2025.5.29

衝突被害軽減ブレーキが装備されたクルマでも衝突事故が起こるのはなぜ? 障害物やクルマが迫っても作動しないケースとは

衝突被害軽減ブレーキが装備されたクルマでも衝突事故が起こるのはなぜ? 障害物やクルマが迫っても作動しないケースとは

この記事をまとめると

■2021年11月以降日本で販売される新車には「衝突被害軽減ブレーキ」の装備が義務化された

■「衝突被害軽減ブレーキ」が装備されていても事故が発生する可能性は十分にある

■衝突までの時間がなかったり天候不良でシステムが動作しないことが主な原因だ

衝突被害軽減ブレーキがあるのになぜ事故が起こる?

 2021年11月以降、日本国内で販売される新車については「衝突被害軽減ブレーキ(Advanced Emergency Braking System ※以下:AEBSと表記)」の搭載が義務化されている。

 それ以前にもAEBSの搭載モデルは少なくない状況だったことや、平均的な使用年数が13年程度であることを考えると、現実的には街なかで見かけるクルマの多くにAEBSが搭載されているはずだ。

ホンダ・フリード(3代目)

 しかし、これほどAEBSの標準装備化が進んでいるにもかかわらず、交通事故の報道を見かけることが多い。ニュース映像に映る事故車両が新しいモデルだったりすると、「AEBSがついているはずなのに、なぜ(こうしたシチュエーションでの)事故を防げないのだろう」と感じることもあるのではないだろうか。

 あらためて整理すれば、AEBSとはカメラやレーダーによって前方にある障害物や車両、歩行者などを検知した上で、衝突が避けられないとシステムが判断すると自動的にブレーキをかけるというもの。衝突の回避や被害の軽減を狙うという先進安全機能の代表格として知られている。

自動ブレーキの作動イメージ

 もちろん、AEBSが万能ではないから事故が起きるのだが、事故に至るパターンは大きくふたつにわけることができる。

 ひとつは障害物を検知しているがブレーキの作動が間に合わなかった場合。もうひとつはそもそもAEBSが作動しなかったケースだ。

 障害物などを検知、アクシデントを予見していながらブレーキの作動が間に合わない理由を単純化すると、制動距離に対して対象物の検知が遅かったことが原因となる。

自動ブレーキのテストイメージ

 たとえば、急に自転車やバイクといった素早く動くモビリティが飛び出してきた場合、いまのセンサー能力では検知が遅れてしまうこともある。自車の速度がシステムの能力を超えているときも衝突を回避するタイミングに間に合わないことがある。

 また、交差点を曲がった先に歩行者が立っているようなケースではセンサーの検知が遅れてしまい、ブレーキが間に合わないことがある。最近のAEBSにおいて、交差点の右左折時に対応したシステムも増えているが、これらはセンサーの検知範囲を広角にして、死角を減らすことで実現している。

 そのほか、雪道など滑りやすい環境では、タイミング的にはAEBSが正常に作動していても、タイヤと路面のグリップが足りないために制動距離が伸びて、衝突を回避できないこともあるだろう。

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システムよりもドライバーの操作が優先される

 AEBSが作動しないケースでも悪天候に影響を受けることはある。とくに光学的なセンサーであるカメラは、大雨、濃霧、逆光といった条件においてセンシング能力が著しく落ちてしまう傾向にあり、AEBSの作動が遅れることもあれば、まったく作動しないこともある。

悪天候下でのドライブ

 センサーや制御系の異常や故障によるシステム停止もあり得るが、そうした場合はワーニングランプの点灯などでドライバーはAEBSのシステムダウンを把握できるだろう。

 しかしながら、過去にクローズドコースでAEBSを何度も試したことのある筆者の印象としては、AEBSの作動を妨げる最大の敵はヒューマンエラー、つまりドライバーにあると考えている。

 AEBSというのはアクシデントに対する運転支援であり、自動運転レベルでいうとレベル2となる。自動運転の分類においてレベル2というのは、クルマの操作についてドライバーが優先となる。

ACCの操作イメージ

 たとえば、システムが障害物を検知してブレーキをかけようとしたとき、ドライバーが強いブレーキングをすると人間側の操作が優先される。

 過去にクローズドコースで障害物を模した段ボールに向かってクルマを走らせ、AEBSが作動しそうなタイミングでドライバーがブレーキをかけて、すぐさまブレーキペダルから足を離すといった操作を試したことがある。

 このような操作をしたとき、AEBSが再び作動しなかった。再現性のあるレベルで発生したわけではないがドライバーの“不用意”な操作によってAEBSがキャンセルされたのだ。

 アクセルを踏み込んだときにも、ドライバーの操作が優先されることがある。

アクセル操作のイメージ

 AEBSのセンサーは障害物と認識しても実際には障害物でないケースもあるし、踏切のなかでAEBSが作動してしまったときにはドライバーのアクセル操作を優先しなければもっと大きな事故につながってしまう。ドライバーのアクセル操作を優先とするロジックにすることは不思議ではない。

 AEBSは、あくまで自動運転レベル2に分類される先進運転支援システムであるから、ドライバーの操作がオーバーライドされる。つまり、人間が間違った操作をし続けていると、AEBS側ではどうにもできないことがあり得るのだ。

 そのために、最近のクルマにはドライバーの誤った操作に対応する安全装置として、ペダル踏み間違いや急激なアクセル操作に対応した急発進抑制機能を用意しているケースが増えてきているが、それでも完璧ではない。

急発進抑制機能のイメージ

 AEBSに代表される先進運転支援機能は、ドライバーのミスに由来するアクシデント発生を低減してくれるシステムであるが、自動運転レベル2の範囲であり、最終的にはドライバーの操作が優先してしまうという点で、ヒューマンエラーを完璧にカバーできるわけではない。AEBSが義務化された時代においても、ドライバーは安全運転を十分に心がける必要があるのだ。

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出典: https://www.webcartop.jp/2025/05/1626574/
この記事を書いた人 山本晋也

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