字の四半期決算を残している。レンジローバーやディフェンダーという収益率の高いブランドの好調ぶりがその要因だ。

「次はジャガーの番だ。ジャガーはこの素晴らしい会社の3つ目の成功ブランドになる」とマーデルCEO。彼は幼少期に『Eタイプ』に憧れ、90年にジャガー・カーズに入社した生粋のジャガーマンだ。「我々はジャガーにビッグブーストを与え、エンジニアに独自のアーキテクチャーを開発するように指示した。美しく活気に満ちたジャガーを設計できるようにするためだ」

キャンセルされた次世代XJは、現行レンジローバーとMLAアーキテクチャーを共有していた。ICE/BEV兼用のプラットフォームだ。しかし新生ジャガーはBEV専用に新開発したEMAアーキテクチャーを採用する。

「共有アーキテクチャーによる妥協をなくし、再び『copy of nothing』をやる」。copy of nothing=何も真似しない。ジャガー創業者のウィリアム・ライオン卿が残した言葉である。そして「技術的にも優れたものになる。路上で最良のBEV、いやそれ以上だ。ジャガーの精神とDNAのエッセンスを持ち、あるべき姿を体現するジャガーになる」と力強く語った。

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◆絶頂期のジャガーに戻す

続いて登壇したのはジャガーのマネジングディレクター、ロードン・グローバー。JLRでジャガーを統括するトップだ。彼は1960年以降の生産台数の棒グラフを示し、変革の必要性を語った。

「90年近いジャガーの歴史の大半において、我々は世界で最も美しく、世界で最も望まれるセダンとスポーツカーを作ることで知られていた」とグローバーは創業期から90年代までを振り返る。なるほど『Dタイプ』やEタイプ、初代XJなど、錚々たる名車があった。

「より最近の過去20年余りは量産プレミアムのセグメントに入った」。99年の『Sタイプ』や2001年の『Xタイプ』に始まり、『XE』や『XF』、そして一連のSUVへと続いたわけだが、「このセグメントは生産と購買の効率に支配されるため、ジャガーが繁栄することはできなかった」。

「ジャガーの次のステップはどうあるべきか? 我々は未来を見据えるために過去を振り返った。我々が自分たちの生きる場所だと信じるところに、ジャガーを戻す」とグローバー。戻るのはもちろん90年代以前だ。もう量を追わない。

「我々にとってヘリテージはとても大事だ。しかし前を向かなくてはいけない。ヘリテージを持つブランドとヘリテージブランドは違う。(中略)我々が作るクルマを、絶頂期だった頃のジャガーのようにアイコニックなものにする。それはドラマチックで、存在感があり、路上で他の何にも似ていないジャガーだ」

こうしたクルマ造りのコンセプトを、ジャガーは「Exuberant Modernism」と呼ぶ。Exuberantは活気溢れる、熱狂的なといった意味だが、日本人には解釈が難しい。それを察してグローバーはスピーチのなかで、その名詞形の「Exuberance」をキーワードとして挙げ、「Exuberanceはbold=大胆で、disruptive=破壊的で、daring=勇敢なものだ」と説明した。他社ではなかなか聞かないキーワードである。

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◆BEVの常識を破るプロポーション

TYPE 00のサイズは未公表だが、全長5mはありそうな大柄な2シーターの2ドアクーペだ。新生ジャガーの製品第一弾は4ドアGTだと明らかにされているが、グローバーは「我々には量産車に非常に近いコンセプトカーを披露してきた歴史がある。TYPE00の純粋さは間違いなく量産車にも維持される」と、このデザインが4ドアGTにつながるものであることを強調した。

とはいえ、これほど長大なボンネットはTYPE 00だけの特徴に違いない。マイアミの発表会でJLRのCCO=チーフクリエイティブオフィサーでデザイン統括でもあるジェリー・マクガバンは、「息を吞むプロポーションを見てください。これこそExuberanceが意味する真髄だ。長いボンネットは電気自動車デザインの常識に合致しない」と語っていた。

型に嵌まらない姿勢を示すために、TYPE 00をあえて長いボンネットのクーペにしたと考えればよいだろう。マクガバンはミュージシャンのデイヴィッド・ボウイや建築家リチャード・ロジャースの名前を挙げて「英国の創造性がその頂点にあるときはいつも議論を巻き起こすものだ」とも告げ、こう続けた。

「同じように、ジャガーが頂点にあるとき、カーデザインのルールブックを投げ捨てる。創業者のウィリアム・ライオン卿はかつて、ジャガーは『copy of nothing』であるべきだと語った。過去に囚われることなく、勇敢で、恐れず、何もコピーせず、新たな欲望の対象を生み出す。これらはまさに私がチームに指示した言葉だった」

TYPE 00に往年のEタイプの面影を探してはいけない。1999年のSタイプは60年代のSタイプ(初代XJの前身)をモチーフにデザインし、2001年のXタイプは初代XJのスタイル要素を取り入れた。それらが功を奏さなかった過去を、新生ジャガーが繰り返すはずもないのだ。

◆シンプルすぎるから戸惑う

マイアミでは2台のTYPE 00が展示された。ボディカラーはそれぞれ「マイアミピンク」と「ロンドンブルー」。東京・天王洲にやってきたのは、残念ながらロンドンブルーのほうだった。こちらはダークなガラス越しに見える範囲だけしかインテリアが表現されておらず、ドアも開かない。

したがってインテリアは広報写真(実際にはCG)で見るしかないが、エクステリアに比べれば、巻き起こす議論は穏やかかもしれない。真鍮のガーニッシュを嵌めた高いセンターコンソールで空間を左右に分け、インパネは水平に延びる。運転席と助手席それぞれのディスプレイは、スイッチオフのときはインパネに格納されている。

エクステリアもインテリアもシンプルなデザインだ。そこにアクセントを添えるのが、「ストライクスルー」と呼ばれるルーバー状の水平線。エクステリアではフロントグリルとカウル部分、リヤエンドに、インテリアではインパネ上面に水平線が並ぶ。

英語のstrike throughは取り消し線を意味する名詞だが、ジャガーでブランドデザインを担当するチーフデザイナーのミッチェル・クロフォードによれば、「常識を打破する」という新生ジャガーの意欲を表現するデザインとのこと。新しくなった「リーパー」(跳躍するジャガー)のグラフィックの背景にも、ストライクスルーがあしらわれている。

TYPE 00のデザインに戸惑うジャガーファンがいるとしたら、それはデザインがシンプルすぎるからかもしれない。言い換えれば幾何学的だ。立体造形としての完成度は高いが、手の温もりに乏しい。ただ、これは短期開発のコンセプトカーではありがちなこと。年内にはデビューするであろう4ドアGTには、19世紀から英国に続くアーツ&クラフトの伝統を再発見できるよう期待したいものだ。

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出典: https://response.jp/article/2025/05/30/396382.html
この記事を書いた人 千葉匠

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