- 2025年6月3日 開催

パナソニック オートモーティブシステムズ(PAS)は6月3日、中長期戦略や新ビジョンなどについての説明会をコングレスクエア日本橋(東京都中央区日本橋)で開催した。
PASは2024年12月、Apollo Global Management Inc.をはじめとするアポロ・グループ(アポロ)がパナソニック ホールディングス(PHD)からPASの株式の80%を取得したのに伴い、アポロとの戦略的パートナーシップに基づく新しい経営体制へ移行。この新たな経営体制の下での中長期戦略や新ビジョンなどについて、パナソニック オートモーティブシステムズ 代表取締役社長の永易正吏氏が説明を行なった。
同社は2003年にパナソニックグループの社内分社として発足。カーナビを始めとするさまざま商品を世に送り出すことで事業規模を拡大し、近年は1兆円を超える売上規模の企業にまで成長した。2024年度にはこれまでのビジョンをアップデートし、目指す姿として「世界一の『移ごこちデザイン』カンパニー」を策定。安心・安全はもちろんのこと、移動体験に価値をもたらす“移ごこち”をデザインしていくという。


現在、PASとしてはコクピットまわりをつかさどる「インフォテインメントシステム事業」と、車内空間全体をデザインする「モビリティUX事業」を主な事業とし、インフォテインメントシステム事業ではコクピット統合ソリューションなど、性能や機能の進化の中心がソフトウェアになっていく、いわゆるクルマのSDV(Software Defined Vehicle))化を見据えた次世代のインフォテインメント機器を展開している。また、モビリティDX事業ではヘッドアップディスプレイやプレミアムサウンドシステムなど、車内を快適な移動空間にするさまざま製品を展開している。主要商品の中にはグローバルトップクラスの商品も多数あり、例えばディスプレイオーディオでは世界1位、IVI(In-Vehicle Infotainment)システムでは世界2位のシェアを誇るという。
そして、直近の米国資産運用会社であるアポロとのパートナーシップについて永易社長は、「2023年の基本合意から着実に準備を進めまして、昨年12月に資本構成をアポロ80%、パナソニックホールディングス20%という新体制に移行いたしました。当社はこの戦略的パートナーシップをもとにアポロの知見を大いに活用しながら、パナソニックのグループ経営にとらわれない、思い切った経営改革を行ない、さらなる成長を目指してまいります」と説明。



一方、外部環境の変化についての説明も行なわれ、自動車業界全体を俯瞰して見るとグローバルでの車両生産台数はコロナ禍の半導体不足から回復し、2030年にかけて緩やかに増加する見通しとしたが、地域別では日本は減少、欧米は維持傾向、中国とインドは増加と予測する。これについて永易社長は「生産台数は緩やかな成長の見通しですけれども、一方でクルマの市場は100年に一度の変革期で、今後も大きく変化していくと予測しています。自動車業界のトレンドとして、まず重要なのが“クルマの知能化”であります。AIや自動認識、音声認識技術の進化によりまして、自動車は単なる移動手段を超えて、ユーザーと対話できるパートナーへと変わりつつあります。自動運転による制御だけでなく、声をかければ答えてくれるといった、そんな双方向のコミュニケーションが可能なクルマがこれからの時代を走っていくと思われます。このような自動車の知能化に伴いましてSDV化が進展し、車載ソフトウェア開発規模は飛躍的に大きくなっています」と述べる。
もう1つのトレンドが“多様化”で、自動運転の登場によって運転形態の柔軟化や運転観の変化が起こり始めているといい、「高齢化によるドライバーの年齢層の広がり、シェアリングなど所有にとらわれない使用形態の広がりなども起こっています。このように多様化する環境下では、1人ひとりに寄り添った価値提供が大切になってまいります。このような知能化や多様化といった市場トレンドにより、自動車の差別化ポイントは従来のいわゆる走る・曲がる・止まるといった走行性能から変化してきています。ユーザーの中では、移動時の体験価値や快適な車内空間を求めるニーズが高まっておりまして、いわゆるUX価値の向上が新たな差別化ポイントになっています。これらの状況に対し、当社は今まで培ってきた暮らし、人に寄り添う技術を生かしまして、コクピット領域と車内空間で心地よい移動を作り出すことに貢献してまいります」と解説した。




そしてこうした新しい価値創出の実現を目指す中長期戦略について触れ、中長期視点での企業価値向上を見据えた変革に最優先で取り組んでいくという。キャッシュフローの改善に向けて経営体質の筋肉質化を進めていくとし、筋肉質化によって成長原資を確保し、戦略的投資を実行していく。並行して資本市場に評価される魅力的な成長ストーリーの構築、その実現に向けた戦略を実行し、持続的な成長の通過点としてIPO(新規公開株)も目指していく。
また、PASで今後重視する経営指標などについても説明し、今後はE-C(EBITDA-CAPEX)を重視していく。永易社長は「E-Cは営業利益に減価償却費を加えたEBITDAから、有形投資に無形投資を加えたCAPEXを差し引いた値で、事業が創出したキャッシュのうち、当該年度で手元に残るキャッシュを表しています。当社はこれまでパナソニックグループ共通の指標として売上高や営業利益、ROICなどを用いて業績を評価してきました。しかしながら今後は中長期的に戦略実現、かつIPOを見据えて、資本市場が企業の収益性を図るために重視する手法は何か。こういった観点で当社のキャッシュ創出力をより的確に把握することができるE-Cを重要な経営指標と定めました」と述べるとともに、「当社は特にここ3年で開発、ものづくりの両面においてオペレーション力を強化し、収益性を改善してきました。今後はさらなる経営基盤の強化を進め、2027年度には2024年度比で約3倍のE-Cを達成することを目指します。これまでの成長実績を踏まえても挑戦的な目標でありますけれども、スピード感を持って取り組み、結果にこだわりながら確実な達成を目指してまいります」と述べた。



3つの経営アジェンダを設定
こうした中長期経営目標の達成に向け、PASでは「経営スピードの飛躍的向上(組織変革)」「生産性・コスト競争力強化(筋肉質化)」「企業価値向上(コア事業戦略)」という3つの経営アジェンダを設定。

「経営スピードの飛躍的向上(組織変革)」については、「当社は今年度から、従来の事業部軸の経営体制を見直し、地域軸経営に転換いたしました。従来は事業部が商品戦略から販売に至るまでの意思決定権とP/L責任を持っており、事業の一貫性はある一方で全体の判断に時間を要していました。新体制では、事業部と日本を含む地域会社のそれぞれの役割を明確化し、日々の事業活動の管理および執行権限を地域会社に移譲することで、現地での迅速な意思決定を実現します。加えてオペレーション機能を統合し、グローバルでの標準化にも取り組んでいきます。これまでは事業部ごとにオペレーション機能が分断されておりまして、サプライチェーン全体の効率に課題がありました。新体制ではオペレーション機能を事業部横断の本部に再編し、グローバルでの標準化による生産性向上を図ります。こうした取り組みによりまして、経営スピードの圧倒的な向上を目指していきます」とした。

「生産性・コスト競争力強化(筋肉質化)」については、「当社はCTRO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)を外部から採用しまして、CTROが担当するVCO(バリュークリエーションオフィス)という組織を新たに設置しまして、キャッシュフロー改善に繋がる筋肉質化の取り組みを図っています。具体的には事業ポートフォリオの見直しによる選択と集中を通じた販売・収益の改善、機能や役割を見直し、既存人員によるスタンドアローン化の推進による間接人件費の改善、オペレーションや製造ラインの効率化を通じた直接労務費や製造間接費の改善、これらさまざまな施策を通じて経営の筋肉質化をスピーディーに推進してまいります」と説明した。

また、「企業価値向上(コア事業戦略)」では「当社は『コックピットHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)』と『キャビンUX』の2つの領域をコアとして企業価値向上を目指します。コックピットHPCの領域では、SDV化やAI技術の進展が想定される時代にあった車載コンピューティング技術の牽引役を目指します。当社が持つ各種車載デバイスとクラウドやデータ基盤を繋ぎ、CDC(コクピット・ドメイン・コントローラー)/HPCといった商品に落とし込んでいきます。また。キャビンUXでは1人ひとりに合わせた移動体験価値を創造、具現化していきます。価値の源泉として人を理解して車内空間を制御する『ひと理解ロジック』、これの構築を目指していきます」とコメント。

このコックピットHPCについて、永易社長は「現在コックピット領域では大きな変化が起きています。それがクルマのSDV化とHPC化です。これまで自動車の各機能はそれぞれ個別のECUによって整備されていました。しかしこれらのECUは統合され、ソフトウェア中心のアーキテクチャ、つまり統合型HPCへと進化しつつあります。この変化によってSDV化、つまり自動車の機能や価値がハードウェアではなくソフトウェアによって決まる時代が本格的に到来してきています。このような流れの中で、当社は日本のみならず、積極的にグローバルにコクピットHPC事業の顧客基盤を拡大し、2035年には世界No.1のSDVイネーブラーとなって売上高1兆円の事業規模に発展させてまいります」と力強く宣言。また強化領域としてソフトウェア開発リソースの増強、アーキテクチャ/プラットフォームの業界標準化、ハードウェア技術のさらなる取り澄まし、ADAS領域の戦略パートナーの確保の4点を挙げ、「これら4つの強化領域には積極的に投資をしていくつもりです」とも述べた。


キャビンUXについては、「従来は製品の個別機能の価値が重視されていました。しかし、今後は車内空間を全体として生み出す価値の提供が重視されていきます。このような価値変化が起こる中で、当社はこれまでに培ってきたくらし・人に寄り添ったノウハウ・技術で快適な車内空間を創造してまいります。これまでに培ってきたくらし・人に寄り添った技術をもう少し具体的に言いますと、センシングおよびアクチュエーションのデバイスと、その強みを最大限に生かす“ひと理解ロジック”の集積です。当社はこの3つの要素により生み出された人に寄り添う技術とノウハウを通じて、快適かつ安全で充実した移動体験を実現してまいります。単なるデバイスサプライヤーにとどまらず、車内空間全体を統合的に設計・構築し、新たな体験価値を具現化する“キャビンUXクリエイター”となりましてさらなる高みを目指していきます。このキャビンUX領域ではカーOEMとの競争を始めております。さまざまな車内空間の提案や検証もすでにスタートしています。今後、検証事例を通じて、車内空間での知見を蓄積し、さらなる事業成長を図ってまいります。すでにいくつかの展示会などで訴求も行なっておりまして、大変多くの引き合いをいただいております。これからモビリティサービスなどパートナーと一緒になりまして、ソリューションビジネスの展開もしてまいりたいと考えています」と説明している。


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