nepros『9.5sq.ラチェットハンドル NBR390A(価格:1万3860円/税込)』
良さを引き継ぎ、さらにその先を行く。微に入り細を穿つ、企画設計の地道な現場

ビギナーにとっても、クルマいじりに欠かせない工具の筆頭格がラチェットハンドル。クルマ好きならきっとひとつは持っているに違いない。
どのメーカー製品でも見た目にそれほど違いがないラチェットハンドルだが、大量生産品とプロも使う高級品では、造りも使い勝手も大きく違うのが実状だ。その違いは、実際に手で触れ、そして使うごとにより明確になってくる。
その最たる事例こそ、ここで紹介するネプロス『9・5sq.ラチェットハンドルNBR390A』だ。プロも認めるツール界のハイブランドがネプロスであり、そのネプロスが10年ぶりに徹底的に細部を見直して改良された最新モデルとなる。

10年ぶりの刷新でさらに軽量コンパクトに
使いやすさを追求し、各部が従来品より大幅に深化している点にまずはご注目。
一番の改良点は、ヘッドのコンパクト化。従来品に対して幅を4ミリも縮小している。これにより、狭い場所での作業性が確実にアップしていることは言うまでもない。
わずかな違いに思えるかもしれないが、もともと小さなヘッド内部にドライブギヤなどの機構を組み込んだギリギリの設計をしているため、さらなる小型化は至難の業。極限まで機構のぜい肉をそぎ落としていることが想像できる。

=選出理由=
スリム化を徹底する限界追求の試み
小型化のみならず強度も維持し、バランスも磨かれる
さらに、小型化だけでなくギアに嚙み合わせるクロウ部の段数を7段から8段に増やすことで力を分散し、小型化と強度を同時に実現している点も見逃せない。
また、一見中実棒に見えるハンドル部も独自の工法による中空構造である。従来品より中空部を拡大することで、10%の軽量化に成功しているというわけだ。軽さはもちろん、力を入れやすい絶妙な太さと重量バランスで使いやすさも磨かれている。
このように、高級品は徹底した作り込みで上質な使い勝手が追求されている。その素晴らしさは、クルマいじりが好きな人なら一度手に取ってみればすぐにわかるはず。それこそ長く使う相棒として、とっておきの存在になることは間違いない。

生みの親に聞く、製品リリースの舞台裏
KTCブランドのフラッグシップであるネプロスの、しかもラチェットハンドルともなれば、自動車用工具のなかでも顔中の顔と言える。さらに言えば、10年振りの大型刷新である。かなりの重責を任されたその人こそ、入社10年目の大西氏だった。
「入社したのは、この前のモデルが発売された頃。その後12・7sq.の9・55sq.より大きいモデルを担当し、その後6・3sq.の小さいモデルを設計しました。シリーズとしては一周した形ですね。前モデルの開発から10年が経つ頃に改めてこのシリーズを改良していこう、進化させていこうという流れになりました」。
大西氏は設計者でもあり、企画者でもあった。
「設計者であるので実現可能な数値を求めがちになりますが、そうではなく作れる作れないはさておき、企画者としての自分が、何を必要とされているかを考えていく必要がありました」。
聞くだけに、茨の道である。
「前モデルで評価を頂いていた良い重量バランスを引き継ぎながらも、さらに工具としてさらに深化させていく必要があります。ニーズを知り仕様をまとめると設計の思考になってきます」。
後継モデルにおける、最大の特長は軽量化である。
「本当に必要な部分は何なのかを考え、必要な部分は残し、削れる部分を除去していき今回の製品を作り上げました。手計算と試験を繰り返し得た知見を活かし、今回はコンピュータでの解析を駆使しさらに精度を高めました」。
構成部品のひとつ、クロウの形状などはその最たる例だ。
「小型化した分、さらに内部でもクロウがしっかり噛み合い、強度を持たせることが必要です。ラチェットの特性上、ギアとクロウを離脱させることも考えねばならず、小型化した分その点で苦労しました。初期の試作はギアは噛み合い、耐久試験や破壊試験をしても基準値以上でしたが、反対側に回した際にギアが空転してしまう。
個々の軸間を広げたり、幅を調整したり範囲の角度を変えたりと、微調整をかけていきながらようやく動くようになりました。この微調整というのはCAD上ではわかりづらく、実物を手作業で調整すると動くようになるので、それをCAD上で戻し、再設計をするというプロセスを繰返しより良い機構を創りました」。
それは、最優先とされる安全性の確保にもつながっている。
「このラチェットハンドルで言えば、万が一破損する際、差込角の根本が壊れる様に設計しています。仮に力を入れた時にギアが破断してしまうと結構な衝撃になってしまい、安全性を失ってしまうためです。KTCとしては安全を第一に考えているので、その様な無理な使い方をしても安全に壊れるような設計を優先します。
そのように部品ごとに破壊の序列をつけますが、時にオーバースペックになりがちです。解析と本物の試験をうまく活用して調和することにより、序列のギャップを小さくできる。この方法で理想的な無駄のないスペックに仕上げています」。

京都機械工具株式会社
T&M推進本部
商品企画部 汎用開発グループ
大西俊輔 氏
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